広い世界を見て…特別養子縁組の子に米国留学を 熊谷のクリニック院長がCF 子、養親、生母に希望届け

交流会であいさつする鮫島浩二院長=4日、埼玉県熊谷市

 困難を抱えた妊婦などを支援する埼玉県熊谷市のさめじまボンディングクリニックの鮫島浩二院長(72)は今月、特別養子縁組で育つ子どもの米国留学の資金を募るクラウドファンディング(CF)を始める。4日はクリニックで養親家族の交流会が開かれ、参加した子どもたちは留学への希望を口にした。鮫島院長は「口に出せず出自に悩む子も、広い世界を見て養親の愛情などに恵まれたことに目を向けてほしい。つらさと喜びの両方を知り、少子化を変える力になるはず」と話す。

 鮫島院長は2013年、困難を抱える妊婦や特別養子縁組の支援を行う全国の医療機関の組織「あんしん母と子の産婦人科連絡協議会」を立ち上げた。協議会で特別養子縁組をした家族でつくる「星の子の会」の会員は100組を超えた。

 「スターキッズプロジェクト」と名付けた計画は今夏、中学生以上の子どもや若者10人が鮫島院長らに付き添われ、米国に8日間滞在する。ステイ先も養子縁組の家庭。英語の習得とともに、海外の仲間との交流や将来の進学や進路の可能性を広げるという。

 CFの期間は13日から6月末までで、目標額は500万円。背景には、「自分だけの力ではなく、見ず知らずの人々に助けられ独り立ちする経験をしてほしい」という願いがある。不妊治療を長年続け養親に経済的余裕のないケースや、養子としての引け目から子どもが希望を伝えられない例もある。「国などの支援は施設や養親家庭にいる10~20代には届いていない。今いる子どもたちを引き上げ、立派に育てることが必要」と言う。

 交流会には全国の養子縁組家庭の約100人が参加。バーベキューやミニゲームが用意され、晴天の下に子どもたちの元気な歓声が響いた。鹿児島県から来た5人家族も、鮫島院長との久々の再会を喜んだ。子ども3人は養子で、来年中学生になる長男(12)は「留学に行くと鮫島先生と約束したから、英語を勉強しなきゃ」と夢を膨らませた。

 10歳と5歳の養子を育てる東京都の女性(49)も「子どもは留学に行きたいと言っていた。貴重な経験になると思う」と話す。夫妻は不妊治療の結果、子どもができないと分かり、養子を迎えることを決めた。家庭では生母の存在を隠さず伝え、アニメの主題歌の替え歌でも出自を説明する「真実告知」を行うなど工夫を凝らしてきた。「『あなたは愛されて生まれてきて、私たちにとっての宝物』という思いを歌詞にした」という。

 夫妻は周囲にも、養子縁組のことを隠していない。「子どもがネガティブに感じないように、うそはつかない。他の子と違うかもしれないが、生母も祖父母もクリニックの皆さんもいて、良い意味でスペシャルだと考えている」

 鮫島院長によると、クリニックで出産した女性には、子どもを気にかけながらも心情を打ち明ける場がない人が多い。生母から訪問や連絡があると「(子どもは)元気にしているよ」などと可能な範囲で現況を伝えるようにしている。鮫島院長は「留学は子どもへの支援でもあるが、生母にも『自分の子どもにも学ぶ機会がある』と希望を届けたい」と思いをはせた。

 クリニックでは5日も、フリーマーケットや地域の店舗などが出店する「きずなフェスティバル」が開催された。

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