臓器提供は増加傾向も… スイスの臓器移植の課題は?

スイスは2023年に初めて、欧州内の臓器提供先進国の一員となったと専門家は話す (KEYSTONE)

スイスで死後の提供による臓器移植が増加している。現在の傾向と今後の課題について専門家に話を聞いた。

スイスでは2022年、明確に反対の意思表示をした人を除き、全ての人を潜在的ドナー(臓器提供者)とみなす法案が国民投票で可決された。

施行は先送りされている。それでも2023年の臓器提供数は200件と、前年の164件から増加した。

スイスで臓器提供・移植を推進する財団スイストランスプラント代表のフランツ・イマー氏に、スイスの臓器移植の傾向と今後の課題について話を聞いた。

臓器提供者はなぜ増えた?

臓器提供者が前年比で22%増加したのは、国民感情の変化というより、システムの円滑化によるところが大きい。

2021年に導入された新しい電子システムでは、病院の集中治療室と、スイストランスプラントの患者選定基準や待機リストなどのデータを結ぶネットワークが確立された。

データ共有が強化されたきっかけは新型コロナウイルス危機だ。医療機関がひっ迫するなかで、臓器移植が後回しにならないようスイストランスプラントが働きかけた結果、連携不足が浮き彫りとなった。

イマー氏は、スイスの人口増加と高齢化に伴い、移植が必要な患者数は増加すると予想している。「年間300~350件の臓器提供を達成するには、プロセスの改善は必須だった」

またスイストランスプラントは2011年以降、脳死よりも心不全で死亡した人からの臓器提供を増やすことに重点を置いている。

「心停止後の臓器提供(DCD)」は、2020年の50件から2023年には96件へとほぼ倍増した。一方、「脳死後の臓器提供(DBD)」は横ばいとなっている(2020年は96件、2023年は104件)。

イマー氏によると「DCDは現在、移植を手がける診療所・病院の数が一気に跳ね上がる分岐点となるクリティカルマスに達している」。

周辺国と比べた臓器提供率は?

2023年の臓器移植件数についてイマー氏は、「スイスは初めて、欧州内の臓器提供先進国の一員となった」と話す。

臓器提供システムを提供するスペインの非営利団体「Donation & Transplantation Institute(DTI)」の統計もそれを裏付けている。

DTIの臓器提供・移植に関する国際レジストリー(IRODaT)によると、スイスはこれまで欧州の近隣諸国に比べ遅れをとっていたが、2023年のスイスの提供件数は人口100万人当たり22.73件となった。フランス(25.9件)、ドイツ(11.58件)、イタリア(25.5件)、イギリス(21.08件)、オランダ(17.29件)と比べても引けを取らない数字だ。

2022年国民投票結果は提供件数の増加に貢献したか?

イマー氏によると、2022年の国民投票結果は臓器提供件数の増加に「全く貢献していない」。「むしろ2022年にはドナーが減少する傾向さえ見られた」という。「一部メディアが現実的ではない、多くの人々の不安をあおる悪夢のような報道をしたからだ」

「このようなデリケートなテーマがうまくいくためには、制度に対する信頼と信用が鍵となる」

スイスでは2021年、遺族の55%が、亡くなった家族の臓器提供に同意しなかった。スイストランスプラントによると、2023年の拒否率は58%に上昇した。

臓器移植法改正は、今後どのような影響を与えるのか?

2020年に推定同意方式を導入したオランダは、スイスの良い参考事例となる可能性が高い。

イマー氏によると、改正法施行から3年後、オランダでは臓器提供の同意率が42%から55%に上昇した。

しかし、国民の間で賛否両論が巻き起こったスイス改正法の施行は、当初考えられていたほど円滑ではない。

患者の臓器提供に対する希望を記録するデジタルID(eID)制度がまだ実現していないからだ。eIDに異議を唱える国民投票が起こされないとしても、その実現は早くて2026年になる見込みだ。

スイスの医療機関は増加する需要に対応できるのか?

スイストランスプラントは、同改正法が施行されれば、臓器提供件数は増加すると確信している。

イマー氏は、臓器提供が増えれば、病院はより多くの患者を移植待機リストに加えるようになるだろうと考えている。しかしそうした場合、移植手術を行う外科医への負担が課題となる。

イマー氏は「熟練した移植スタッフの確保が、今後における私の一番の懸念事項だ」と言う。「外科医だけでなく、他の手術室スタッフも含めて、病院のリソースは限界を迎えている」

また「移植手術の90%以上は、夜間や週末など診察時間外に行われる。新しい世代の医療スタッフは、こうした時間帯をあまり好まないようだ」とも話した。

「医療施設は2、3年後に予想される臓器提供増加に対応するため動き出す必要がある」

編集:Mark Livingston/sb、英語からの翻訳:大野瑠衣子、校正:ムートゥ朋子

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