ジャンタルマンタルの圧勝劇を引き出した川田騎手の高度なテクニック。人馬一体となる阿吽の呼吸が3歳マイル王に導く【NHKマイルC】

5月5日、日本時間の早朝に行なわれたケンタッキーダービー(米GⅠ、チャーチルダウンズ・ダート2000m)で、日本馬が大健闘した胸熱な結果が冷めやらない同日の午後、春の3歳マイル王決定戦と位置づけられるNHKマイルカップ(GⅠ、東京・芝1600m)が開催された。結果は、単勝2番人気に推されたジャンタルマンタル(牡3歳/栗東・高野友和厩舎)が直線坂上で一気に抜け出すと、後続に2馬身半差をつける完璧な競馬で圧勝。見事に同世代マイル王の称号を手にした。

直線で進路取りの不利があった1番人気のアスコリピチェーノ(牝3歳/美浦・黒岩陽一厩舎)が体勢を立て直して追い込み、2着を確保。3着は10番人気の低評価ながら、先行してじりじりと伸びたロジリオン(牡3歳/美浦・古賀慎明厩舎)が入り、3連単は8520円の穏当な結果となった。

なお、3番人気のボンドガール(牝3着/美浦・手塚貴久厩舎)は直線でずるずると下がって17着と大敗。出走までの過程で順調さを欠きながらも、そのポテンシャルが高く評価されたゴンバデカーブース(牡3歳/美浦・堀宣行厩舎)は、3着とはクビ差の4着に食い込んだ。
クラシック戦線で好走した牡牝がマイルの舞台で一騎打ち、というのが戦前の見立てで、実際オッズ面でもそれが明確に表われていた今年のNHKマイルカップ。牡馬は皐月賞(GⅠ、中山・芝2000m)で、あわやの場面を作って3着に入ったジャンタルマンタル。牝馬は桜花賞でステレンボッシュに3/4馬身差で差し切られて2着に敗れたアスコリピチェーノ。この2頭が2.9倍の同オッズで並び、わずかな票数の違いでアスコリピチェーノが1番人気に推され、「二強対決」のムードが色濃く漂った。

そして、実際にレースはファンのそうした見立て通りの結果となった。ゲートが開くとキャプテンシー(牡3歳/栗東・松永幹夫厩舎)が先手を奪い、すぐさまジャンタルマンタルとボンドガールが3番手の好位置をキープ。対するアスコリピチェーノはそれを前に見る5番手と絶好の位置を確保して、有力馬は前目で攻めの競馬を展開した。

1000mの通過ラップは58秒3と、やや速めのミドルペース。中団以降の各馬は、馬場状態の良さから後方一機はききづらいトラックバイアスを考慮して徐々に進出する。馬群はその長さを縮めながら、一団となって直線へと向いた。

レースを引っ張った2頭が苦しくなった坂下で、このレースの重要なポイントとなる争いがあった。アスコリピチェーノがインに入り、馬なりでそれに並びかけたジャンタルマンタルが外から“フタ”をする形でブロックするという高度なテクニックを鞍上の川田将雅騎手が繰り出し、彼女が抜け出すスペースを与えない。そのため苦しくなったアスコリピチェーノのクリストフ・ルメール騎手は強引に前の狭いスペースをこじ開けようとしたが、前の馬に接触して大きくバランスを崩してしまった。

その瞬間、まるでタイミングを計ったかのように鞍上のゴーサインを受けたジャンタルマンタルが一気に抜け出して先頭に躍り出ると、後続を突き放して大勢を決する仕掛けを見せる。不利を受けたアスコリピチェーノも体勢を立て直して急追。2着にまで追い上げたが、時すでに遅し。ジャンタルマンタルが悠々とゴールを駆け抜け、2歳牡馬チャンピオンとしての威厳を示した。 昨年12月の朝日杯フューチュリティステークス(GⅠ、阪神・1600m)に次いで2つ目のビッグタイトルを手にしたジャンタルマンタルは、ミスタープロスペクター系の種牡馬パレスマリスの仔。パレスマリスは米国で種牡馬入りし、本馬は当地で種付けした持込馬だが、本年度からは日本で繋養されており、このジャンタルマンタルの勝利によって人気が一気に沸騰することもあり得る。

レース後のインタビューで川田騎手は、「この馬が一番強いという姿をお見せできればという話をしていましたが、1600mで走ることに関しては絶大なる自信を持っていますので、普通に走りさえすれば負けることはないと思っていました」と、堂々コメント。次いで「ただ、皐月賞からの中2週というところで、疲れがどうなのかなというのは一番の懸念点でしたが、それでもこうやって勝ち切ってくれましたので、やはり素晴らしい走りができる馬だなと思います」と、愛馬の走りを絶賛した。

筆者の個人的な見方だが、まだいくらか前進気勢が強すぎるきらいがあるジャンダルマンタルは、成長に伴って気性が落ち着いてくれば2000mのGⅠ、つまり秋の天皇賞を狙える存在になり得るのではないか。それが今秋となるか、来年になるかは分からないが、これからどういう成長をするのか、とても楽しみなスターが生まれたことを喜びたい。
2着のアスコリピチェーノは、ドバイでの大怪我からこの日より実戦復帰した名手ルメール騎手のらしくない、強引な進路取りで大きな不利を受けたのは痛かった。しかし凡庸な馬ならば、あの時点でレースが終わっていただろう。立て直してから再び伸びてきた能力とハートの強さは敗北した今回、逆に強く認識されることになった。マイルの舞台なら、牡馬と互角に戦えるだけのポテンシャルは十分に持っているだけに、順調にいけばトップマイラーの1頭として活躍し続けられるのではないだろうか。

惜しかったのは、4着となったゴンバデカーブースだ。デビューから2連勝でサウジアラビアロイヤルカップ(GⅢ、東京・芝1600m)を圧勝したものの、続くホープフルステークス(GⅠ、中山・芝2000m)は感冒のような症状が出たために出走を取消。それが、“のど鳴り”の一種が引き起こす症状だったため、手術を受けてから休養。その後も挫石があったりと、順調さを欠きながら本レースにようやく間に合ったという経緯がある。

しかし、だ。それでもキャリア2戦で臨んだ今回、初のGⅠレースという大舞台で2着にクビ+クビの僅差まで迫ったのだから、やはりその能力は非凡。こちらも2000mぐらいは持ちそうなだけに、秋の進路に注目しておきたい1頭だ。

取材・文●三好達彦

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