話がまとまっていたのに。「一言も発していなかった」相続人が突然、金銭を要求!…“後味の悪い結果”へ【司法書士が解説】

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「相続は事前に話し合わないと、9割が揉める」……裁判沙汰にならないまでも、遺産を巡って不仲になる、遺産分割以外にも介護、お墓に関するトラブルなどが発生することを考えると、9割という数字は決して大袈裟なものではありません。司法書士兼行政書士である太田昌宏氏の著書『円満相続のための 家族会議の始め方』(メディアパル)より、一部抜粋して紹介する本連載。太田氏が、司法書士ならではの視点から、トラブルを未然に防ぎ、円満な相続を実現するための家族会議の方法を、できるだけ分かりやすい表現を用いて解説します。

財産が少ないからこそ伝えるべきこと

いくら家族で話し合っていても、相続でもめてしまうケースは多々あります。私が経験したトラブル例を紹介します。

おもな相続財産は不動産のみでした。相続人が集まって遺産分割協議を行った際、「不動産は現在そこに住んでいる相続人が相続し、その他の相続人は相続財産を一切もらわない」という話でまとまったかのように見えました。

ところが後日、遺産分割協議書に署名捺印をする段階で、それまで一言も意見を発しなかった相続人が突然、法定相続分相当の金銭を要求したのです。

おそらく、遺産分割協議の時点では知識がなく、その後に自分で調べるか、専門家などに話を聞くかして、「相続権がある以上、相続分相当はもらいたい」と考えたのでしょう。最終的に、不動産を相続する相続人が異議を述べた相続人に一定の金銭を払うことで解決しましたが、後味の悪い案件でした。

こうしたケースを避けるために遺言書を用意するわけですが、遺言書があっても、相続人には遺留分を請求する権利があり、完全に解決することはできません。財産が少ない、分けづらいといった場合でも、家族で話し合う際には、相続分や遺留分などそれぞれに認められる権利があることを、親(被相続人)が全員に周知するのがよいと思います。

専門家に任せるべき死後の業務

相続に関する手続きは、原則として相続人自身が行うこともできます。しかし、専門家と違い、ほぼゼロ知識から相続手続きを行うことになります。

たとえば、相続人の特定、相続財産の調査・把握・確定、遺産分割協議書の作成、相続登記、相続税の申告などは手間がかかるうえに知識が必要な手続きです。費用の節約という点で否定はしませんが、専門家に依頼したほうがスムーズです。

以下、代表的な手続きをいくつか紹介します。

まず、「遺産分割協議書」の作成があげられます。これは相続発生後、相続人間の話し合いで決定した被相続人の財産を、誰がどのように承継するか協議の内容を書面にし、相続人全員が記名押印あるいは署名捺印したものです。

相続人はこの書面を使って、相続登記や預貯金の払い出しなどの手続きを進めていきます。

遺産分割の内容は相続人が決めますが、その具体的な記載方法などは財産の量・種類が少なくても検討しなければならない場合もあります。財産が多岐にわたる場合や相続税がからむ場合は、内容を精査する知識や経験も必要です。

次に、相続手続きを簡便にする「法定相続情報」という書類があります。かんたんに言えば、法務局が発行する相続関係図(相続に必要な部分のみの家系図)です。各種手続きの際、相続人を証明する書類として戸籍と同等に使うことができます。

法定相続情報を発行するには、相続人や専門家が相続関係図のほかに被相続人と相続人の戸籍謄本などの必要書類を添えて法務局に申請をします。おおむね1週間程度で作成できます。

このような書類の作成を専門家に依頼した場合の費用は一律ではありませんが、内容が複雑である場合やくわしい財産調査を要する場合などの作業が加わると、高くなる傾向があります。

また、ほかの手続きと合わせて依頼されるケースが多いです。

財産承継手続きは自分でもできるが……

相続が発生すると、被相続人の財産を相続人に引き継ぐ必要が出てきます。すなわち、預貯金、上場株式、投資信託、不動産、各種権利、債務などの財産を遺言書や遺産分割協議書に基づき相続人に引き継ぐわけです。

これら財産の名義変更や払出し、分配、相続登記や不動産の換価処分、契約の承継・解約など一連の手続きを、専門家が代理して行うこともできます。

専門家に依頼するケースとしては、これらの手続きを相続人自身で行う手間や時間がかけられない場合、相続人間にわだかまりがあるため第三者に分配作業を行ってもらいたい場合、遺産分割協議書や遺言書の中身が複雑な場合などがあります。

預貯金の解約のみといったかんたんな依頼は、ひとつの金融機関あたり数万円からですが、まとめて手続きを依頼する場合は、総財産の数%といった報酬になることが多いです。自分たちですること、専門家に依頼することをうまく配分して、手続きをスムーズに進めることが最良の選択でしょう。

太田 昌宏

司法書士・行政書士

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