マイナ誤登録トラブル約9200件…河野太郎「反対される人はいつまでたっても『不安だ、不安だ』とおっしゃる」に国民疑問

マイナンバー制度をめぐるトラブルが相次ぐ中、現行の健康保険証が12月に廃止される。国はマイナンバーカードに健康保険証の機能をもたせた「マイナ保険証」に一本化させるため、医療機関に最大20万円支給するバラマキまで始めるという。だが、その利用率は5%程度にすぎない。誤登録や個人情報の漏洩など様々なリスクが指摘されているマイナ保険証。本当に健康保険証の“強制終了”は必要なのか。経済アナリストの佐藤健太氏が語るーー。

デジタル化の意義を強調しているのだが、医療現場には不満も根強い

「今年12月2日で廃止する。そこから最高で1年間の猶予期間もあるし、(現行の健康)保険証が廃止されれば、マイナンバーカードあるいは資格確認書で受診していただくということになるので何か問題が起きるわけではない」。マイナンバーカードを活用したデジタル化を推進する河野太郎デジタル相は3月13日の衆院「地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会」で、マイナ保険証に一本化しても弊害はないと強調した。

1月末時点のマイナンバーカード保有状況は9168万人(全人口の73.1%)で、カード保有者の77.9%がマイナ保険証に登録済みだ。しかし、その利用率を見ると、わずか4.6%にとどまっている。3月の利用率は5.47%に微増したが、依然として低迷したままだ。

立憲民主党の早稲田夕季氏は「利用率が上がらなくても、9割の人が現在使っている紙の保険証を12月の時点で廃止するということは強行されるのか。それとも一旦立ち止まるのか」と問うたが、政府側は「12月廃止」の姿勢を崩してはいない。

河野太郎「反対される人はいつまでたっても『不安だ、不安だ』とおっしゃる」

手元にある現行の健康保険証は廃止後も最長1年間使用することが可能で、マイナ保険証を持たない人には資格確認書が交付される。旗振り役の河野氏は昨年末「反対される人はいつまでたっても『不安だ、不安だ』とおっしゃるでしょう。それでは物事が進まない」「1度使っていただくと使いやすさを理解してもらえる」などとデジタル化の意義を強調しているのだが、医療現場には不満も根強い。

医師や歯科医師でつくる「全国保険医団体連合会」が1月に公表したマイナ保険証に関する調査によると、回答した医療機関の約6割が「トラブルがあった」と答えている。具体的には「名前や住所で『●』が表示される」(67%)、「資格情報の無効がある」(49%)、「カードリーダーでエラーが出る」(40%)といったトラブルが相次ぎ、「名前や住所の間違い」(21%)、「負担割合の齟齬」(15%)もあった。

マイナトラブルは9000件を超える

厚生労働省によれば、健康保険証とマイナンバーカードの情報を紐付けた際のミスによって別人の情報が誤登録されるなどのトラブルは約9200件にのぼる。政府によるマイナンバーカード情報の点検で判明した紐付けの誤りは、健康保険証情報の他にも共済年金情報や公金受取口座情報、所得・個人住民税情報、生活保護情報など多岐にわたる。

マイナンバーカードをめぐっては、同姓同名の他人にカードが交付されたり、別人の年金や医療費などの情報が閲覧できる状態になっていたりとトラブルが尽きない。医療現場では登録情報が確認できず、窓口で患者に全額自己負担してもらったケースもあるという。政府は修正対応を繰り返してきたが、その信頼性の低さが利用率に現われている。

こうした状況にもかかわらず、武見敬三厚労相は5~7月を「集中取組月間」として、マイナ保険証の利用を患者に呼びかける医療機関に最大20万円を支給する促進策を打ち出した。利用者数の増加に応じて病院に20万円、診療所と薬局には10万円を上限に支給するという。なぜ強制的に「12月2日」と廃止期限を区切り、それに間に合わせるために国民から徴収した税金をばら撒く必要があるのか理解できない。

マイナ保険証の利用者はメリットについて「特になし」が50%超

そもそもマイナンバーカードを携行している人は保有者の半数しかいない。厚労省が実施した利用実態調査においても、マイナ保険証の利用者はメリットについて「特になし」と56.5%の人が答えている。続出するトラブルやミスに加え、メリットも感じられないのであれば従来の保険証を使い続けたいと思う人は少なくないはずだ。バラマキによって強制的に移行させるのではなく、主権者の理解と協力を得られるよう十分な説明を繰り返すのが政府の責務なのではないか。

