潮流発電プロジェクトに取り組む 南島原の相川武利さん 大手企業で活躍後Uターン 「地方の底上げを」

早崎瀬戸の前で「地球の恵みを未来の世代へ継承したい」と語る相川さん=南島原市口之津町

 活火山の雲仙・普賢岳がそびえる島原半島は、豊かな自然が自慢だ。だが、長崎県内の多くの地域と同じように、人口減少や地域経済の縮小に直面している。時代が変化する中、求められるのは、特性を生かした持続可能な地域づくりだ。独自の視点やアイデアで半島の活性化に挑む人たちの姿を紹介する。

 西有家町で生まれ育った。「子どものころはノリ養殖が盛んだった。磯の香りの中、アサリやタコを捕った」と懐かしむ。
 幼少期から見続けた海が人生を変えた。帰省した際、島原半島南端の早崎まで車を飛ばした。目の前の早崎瀬戸を上げ潮が猛スピードで流れていた。「潮力を再生エネルギーにできたら」と思いを巡らせた。
 早崎瀬戸は島原半島と天草諸島の間にある約4.5キロの海峡。潮流の速度は最大7ノット(時速約13キロ)に達し「日本三大潮流」の一つに数えられる。
 2020年8月、「地球の恵みを未来のために」と早崎潮流発電推進研究会を設立した。以来、南島原市内の有志らと潮流発電の事業化に取り組んでいる。
 潮力発電は潮の満ち引きで生じる潮流を利用する。昼間しか発電できない太陽光や風任せの風力に比べ、秒速1.5~2メートルの潮流があれば発電が可能で、安定供給が期待できる。
 県立島原高から京都大に進学し、華々しい道を歩んできた。政府系金融機関の国際協力銀行(旧日本輸出入銀行)やブラジル石油公社で活躍。IHIなど大手企業で要職を歴任した。化学・機械メーカーのダイゾー(大阪)の社長を最後に、2年前に61歳で帰郷した。
 Uターンの背景には、しぼむ日本経済への憂いがあった。
 バブル経済崩壊後の“失われた30年”で国力は低下した。世界時価総額ランキングでは、1989年にはトップ5を日本企業が独占していたのに、2022年には50位以内に入ったのはトヨタ自動車(31位)だけだった。「日本の競争力を維持するには理数系のレベルを上げる必要がある」と痛感した。
 そのためにも地方の底上げが必要だ。「古里の子どもたちと一緒に、グローバル社会の課題を考え、科学的に解決策を探求する機会をつくりたい」と語る。
 古里で潮流発電のプロジェクトを始動すると、地元高校生の探究授業に、第一線で活躍する大学の研究者や企業のエンジニアを招いた。
 昨年11月、口之津町の沖700メートルで垂直タービンを使った実証実験に成功した。「秒速1メートルの潮流でも全方位からエネルギーを収集できた」と自信を口にする。潮流発電のニーズが見込めるインドネシアや南米などをターゲットに、28年までの商業化を目指す。
 「成功は終わりではない。重要なのは挑戦を継続する気力。命尽きるまで生きがいを追求したい」。情熱は尽きない。

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