空から見るニッポン。ただいま、北海道知床半島の上空です!

知床は流氷が着岸する南限で、世界自然遺産にも登録されている貴重な場所。北海道の大地から北東へ突き出す半島の背骨となっているのが知床連山で、最高峰は標高1661mの羅臼岳である。

雲を突き抜け、雲海の上で見えたのは

この日、知床半島斜里町の空は暗い色の雲に覆われていた。景色は全体的にどんよりしており、飛んでもあまりいい写真は撮れないかもしれないと思いつつ、とりあえずカメラを持ってモーターパラグライダーで離陸した。

ひとまずウトロの町周辺を空撮しながら徐々に高度を上げていく。雲に近づいていくと思ったよりも薄く、ところどころに隙間が空いていることに気づいた。

これはもしかしたら雲の上に上がれるかもしれないと思い、雲の切れ間に突っ込んでいく。雲の隙間を狙って飛んでいるとはいえ、周りは雲に囲まれているため、一瞬目の前が真っ白になる。しかしそのままエンジン全開で上昇を続ける。

上空から見たウトロの町と漁港。オロンコ岩とカメ岩が特徴的。
ウトロから知床峠へと続く国道334号。左上がプユニ岬。

するとそのうち上の方がぱーっと明るくなり、雲の上に抜けることができた。眼下では一面雲海が広がり、頭上は青空も見える。地上とは別の世界が広がっていた。

遠く雲海の先では知床連山の山頂部が頭を出していた。まるでラピュタでも見つけたかのような気分になり、興奮しながらシャッターを切っていると、飛んでいる自分の下に真円の虹が浮かんでいる。

このとき僕はまだブロッケン現象というものを知らず、一瞬何が起きているのかわからなかった。間違えて神の領域に足を踏み入れてしまったのではないかと思うくらい感動し、気がついたら大声で叫びながら号泣していた。

薄くなった雲の下には地上の景色も見える。特別な存在にでもなったかのような気分で、雲の上からの絶景を眺めた。

雲に映った自分の影の周りに虹が見えるブロッケン現象。奥には見えるのは知床連山。右端が羅臼岳。
雲の切れ間から、知床峠の南側にある天頂山周辺の沼が見えた。

取材・文・撮影=山本直洋
『旅の手帖』2023年8月号より

山本直洋
空飛ぶ写真家
1978年、東京生まれ。モーターパラグライダーによる空撮を得意とする”空飛ぶ写真家”。現在、世界七大陸最高峰を空撮する、成功すれば世界初のプロジェクト「Above the Seven Summits Project」を計画中。

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