【ミャンマー】男性の海外就労手続き「再開」[経済] 労働省、確認厳格化の可能性

徴兵制発表を受け、ビザを求めてタイ大使館に詰めかける若者=2月19日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA)

ミャンマーの複数の送り出し機関によると、軍事政権は6日、今月1日から一時停止していた男性国民の海外就労手続きを「再開」した。現地では、徴兵制を実施した国軍への若者の不信感が強まる中で手続きが止まり、混乱が生じていた。海外就労を予定する男性の個人情報の確認作業が厳しくなり、完全な正常化には時間がかかる恐れがあるという。【小故島弘善】

軍政下の労働省は、海外就労者の多くが必要とする「デマンドレター(求人票)」の発給手続きを1日から一時停止した。求人票は、日本で就労する場合だと、「技能実習」と「特定技能」の在留資格を取得するまでのミャンマー側の手続きに必要な書類。労働者を受け入れる日本側が、ミャンマー国内の送り出し機関を通じて当局に提出しなければならないものだ。

最大都市ヤンゴンの送り出し機関の関係者によると、「当局の方針が6日に二転三転した」。同日朝の時点で、男性については通常の半数の求人票を受け付けるという通知があったが、最終的に再開が決まったという。ただ、求人票が受理されるようになったと認識しているものの、正常に処理されるかどうかは確認できていない。

別の送り出し機関の関係者は、「男性に対するチェックが厳しくなり、処理に時間がかかるようになる可能性がある」と指摘した。6日に労働省に問い合わせたところ、同日から求人票の受け付けが再開されていることを確認したという。

今回の一時停止措置について軍政は理由を説明していないが、送り出し機関の関係者からは「徴兵逃れ対策の一環」との見方が出ている。軍政が2月に徴兵制の実施を発表した後には、不安に駆られた若者の間で国外に渡航して兵役を逃れようという動きが目立った。当局が打ち出した今回の海外就労手続きの一時停止も若者の不安をあおった。対象が男性に限定されていたためだ。軍政は当面、徴兵の対象を若い男性に限定するとの考えを示している。

デマンドレターの発給手続きが正常化するかどうか、不安もある。労働当局は6日、タイへの送り出し機関に対し、「18~22歳あるいは31歳以上の男性ならば海外就労ができる」と回答したという。徴兵の対象は一般男性ならば18~35歳。国軍は体力のある20代半ばの男性を兵士として求めているとされており、年齢によって海外就労が阻まれる可能性がある。

■タイ不法入国を助長

軍政にとって、海外で働くミャンマー人は貴重な外貨獲得源。国民の海外就労を止める経済的なメリットはない。3年前のクーデター以降、軍政支配と国内経済の混乱が続く中で若者の海外志向が強まっており、両者の利害関係は一致している。

ただ、十分な説明なしに男性向け求人票の手続きが滞ったことで、「メディアや市民の過剰反応が発生した」(送り出し機関の関係者)。国軍と抵抗勢力との情報戦もある中、ビルマ語や英語の各報道機関が「男性の出国禁止」などと報道。火消しが必要となり、一時停止措置の再開が早まったとの見方が出ている。

国軍系メディアのNPニュースは6日、ビルマ語と英語で「出国禁止ではなく求人票手続きの一時停止」だと説明する記事を掲載した。若者の間では、正規海外就労の道が閉ざされるとの危機感が強まっており、混乱は続く恐れがある。

送り出し機関の関係者は、ミャンマー人移民労働者の多くが働くタイなどへの「不法入国が増えてしまう」と口をそろえる。特に隣国タイとの国境地帯には国軍に抵抗する少数民族武装勢力などが支配する地域が広がっており、密入国あっせん業者を通じて同国での就労を目指す若者が増えている。

ある事業者は、「いかなる理由があっても、正式な手続きを踏まなければ安心して海外で働けない」と訴える。軍政が徴兵制を発表した直後、ミャンマーでは旅券(パスポート)や各国の査証(ビザ)を求めて関係機関前に長蛇の列ができる混乱も発生していた。

© 株式会社NNA