「無眼球症」のムゥくんとの暮らし。「特別扱いはしない」という言葉に込めた飼い主さんの思いとは

この特集では、難病や障がいをもった愛犬とその飼い主さんの、闘病や暮らしの様子をレポートします。

今回ご紹介するのは、生まれつき両目の眼球がない「無眼球症」で、元保護犬だったムゥくんが飼い主さんに迎えられてからのお話です。

1回目の記事|生まれつき両目の眼球がない愛犬ムゥくん 同居犬たちと活発に過ごす様子を聞いた

2回目の記事|「無眼球症」の元保護犬ムゥくんとの暮らし。そのお世話と工夫を飼い主さんに聞いた

「特別扱いはしないで、散歩もどんどん行くことに」

いつも前向きに満面の笑みを絶やさないムゥくん(オス・1才/6.8kg/ミックス/ポジティブでやさしい)。Sさんいわく、小型犬とは思えないどっしりした部分もあるそう

「なんでも手取り足取りしてあげるのではなく、たとえば何かにぶつかってしまったら、すぐに抱き上げたりしないで、ムゥ自身が立ち止まって考えるようにしました。そのうちにほかの犬との距離のとり方やニオイや音を頼りに歩くことを学んで、今では私の足元にしっかりついて歩けるようになりました」

Sさんは、ムゥくんが自分の足で外の地面を踏みしめて歩く喜びを感じてほしいから、上手に歩けず危ないからと、散歩をあきらめたりしたくなかった、と話します。
「犬の幸せは、散歩と運動が充分にできること、飼い主とたくさん遊ぶこと、ゴハンをしっかり食べることだと私自身思っています。だからムゥにも、同居犬たちと同じように毎日を過ごしてほしかった。ムゥにとっては、5頭の犬たちの存在も励みになったように思えます」とSさん。

大好きな散歩のとき、ムゥくんはニオイによって自分がいる場所を把握。刺激になるよう異なるコースを回るようにしています

ちなみにSさん家の5頭の愛犬たちも元保護犬で、不遇な環境からレスキューされました。みんな個性はさまざまで、超ビビリな犬や心に傷を負った犬など、Sさんはそれぞれの性格に合わせた接し方を心がけ、少しずつ心を開かせていったそうです。
「ムゥがうちに来る前は、どんな境遇にいたのか詳細はわかりませんが、きっとつらい状況にいたのだと思います。それでも、明るく前向きな性格のムゥ。光を感じることなく生まれてきましたが、ほかの犬たちと何も変わらないんだよって、いろいろなことにチャレンジさせた結果、今ではしっかり自信がついたと思います」とSさん。

そして最後に、「ムゥのいちばんのチャームポイントは輝くような笑顔です。これからももっと笑顔が増えるように、楽しく過ごしていけたら」と語ってくれました。

愛犬5頭のうち、いちばん体の大きいアメくん(推定4才)が、いつもムゥくんを気づかってそばにいてくれるそう
ホースから出る水の音を聞いて、水のアーチをくぐり抜ける遊びがムゥくんのお気に入り

出典/「いぬのきもち」2024年1月号『困難と闘う!……その先のしあわせへ』
写真/犬丸美絵
写真提供/Sさん
取材協力/葉山どうぶつ病院
取材・文/袴 もな
※掲載の情報は「いぬのきもち」2024年1月号発売時のものです。

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