【潜入】ニッポンの大動脈「東海道新幹線」知られざる裏側…安全・快適な運行を守る仕事人!静岡の現場でも

2024年のGW、新幹線の乗車率は、静岡駅でピーク時に170%ととても混雑しましたが、それでも正確で安全な運行が行われる裏にはある秘密があったのです。その知られざる裏側に潜入しました。

日本の大動脈「東海道新幹線」。1日356本もの列車が緻密ダイヤを守り、運行しています。その最前線を担うのが「運転士」。運転席ではどんな事が行われているのでしょうか?

朝9時の東京駅。運輸所と呼ばれる部屋に集まった「3人の女性」。

(東海道新幹線のクルー)

「本日は639Aから乗務したします。お体が不自由なお客様が639Aで、東京?新大阪でご乗車になります」

3人は、この後、出発する新幹線に乗務するクルー。

(東海道新幹線のクルー)

「キーが3点です」

(東海道新幹線のクルー)

「3点よしです」

この3人には「ある共通点」が。

(東海道新幹線のクルー)

「きょうは、たまたまみんなママという感じで」

そう!みんな「子育て中のママさん」なんです。

車掌の橋本さんは…

(JR東海 入社13年目 車掌 橋本 紗登子さん・32)

「3歳の息子が1人います」

車掌長の九里さんは。

(JR東海 入社17年目 車掌長 九里 あかねさん・37)

「小2の娘と5歳の娘が2人おります。みんなで助け合ってがんばってやっています」

そして、運転士の松本 実香さんは…

(JR東海 入社14年目 運転士 松本 実香さん・35)

「5歳の娘が1人います」

5歳になる娘さんを育てる運転士歴7年の35歳。

東海道新幹線の運転士は、約900人。そのうち80人ほどが女性で、20年前の4人から、20倍になっているんです。この日、松本さんが乗務するのは、10時33分発、「ひかり639号」新大阪行きの名古屋まで。車両がホームに着くと、松本さんが運転席へ。すると、すぐさま。

(松本 実香 運転士)

「ブレーキハンドル非常位置」

機器類に不具合がないか、50以上ある点検事項を声を出しながら、指差し確認していく。

その頃、車掌の橋本さんは、安全チェックと、出発時刻を確認したのち車掌室へ。

そして、出発時刻の10時33分に。

(松本 実香 運転士)

「信号60、戸じめ点、時刻33分15秒、時刻よし」

出発時刻は、10時33分15秒。実は新幹線の運行は「秒単位」で決められているんです。運転は、手前に引くと加速する「マスコン」と言うアクセルと、8段階のブレーキで行います。出発直後、まずチェックするのが。

(松本 実香 運転士)

「列車によってもブレーキ力が違いますし、お客様の乗っている人数によってもかわるので」

「ブレーキの利き具合」。1つ目に停まる「品川駅」で、それを見極めなければならないんです。ブレーキの状況を確かめながら、品川駅に到着。

(松本 実香 運転士)

「10秒延着」

到着は、10秒遅れ。秒単位の到着を停車するすべての駅で繰り返す。こうした運行を支えるのが…

(松本 実香 運転士)

「暗算で次の駅までの時間と距離を今平均何キロで走ればいいのかというのを計算しながら走行しています。新横浜停車50分30秒」

次の駅までの残りの距離から、予定時刻に到着するよう、暗算で、常に最適なスピードを割り出す。「秒単位の運行」は、緻密な計算があってこそなんです。とは言え、松本さんの頭の中は、「スピード重視」ではありません。

(松本 実香 運転士)

「お客様の乗り心地を考えて、無駄なブレーキを極力かけない」

刻々と変わる制限速度をすべて記憶して、速度が制限される場所に、差し掛かる前にスピードを落とすという細かな運転が安定した、乗り心地の良さに繋がると言います。

些細なコトでも異変に気付いたら、即、対処しなければならない緊張感と、暗算を繰り返しながら…

「名古屋駅」へ。そして 停止位置に…

ピタリ。そして、到着時刻は。

(松本 実香 運転士)

「5秒早着」

定刻の5秒前に到着しました。

(松本 実香 運転士)

「本当にやりがいのある仕事だと思います。特に年末年始でお客様がたくさん乗られている時とかは、今からこの方々が大切な人に会いに行くんだなと思うと、やっぱり気が引き締まります」

名古屋で、本日1回目の乗務を終え、次の乗務に向けスタンバイ。一方、車掌の橋本さんは、休憩をはさみ、折り返しで東京へ。

橋本さんは、夫と3歳の息子の3人家族。子どもがまだ小さいため、育児社員用の泊りのない勤務を選択しています。

(橋本 紗登子 車掌)

「開通よし!ブザーまるト よし!」

東海道新幹線の車掌は、約500人。うち100人ほどが女性。車内を預かる責任者は、いつ何があっても冷静に対処できるよう、イメージトレーニングが欠かせないといいます。

(橋本 紗登子 車掌)

「お客様にご案内致します。この列車はただいま途中の小田原駅を時刻通りに通過いたしました」

車掌の橋本さんとは異なり、運転士の松本さんは、泊まりのある勤務を選択しています。

(取材スタッフ)

Q.「きょうは勤務だったんですか?」

(松本 実香 運転士)

