先制点を生んだ交代、花開いた最年少、日本の必勝パターン、VAR介入の功罪【優勝U23日本代表「決勝AT17分間」の舞台裏とパリ五輪「上位進出」の課題】(1)

山田楓喜のゴールでU-23日本代表がアジアの頂点に立った。撮影/渡辺航滋(Sony α1使用)

サッカーU-23日本代表が、アジアの頂点に立った。U-23アジアカップで、パリ・オリンピック出場権を獲得するのみならず、優勝したのだ。サッカージャーナリスト後藤健生が、若き日本代表が見せた「プロフェッショナルな戦い」と「パリ五輪本選への課題」を検証する。

■交代カード的中「日本の先制点が生まれた」

U-23日本代表が4大会ぶりの優勝を決めたU-23アジアカップの決勝戦は17分という長いアディショナルタイムがあり、その間にいくつものドラマが起こった。

90分までは、ハイプレッシャーをかけるウズベキスタンが日本の攻撃を分断して再三にわたって日本のゴールを襲うものの、フィニッシュ段階での精度が高くなかったこともあって、日本が守り切ることに成功した。

しっかり守った日本だったが、攻撃面はあまりかみ合わないまま、90分が経過した。

しかし、後半も時間が経過していくにつれて、試合開始から飛ばし過ぎたウズベキスタン選手に疲労の色が濃くなると、まるで、それを待っていたかのように大岩剛監督が交代カードを切った。

62分には今大会好調の荒木遼太郎を入れ、さらに71分にはシュート技術の高さを持つ山田楓喜を投入した。

そして、試合がアディショナルタイムに突入したところで日本の先制ゴールが生まれた。その交代選手たちによって、である。

相手のパスを高い位置でインターセプトしたDFの高井幸大がそのまま持ち上がって藤田譲瑠チマにヒールパスでつなぎ、藤田がバイタルエリアに入り込んだ荒木にパスを付け、荒木がワンタッチで山田につなぎ、山田が狙いすまして得意の左足キックでシュートを決めた。

ところが、その後、95分のプレーでVARが介入して関根大輝がハンドの反則を取られてウズベキスタンにPKが与えられた。だが、それまで再三、日本のピンチを救ってきたGKの小久保玲央ブライアンが、本人から見て右に飛んだキックを見事に弾き返して、日本が1対0で勝利を飾ったのである。

■日本の攻撃を活性化させた「最年少19歳」

その17分間のドラマには、難しい試合が多くなった今大会を象徴するようなプレーが随所に見られた。

たとえば、91分の先制ゴールの場面。

攻撃の起点となった高井は、今大会に招集された23人の中で最年少の19歳。高さと強さ、技術、戦術眼を兼ね備えた才能あふれるDFだが、まだまだ経験不足で、代表でもクラブ(川崎フロンターレ)でも凡ミスからピンチを招くことがあった。

しかし、今大会ではCBの一角として起用され続け、フィジカル能力の高い相手に対しても互角以上のバトルを繰り広げ、試合を重ねるたびに自信をつけてきていた。そして、オリンピック出場権を獲得した準決勝のイラク戦でも、奪ったボールを自らドリブルで運んで日本の攻撃を活性化させていた。

まさに、高井が今大会で積み重ねてきたことが決勝戦のアディショナルタイムで花開いたのである。

そして、藤田から荒木への必殺のくさびのパス……。これも日本の必勝パターンだった。

準々決勝のカタール戦でも、延長に入って藤田が荒木に付け、荒木がワンタッチで細谷にパスを供給して決勝ゴールを生んだし(ちなみに、この得点場面でも藤田にボールを供給したのは高井だった)、さらにイラク戦の前半10分にも藤田から荒木、そして細谷とパスが渡って先制のチャンスが生まれた(細谷のシュートはGKにストップされた)。

その同じパターンからの得点が、決勝戦のアディショナルタイムという重要な場面でも再現されたのだ。

アシストをした荒木は79分にウズベキスタンのGKネマトフと接触。一度はプレー続行不可能かと思われたが、そのままプレーを続けている状態だった。それにも関わらず、この場面でアシストを決めたのだ(ただし、その後、倒れた荒木は担架で運ばれてしまう。脳震盪の疑いがあったのだから、あの場面ではプレーを続行させるべきではなかったのだろうか)。

■AFC主催の大会で恒例の「VAR過剰介入」

その後の、小久保によるPKストップの場面も、今大会を象徴したような出来事だった。

まず、VARの介入だ。

年齢制限のないアジアカップでも再三あったように、AFC主催の大会ではVARの過剰介入が恒例行事のようになっている。

VARというのは、本来は「明白な間違いがあったとき」にのみ介入すべきもののはずなのに、アジアのレフェリーたちは「与えられた権限はすべて行使しなければならない」という脅迫観念に取りつかれたかのように次々と介入しては、細かなファウルを炙り出す。

相手がヘディングで落としたボールが、ジャンプのときに広げた関根の手に当たったという事象は、はたしてPKに値するような反則だったのだろうか……。

もっとも、VARの介入がすべて日本にとって不利な方向に働いているわけではない。

初戦、中国戦での西尾隆矢の退場は、相手が大げさに倒れたとはいえ、挑発に乗って西尾が腕を振っていたのでやむをえない判定だった。VARの介入は、「西尾の退場」という正しい判断を導き出した。

また、「負ければ終わり」の準々決勝カタール戦で試合の流れを大きく変えることになったカタールのGKユセフ・アブドゥラの退場は、カタール側から見たら厳しすぎる判定と思えたかもしれない。

細谷真大の下腹部にユセフの足が当たったのは間違いないのだが、故意に細谷を狙ったようにも見えるし、ジャンプのときに伸ばした足がたまたま当たってしまったようにも思える(少なくとも、あそこでカードをもらうリスクを冒して細谷に蹴りを入れる必然性はまったくない場面だった)。

ただ、いずれにしてもこの大会全体を通じてVARが介入する回数は多すぎた。ゲームの流れが審判団の判断によって大きく変わってしまう場面も多かったのだ(オリンピック出場権獲得のために最も重要な準々決勝4試合では、すべての試合でレッドカードが提示された)。

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