でんぱ組.inc古川未鈴「すべてのオーディションに落ちて」挫折も隠さず表現、「ファンの反応も変わった」曲が転機に

古川未鈴 撮影/冨田望

2010年頃より活動を本格始動したでんぱ組.incのメンバーであり、グループの中心的存在である古川未鈴(ふるかわみりん)。普通の少女がアイドルになるまでの転機とは?【第2回/全5回】

女性アイドルグループ『でんぱ組.inc』のメンバー古川未鈴さん。約15年にも及ぶでんぱ組.incで活動の中で、最初の転機は、『W.W.D』(2013年)のリリースだ。

この楽曲は、メンバーの実体験を基にした歌詞が話題となり、初のオリコンチャート10位を記録した。その後、同年には日比谷野外音楽堂でワンマンライブを成功させ、2014年には念願の日本武道館公演につながった。

「『W.W.D』は、いろいろな思いを持っているでんぱ組.incを歌った曲。私たちって、選ばれてアイドルになったわけではなかった。私はすべてのオーディションに落ちてしまった先でたどり着いたのがディアステージだった。ほかにも声優になりたかった子や、そもそもアイドルには興味がなかった子がいたのがでんぱ組.incだった。そんな一筋縄でいかない挫折を経験していることを、隠さずに歌に表現したのが『W.W.D』です。

この曲を歌ってからは、ファンの反応も変わった。“実は私もいじめられていたんです”とか“就活に失敗した”というような声が届くようになった。みんなもそういう辛いことを乗り越えているんだって思うようになってから、自分もアイドル活動を頑張る意欲につながった。

ふだんは誰かに勇気や夢を与えたいって考えていなかったけれど、私が頑張っていることを見てもらうことで元気になってもらえるということは、アイドルってすごい存在だなって思いました。それが大きな転機でしたね」

グループ同士の「不仲説」が浮上したことも

でんぱ組.incを始め、あのちゃんが所属していたゆるめるモ!や、惜しまれつつも解散したBiSHなどが活躍しアイドル戦国時代と呼ばれていた時期は、それぞれのグループが一緒のイベントなどに出演する機会も多かった。一生懸命さゆえに、「アイドル同士、仲が悪いのでは」と噂されていた。

「あのころは、ちょっとがむしゃらにやりすぎちゃったかなって思う部分がありますね。私は正直にいうと、ほかのアイドルの子で連絡先を交換している人が一人もいないんで(笑)。そういう意味では、“仲が良くない”というのは本当かもしれないですね。

でも嫌いだというわけではなくて、本当にでんぱ組.incで売れたいと思っていた。それだけを胸にずっと突き進んできたので、周りから見たら“未鈴ちゃんって声がかけづらい”って思われたのかもしれないですね」

はにかみながらも、度々浮上していたグループ内の不仲説にも言及した。

「でんぱ組.incも不仲説が出たりするんですよ……。そういうふうに言われたときには、“みんなバラバラの方向を向いているけれど、最終的に見ている方向はみんなでんぱ組.incが売れたいっていうので同じです。それを不仲ととらえられるのなら、そうかもしれないですね”って言っています。私はメンバーのことを、戦友って呼んでいる。友だちというよりも、“一緒に戦い抜く仲間だ”って思っています」

『W.W.D』で注目を集めた頃、グループとしての目標が「武道館公演」に定まったという。

「でんぱ組.incとして、大きな目標を持とうってなった時に浮かんだのが武道館公演。でも、その目標がもし叶わなかったらカッコ悪いからあまり口にしたくはなかったんです(笑)。でんぱ組.incのメンバーは、みんな人生のなかで成功体験がない人たち。だから“本当に武道館で公演ができるのかな?”って思っていました」

燃え尽きた武道館公演は「戦友っていう意識が強まった」

その後、快進撃を続けたでんぱ組.incは、2014年、2017年、そして2019年には2日間にわたる武道館公演を成功させた。

「武道館のステージに立ってみた光景って、いまも脳裏に焼き付いていますね。2回目の武道館公演は、自分がしばらく活動を休止する前の最後のライブだった。3回目が夢眠ねむの卒業式。それぞれ違う思い入れのあるステージでしたね。

最初の武道館公演は、メンバーがいるステージが下がって行って終わる演出だった。客席から私たちの姿が見えなくなった瞬間に、力が抜けてパターンって座り込んでしまって“終わったんだ……”ってもぬけの殻みたいな気持ちになったのをすごく覚えています。

個性が強いメンバーが集まって、倒れるまで武道館公演を行った。お互いに“本当に武道館公演をやったのだよね”みたいに、燃え尽きてしまった。まさに戦友っていう意識が強まりました」

古川未鈴 撮影/冨田望

でんぱ組.incの普段の様子を質問してみると、意外な答えが返ってきた。

「不仲だと言われたりもしたんですが、大声で喧嘩をしてしまうようなことは一度もなかったです。みんな黙々と楽屋では黙りながらLINEで会話をしていました(笑)。スタッフからも、“すごく静かな楽屋だね”って言われていました。今はメンバーも増えたので、騒がしいかもしれないです」

メンバーの話になると、嬉しそうに語ってくれた未鈴さん。これまでメンバー加入や卒業を見守ってきたからこそ、でんぱ組.incの変化を受け入れることができるのかもしれない。

(取材・文)池守りぜね

ふるかわ・みりん
香川県高松市出身。でんぱ組.incのメンバー。キャッチフレーズは「歌って踊れるゲーマーアイドル」。でんぱ組.incの活動以外にも、ゲーム関連の雑誌での執筆やゲームの動画配信なども行っている。2019年、漫画家の麻生周一と結婚を発表。2021年第一子となる男児を出産。

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