「きょうは、勤務の泊まり明けです。今から娘を迎えに行って、家に帰って、ご飯作って、お風呂に入れて寝かしつけるって感じです」

夜、自宅にお伺いすると。

(長女 めいちゃん・5歳)

「こんにちは?」

可愛いお出迎えが。

(松本 実香 運転士)

「主人の将さんと…」

(長女 めいちゃん・5歳)

「めいで~す!」

夫とは、8年前に職場結婚。出産・育休を経て、4年前、31歳の時、夫の後押しもあり、現場に復帰しました。共働きのため、「家族の時間をいかに作るか」常に考えているといいます。

(松本 実香 運転士)

「作る時間があまりないので、30分以内を目指してできる料理を作っているという感じですよね」

子育てはもちろん、掃除、洗濯など、家事全般は、夫婦で分担して行っています。

(長女 めいちゃん・5歳)

「いただきます!」

(松本 実香 運転士)

「いただきます」

運転士にカムバックしたママを めいちゃんは…

(取材スタッフ)

Q.「お仕事を続けているのはいいですか?」

(長女 めいちゃん・5歳)

「いい!」

(取材スタッフ)

Q.「やめないでほしいですか?」

(長女 めいちゃん・5歳)

「うん!」

(松本 実香 運転士)

「娘への愛情はやっぱり…」

(松本 めいさん)

「たっぷり?」

(松本 実香 運転士)

「へへへ?。たっぷり注いで後悔しないようにはしたいですね」

現場で安全を支えるプロフェッショナルがいる一方、ハード面で安全を守る仕事人たちもいる。

最終電車が走り去った、午前0時前。静岡・湖西市の「とある場所」に集まった28人。彼らは、メンテナンスのスペシャリストたちで、深夜に人知れず行う作業は、始発が走る前までに終わらすのが絶対条件です。向かったのは、新幹線が走り去ったばかりの「線路」。

(仕事人)

「保守用車接近です」

「接近!」

やって来たのは…黄色と水色にペイントされた車両。それが、何台か連なっています。この日のミッションは、高度な技術と、28人のチームワークが不可欠な、「特殊なメンテナンス」といいます。移動すること、約10分。列車が止まりました。車両の上に上がらせてもらうと…

(取材スタッフ)

Q.「あそこにコルク栓みたいな大きなドラムみたいなものがあるんですけど」

(新幹線鉄道事業本部 豊橋電気技術センター 長谷 悟 所長)

「あれはトロリ線になります」

(取材スタッフ)

Q.「トロリ線 ! ?」

(新幹線鉄道事業本部 豊橋電気技術センター 長谷 悟 所長)

「はい」

電車に電力を供給する「トロリ線」。これから始まるのは、数年に一度行う、「トロリ線」の張り替え工事。この区間では、10年ぶりと言います。すると、連なっていた「作業車両」が、少しずつ離れ、それなりの距離を保ち始めました。何が始まるのでしょうか?

(新幹線鉄道事業本部 豊橋電気技術センター 長谷 悟 所長)

「それぞれ役割がありまして、今日は6台が連なって作業を行っています」

この日、張り替える「トロリ線」は、1本の長さが1500メートル。6両がそれぞれの役割を持ち、進めるといいます。そして…。新品の「トロリ線」を積む、「1号車」が動き出します。その後を、張り替えを担う「2号車」が追いかけます。すると、仕事人がトロリ線を吊るす「架線」に、ヒョイヒョイと何かを付け始めました。これは?

(新幹線鉄道事業本部 豊橋電気技術センター 長谷 悟 所長)

「新しいトロリ線を仮ハンガーを使って仮置きをしている状態になります」

2号車は移動しながら、「新しいトロリ線」をS字ハンガーで架線に引っ掛け、まずは仮置きします。約50メートル間隔で、「トロリ線」を支える支柱があり、頭がぶつからないよう、巧みにかわしながらの作業です。続く「3号車」は、仮置きした「新しいトロリ線」に、わずかでも「ねじれ」がないかを触りながら確認する役割。20分後。「新トロリ線」、1500メートルの仮設置が完了。そして、次に始まったのが…

(仕事人)

「はい 3トン」

仮設置した「トロリ線」を伸ばす作業です。画面左、1500メートル先の6号車と、こちら1号車が、両端からゆっくりと引っ張り、伸びる分だけ伸ばします。伸ばし切って固定することで、その後の伸びが防げると言います。それが終わると…進行方向をチェンジしていよいよ新旧の交換がスタート。2号車から5号車が、それぞれの担当エリアで、「古いモノ」を固定金具から外し、「新トロリ線」を止めていきます。

全てを固定したら、「2号車」は、仮ハンガーを余さず回収しながら、「1号車」が「古いトロリ線」1500メートルを巻き取っていきます。午前4時すぎ。全ての作業が終了。「これまでのトロリ線」がピカピカの「新トロリ線」に生まれ変わりました。

(新生テクノス 新幹線豊橋営業所 工事指揮者 大瀬良 浩幸さん)

「新幹線が定時できちんと走れるように、無事故無災害でこれからもやっていきたいと思っています」

朝6時半。一番電車が無事に通過するのを見届け、任務完了。

(仕事人)

「通過ヨシ!」

ニッポンの大動脈「東海道新幹線」。安全安心で快適な運行は、こうした多くの仕事人たちによって、守られているのです。

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