徹底的に相手を“口撃”! 憎いけど印象に残る…スポーツ漫画の「罵詈雑言キャラ」

弱虫ペダル (16) (少年チャンピオン・コミックス)

スポーツ漫画には、自分こそ一番という絶対的な自信から他人を全く認めようとしないキャラもいる。彼らは自分以外の存在を見下して、必要以上に煽ることをしてしまう。

しかしそんな煽りがあるからこそ、いかにこのキャラを倒すのかと気になることもある。そこから、展開を盛り上げるためには欠かせない存在ともいえるだろう。

そこで今回は、自信満々で相手を挑発するキャラを紹介したい。煽り倒した結末を見ることで、そのキャラの内情を深く知ることにもなると思う。

■『弱虫ペダル』御堂筋翔

まずは、渡辺航さんによるロードレース漫画『弱虫ペダル』(秋田書店)の御堂筋翔(みどうすじ・あきら)から紹介していこう。御堂筋は一年生ながら京都伏見高校のエースを任される選手で、同じ部の先輩たちをもザコ扱いする傲慢さを持ったキャラ。しかし、それに見合った実力を持っており、主人公・小野田坂道たちのライバル的な存在となった。

坂道に対しては認めている部分もあり、そこまで煽ったり馬鹿にしたりすることはないが、坂道のチームメイトで総北高校のエースである今泉俊輔に対しては容赦なく、「弱泉くん」と嘲笑していた。

御堂筋は他人を一切信用せず、自分の力だけで勝とうとする意志が強い。そのため、仲間に頼っている弱い人間を見ると、「キモッ」を連発して口に出す。そこには、幼い頃に大好きな母親が亡くなってしまったことや、小学校で周囲となじめずにいたことも関係している。

それ自体は同情をしたくなる過去だが、他人を徹底して口撃する御堂筋には、どうしたらここまで変われるんだろうと思ってしまうほどだ……。そんな御堂筋はただの俺様キャラに見えるがそうではない。勝つためにしっかりと分析して判断を下す冷静なところもあるので、そのギャップにも驚かされた。

煽るだけのキャラはたくさんいるが、ここまで勝つことに固執していて毒舌なキャラもなかなか珍しい。やる気がなさそうに見えて、誰よりも熱いのが御堂筋でもある。

■『はじめの一歩』ブライアン・ホーク

次は、森川ジョージさんによる『はじめの一歩』(講談社)のブライアン・ホークだ。ホークは鷹村の初めての世界戦の相手で、読者も未知数の相手にワクワクしたはずである。

そんなホークは、常に命の危険に晒されているスラム街出身。そのため、ルールに守られ命の安全が保証されているボクサーのことをどこか見下していた。

世界戦前の記者会見では、写真撮影の時に鷹村を小突いて、怒った会長も張り倒す……。ホークの暴走はそれだけに留まらず、「だいたい貧弱な日本人風情がオレに勝てるワケないだろう!?」と日本人ボクサーを馬鹿にして、「この国の女を差しだせ」「オレの遺伝子をくれてやる!!」と日本人全員を敵に回すような挑発をした。これには鷹村だけではなく、読者も思わず拳を握りしめてしまったのではないだろうか?

試合では5ラウンドまでは鷹村有利の状況で試合展開をするも、無理な減量で体力を使い果たした鷹村は6ラウンド以降はサンドバッグ状態。誰もが鷹村は勝つことができないと思ったが……そこでまさかの鷹村覚醒。

意識が飛んでいる中で、鷹村は本能だけでホークを力でねじ伏せてしまう。それはセコンドのミゲルが話すように、野生と科学の融合したボクサーの理想像でもあった。

ホークは敗れてしまうが、“なぜあそこまで鷹村を煽ったのか?”と考えてみると、自分を追い込むためでもあったと思われる。似たようなボクサーにモハメド・アリさんがいて、彼もかなりのビッグマウスということで有名。あえて自分を追い込むことで、力を発揮していたようだ。

結果がついてくれば誰も何も言えないが、負けてしまった時のリスクはかなり高いので、そう簡単に真似はできないだろう。

■『アイシールド21』金剛阿含

最後は、原作:稲垣理一郎さん、作画:村田雄介さんによる『アイシールド21』(集英社)の金剛阿含だ。阿含は雲水との双子だが、身体能力が全く違う。“神速のインパルス”と呼ばれる、異常な反応速度によって他人の動きに後からでも追いつけてしまう。そんな能力を持つことで、誰も自分には敵わないと思ってしまったから、割り切って生きることにした。

阿含はアメフトを通じてライバルと出会うことになり、その中で特に認めていたのがセナである。セナに対してかなり煽っているが、それはどこか不安の現れでもあるかのように見えた。そして直接対決をすると、阿含の身体能力に追いつこうとするセナが覚醒。これまでラフプレーを避けてきたセナが、阿含の頭を押さえつけると地面に叩きつけて抜き去った。これにスカッとした読者も多いと思うが、それ以上にスカッとしたのが、蛭魔との直接対決だと思う。

阿含は蛭魔のことを自分より格下と思っており、「バーカ いらねーよ テメーらなんか」などと言って馬鹿にしてきた。しかし、蛭魔は必死に努力を続け、50メートル走の記録を1年で0.1秒縮め、阿含の猛追から逃れてタッチダウンを決めることができたのだ。このシーンは、震えがきてしまうほどの感動である。

阿含はそのまま敗北してしまったが、その後も特に性格を改めることはない。まあ、蛭魔の方が煽りでいうとかなり上だとは思うが……。

スポーツ漫画で相手を口撃するキャラは、勝負には欠かせない存在だと思う。散々煽られたことで、倒して得られる爽快感はかなりのものだからだ。これからも、必要以上に口撃してくるキャラにたくさん登場してもらいたい。

© 株式会社双葉社