「木村拓哉主演の大河ドラマは」鈴木おさむ放送作家からの卒業後「47歳の秋元康さん」「50歳の糸井重里さん」「51歳の伊丹十三さん」

2024年3月31日、その男は筆を置いた。20年と9か月続いた国民的グループのバラエティ番組、スマスマこと『SMAP×SMAP』で放送作家をつとめ、オートーレース界に森且行が去りし後、メンバーから“6人目のSMAP”とまで言われた鈴木おさむ、その人である。
バラエティ番組『めちゃイケ』『¥マネーの虎』『お願い!ランキング』『Qさま!!』、ドラマ『人にやさしく』『M 愛すべき人がいて』『離婚しない男』など数々の大ヒット番組や、国民的な海賊マンガ「ONE PIECE」の劇場版『ONE PIECE FILM Z』の脚本などを手掛けたことで知られる彼が、SMAPの小説『もう明日が待っている』と、テレビ界への遺言ともいえる『最後のテレビ論』(共に文藝春秋)を置き土産に、放送作家を辞めるという。
なぜなのか。日本列島を笑いと感動で包み込んだ大ヒットメーカーの、断筆に至るまでの「チェンジ」と、放送作家を卒業後の「ビジョン」に迫った。(全5回 第4回)

サイバーエージェントに匹敵するような企業を作りたい

――放送作家を卒業された後、何をやられる予定でしょうか? 鈴木さんは、NHK大河と朝ドラの脚本は、書いておられませんが、もし、同じく大河ドラマで主演していない木村拓哉さんで書くとしたら、どんな脚本をお書きになりますか?

『最後のテレビ論』の中に、書きたいと思った大河ドラマと朝ドラの企画を書いたので、他には何もありません。やり残したことはないし、本に書いたことで、すべて終わりました。
今後、僕は「スタートアップファクトリー」というファンド(投資家から出資を募り、その資金で投資や事業を行い、出資者に収益を還元する仕組み)をやるんですけど、これまでスマスマなどの番組を作ってきたように、今度は新しい人たちとサイバーエージェント(藤田晋氏がCEO務めるメディア事業、インターネット広告事業、ゲーム事業、投資育成事業を主とする日本の企業)に匹敵するような会社を作りたいです。
これからの10年間、僕に勝負できる才能があるとするなら、アイディアと人脈を使って、新たにユニコーン企業(評価額が10億ドル以上の未上場のスタートアップ企業)を作って、世の中の景色を変えたいですね。

秋元さんは50歳でアイドルの方法を変えた!

「難しいんじゃない?」って人は言うんですけど、でも、何年にかに一度、巨大企業ができているし、世の中はどんどん変化しているし。たとえば、スキマバイトアプリの「タイミー」という会社は本当に若干27歳の社長(小川嶺氏)が、世の中のバイトのシステムを変えているじゃないですか? 僕の知り合いの会社、みんなタイミー使ってるって言ってますよ。
そう思ったときに、世の中の景色を変える人ってまだ出てくるから、僕はそういう人のお手伝いをしたいと思ったんですね。
そもそも、放送作家をやめるって時点で普通に考えたらかなりおかしいし、だけど、そういう人がもっといないと面白くないかなと思うんです。
秋元康さんは47歳から新しいアイドルを作ろうと思って、粘って粘って粘って、50過ぎてAKBが当たって、時代を変えた。アイドルの方法や日本の芸能史を塗り替えたと思うんですよ、50歳で。
糸井(重里)さんも、コピーライターだったのに、50歳で「ほぼ日(ほぼ日刊イトイ新聞)」を作ったし、僕が大好きな伊丹十三さんも俳優だったのに、51歳を過ぎてから映画を撮り始めて10本撮って、伊丹映画という新しいジャンルを作りましたよね。
ああいうことに憧れてます。だから、やらなきゃいけないなと思うし、やれるかな、とも思うんです。

すずき・おさむプロフィール
1972年4月25日、千葉県生まれ。19歳のときに放送作家になり、それから32年間、さまざまなコンテンツを生み出す。2024年3月31日に、放送作家を引退。著書に『仕事の辞め方』(幻冬舎)、そして大ヒット中の『もう明日が待っている』『最後のテレビ論』(共に文藝春秋)などがある。現在は、「スタートアップファクトリー」を立ち上げ、スタートアップ企業(急成長をする組織、会社)の若者たちの応援を始めており、コンサル、講演なども行う。

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