たしかにマイナ保険証には国民の利便性を向上させる面もある。

薬剤・特定健診など情報に基づいた医療を受けることができ、手続きなしで高額医療の限度額を超える支払いが免除になるといった点などだ。病院や薬局がオンラインで薬剤情報などの患者情報を確認でき、問診などの業務負担が減ることも考えられる。マイナ保険証を利用すれば過去に処方・調剤された薬の情報や医療費をオンラインサービスで確認できる。毎年手続きに時間がかかる確定申告の医療費控除も簡単だ。

いや、負えよ…「故意または重過失の場合を除いてデジタル庁は責任を負わない」

ただ、もう別人の情報が登録されていたり、患者の取り違えや薬の処方ミスがあったりといったミスは絶対にあり得ないのか国民に保証すべきだ。健康や命にかかわる情報は、単に「ヒューマンエラーがありました」と発表されるだけでは済まない。紛失や盗難、ICチップの情報が読み取れない場合の対応も課題だろう。再発行に1~2カ月程度かかっているのを待っていたら、医療が必要な人が受診を控える可能性もある。

政府のオンラインサービス「マイナポータル」の利用規約を読むと、第26条には「マイナポータルの利用に当たり、利用者本人又は第三者が被った損害について、デジタル庁の故意又は重過失によるものである場合を除き、デジタル庁は責任を負わないものとします」と免責事項がある。故意または重過失の場合を除いてデジタル庁は責任を負わないということだ。

第3条には「利用者は、自らの責任によりマイナポータルを利用し、マイナポータルが提供する以下のサービスやそれに関連する情報及びアカウントを適切に管理するものとします」と記載し、利用者側の責任も強調されている。オンラインサービスには当然の文言に思えるが、結局のところ強制的に現行の健康保険証を廃止しておいて責任は取らないという意味ではないのか。

マイナンバー制度に便乗した不審な電話やメール、訪問なども後を絶たない

独立行政法人「国民生活センター」によれば、マイナンバー制度に便乗した不審な電話やメール、訪問なども後を絶たない。「マイナポイント事務局からのメールと誤信してクレジット番号などを入力してしまった」「行政機関を名乗り、還付金の支払にマイナンバー

カードが必要との不審な電話があった」などは、高齢者のみならず不安にさせるものだ。

様々な情報がマイナンバーカードに集まる中で、河野デジタル相は「マイナンバーカードを落としても電話で止めることができる」「銀行のキャッシュカードと同じで4桁の暗証番号がなければ何もできません」などと説明するが、マイナンバーカードの情報を守る責任は国にもある。様々なリスクに対応するとともに、利用者が犯罪被害に遭わないよう徹底した呼びかけが欠かせない。

4月1日から預貯金口座のマイナンバー付番がスタートしたが、岸田文雄政権は医療・介護の保険料算定に株式配当などの金融所得を反映させる検討も始めている。気になるのは、どのように金融所得を把握するのかという点だ。3月12日の参院内閣委員会で自民党の磯崎仁彦氏が質問した内容は注意深く見る必要がある。

「タダより高いものはない」のにマイナ保険証は20万円払ってでも普及させたい

磯崎氏は「どういう風に捕捉するのかというのが恐らく一番大きな課題ではないか。やはりマイナンバーカードと預貯金口座との紐付けには強い抵抗感もあるというのが現実だ。課題は多々あろうかと思うが、公平な負担という観点からすれば検討をしていただきたい」と質問した。

答弁に立った新藤義孝経済再生相は「医療・介護保険における金融資産などの取り扱い、応能負担をより公平なものとするためにどのような仕組みにしたらいいのか、実効性と公平性の両方を確保するといった観点から引き続き検討していきたい」と応じている。与党議員が質問し、政府側が「引き続き検討」と答えるのは実現可能性が高いとみられるものだ。

預貯金口座とマイナンバーの紐付け管理は強制ではなく任意のため、ピンとこない人がいるかもしれない。だが、金融所得の把握もするということであれば永遠に「任意」ということにはならないのではないか。

昔から「タダより高いものはない」といわれるが、マイナ保険証は医療機関に20万円も支給してまで国が普及させたいものだ。2024年度末には運転免許証とマイナンバーカードの一体化も開始される。河野氏は「いつまでたっても『不安だ、不安だ』と言っている」と見るかもしれないが、1つ言えることは国民の理解と協力なくして政策は前に進まないということだ。このままマイナ保険証の信頼性が向上しないならば、廃止時期の見直しをオススメする。

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