“PR戦争”でイスラエルは大敗…アルジャジーラ追放で“世界のマスコミの信頼”も失うのか

イスラエルはガザ侵攻で軍事的には圧倒的優位に立ちながらも、PR作戦ではハマスに大敗を喫したあげく、その責めを中東の衛星テレビ局アルジャジーラに転化して追放するという愚挙に出た。

今回のイスラエル軍のガザ侵攻作戦については、当初、イスラム組織ハマスの奇襲攻撃で多数のイスラエル人が殺害、誘拐された報復としてイスラエル国内外から広く共感を得ていたようだったが、イスラエル軍が進撃するにつれて支持を失い、ガザ地区のパレスチナ住民へ同情が集まっていった。

世界各地でパレスチナを支援するデモが起き、イスラエルには心情的に近いとされる米国でも大学でイスラエルに抗議するデモが広がった。半年後に大統領選挙を控えてバイデン大統領は若者の支持離れを懸念してイスラエルに対する軍事援助を手控えるようなことになり、イスラエルはPR作戦でハマスに大敗北を喫していると考えられている。

PR戦争におけるイスラエルの“失敗”

「イスラエルはなぜかくも急速にPR戦争に負けているのか」

イスラエルの英字日刊紙「タイムズ・オブ・イスラエル」は、すでに2023年11月2日にこうした表題の分析記事を掲載していた。

記事はイスラエルの失敗の原因の一つは、今回の軍事作戦の目的を「ハマスを懲罰する」のか「ガザを解放する」のか明確にしておかなかったことだとする。その代わりに「人質を解放せよ」とだけ言っておけば、誰も異論を挟むことはできなかったはずだとする。

記事はまた、イスラエルはハマスの武装勢力の背後にパレスチナの大規模なPR支援集団が存在していたことを重視せず、対応しなかったことだとする。

このPR部隊は、最前線に米国製のウェアラブルカメラ「GoPro」で装備したボランティア・ジャーナリストたちがおり、イスラエルの攻撃で被害が出るとビデオを直ちにネット上で公開する。また、被害者の数などはハマスが支配する「ガザ保健省」が発表。それをまとめてハマスと連携したパレスチナの通信社Gaza Nowが情報をSNSで拡散させる。加えてイスラエルでもアラビア語と英語で放送している衛星テレビ局アルジャジーラが、それを中東だけでなく世界で放映すると、そのニュースは「国際世論」となってしまうのだ。

一方のイスラエルだが、外国のマスコミ取材陣のガザ地区での取材を厳しく規制し、軍の広報官の発表に頼るような体制をとった。つまり、軍の言い分だけをニュースにするよう図ったわけだが、それで世界から集まったベテランの戦争記者たちが納得するわけもない。彼らがハマスのPR支援部隊の情報に頼る度合いが増えたのも当然の成り行きだった。

“アルジャジーラ追放”国内有力紙も反対

イスラエル当局がここへきてそれに気づいたのだとすれば「遅きに失した」感もなくはないが、 それに対抗するためにイスラエル政府が5日、アルジャジーラのイスラエル国内での放送を停止するよう命令すると共に、警察がエルサレムにある事務所を強制捜査したのは余りにも悪手だった。

イスラエル政府は、アルジャジーラがハマスの宣伝の具になっておりイスラエルの安全を脅かしていると言うが、イスラエルの有力紙ハアレツは6日の電子版の社説で「イスラエルはアルジャジーラを閉鎖してはならない」と早速反対の意思表示をした。

社説はアルジャジーラが偏向した報道をしているかもしれないが、政府はそれを糾す立場にはないとした上でこう結論づける。

「言論の自由と報道の自由を尊ぶ者ならば、政府の不名誉なこの決定に反対しなければならない。恥ずべき決定だ。民主主義にふさわしくない」

イスラエル政府は、自国を含めて世界のマスコミの多くの信頼を失うことになったようだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

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