【社説】縮小する市町村 地域の持続へ発想転換を

「消滅可能性」は一つの見方である。名指しされても、うろたえることはない。

民間の識者でつくる人口戦略会議が、将来の人口推計を基に消滅可能性がある自治体を公表した。九州は約3割に相当する76市町村、全国では744市町村が該当する。

2020年から50年までの30年間に、子どもを産む中心年代の20~39歳の女性が半数以下になる見通しで、急速な人口減少に歯止めがかからないと分析している。

程度の差はあれ、九州の大半の市町村は人口減少から逃れられない。それを前提に、住民が安心して暮らし続けられる手だてを考えなくてはならない。人口戦略会議の警鐘を冷静に受け止めたい。

消滅可能性がある自治体は10年前にも公表され、大きな反響を呼んだ。歩調を合わせるように政府が始めたのが地方創生だった。

危機感を強めた自治体もさまざまな対策に取り組んだ。特に力を入れたのは移住者を増やすことではなかったか。その努力は否定しないが、全国の人口が減る中で移住者を奪い合っても限界がある。

自治体はこの10年の人口政策を検証すべきだ。政府から半ば強制されて作った地方創生の計画は、どれだけの効果をもたらしただろう。

人口政策は国力と結び付けられがちだが、自治体は地域と個人の暮らしを尊重する視点を欠いてはならない。人口や出生率の数字に振り回されず、いまの暮らしを持続可能にすることに努めてほしい。

少し先を見据え、地域のありたい姿を多世代の住民で描くことから始めたい。行政任せにするよりも、生活実感が色濃く反映されるはずだ。

これまでとは違い、地域づくりに発想転換が必要だ。過大になった公共施設の規模を見直し、複数の施設を一つにまとめるなど、地域を上手に小さくする工夫が要る。

子どもを育てる希望をかなえる方策は、若い世代への経済的支援ばかりではない。職場や地域で女性と男性が役割分担する環境づくりも、今日では重視される。

水道の維持管理のように、一つの市町村で解決が困難な課題は近隣の市町村や県との連携で乗り越えたい。従来よりも機能性の高い広域行政の検討が求められる。

政府による地方創生は芳しい成果が出なかった。東京一極集中を是正する目標を立てたものの、東京圏の人口はむしろ膨らむ一方だ。

大規模な開発はとどまるところを知らず、企業の集積も進んでいるのだから、当然の帰結と言える。一極集中を是正するのであれば、開発を抑制し、政治と経済の中枢が過度に集中している構造にメスを入れるべきだ。

少子化についても実効性のある対策を打ち出せないままだ。「消滅可能性」は自治体だけに突き付けた問題ではない。政府の人口政策のまずさに対する批判でもある。

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