輪島の倒壊ビル撤去、見通せず 居酒屋下敷き、母娘犠牲に

国総研などによる倒壊ビルの基礎部の調査=4月19日、輪島市河井町

  ●所有者、市に公費解体申請 

  ●店主、原因究明へ保全求め 

  ●市、慎重に着手時期探る 市道一部ふさぐ

 能登半島地震で倒壊した輪島市河井町の輪島塗老舗・五島屋のビルをいつ撤去できるか、見通しが立たない状況が続いている。今回の震災の被害を象徴する7階建ての建物で、所有者から市に公費解体の申請が出された一方、ビルに隣接し押しつぶされた居酒屋で妻と長女を亡くした男性店主は、倒壊の原因が明らかになるまで取り壊さないよう主張。市道の一部をふさいでおり、市などは早期解体へ準備を進めるが、「時間が止まったまま」という男性との溝は深く、市は作業着手のタイミングを慎重に探っている。

 ビル倒壊の原因究明を求めているのは、ビルの隣にあった居酒屋「わじまんま」の店主楠健二さん(56)。地震で自宅兼居酒屋がビルの下敷きになり、妻由香利さん=当時(48)=と長女の珠蘭(じゅら)さん=同(19)=が犠牲になった。

 楠さんは現在、川崎市に移り、定期的に輪島に戻っては由香利さんと珠蘭さんの遺品を探す日々だ。建築物の安全性を専門とする構造建築士に自ら委託してビルの倒壊について調べており、「原因が分からない現状では妻と娘が浮かばれず、私自身も気持ちに一区切りつけることができない。それまでビルを今のままの状態にしておいてほしい」と訴える。

 五島屋のビルはコンクリート造で、1970年代に建てられた。基礎部の東側が3メートルほど沈下したことで、楠さんの居酒屋の方に倒れた。

  ●国調査終了の秋が焦点か

 国土交通省の国土技術政策総合研究所(国総研・茨城県つくば市)などもなぜ倒壊に至ったか調査中で、今秋をめどに結果をまとめる見通し。柱や壁の外観に大きな損傷は見られないことから、基礎部のくいや地盤の影響を調べているという。

 公費解体は地震で全半壊した建物を所有者に代わって自治体が解体・撤去する制度。このビルについては五島屋(輪島市)が市に申請済みだ。楠さんは所有者ではないため、作業着手に直接関わる権利はないものの、国が調査を終えるまでは解体に取り掛からないよう、市に要請している。五島屋の五嶋躍治(やくじ)社長は「コメントできることはない」としている。

 地震発生から4カ月余り。発生2日後に傾いたビルの解体が始まった台湾・花蓮の事例と比べ、能登では手続きが煩雑で公費解体がなかなか進まず、いつまでも発生当時と光景が変わらないとの指摘がある。

 坂口茂市長は8日、北國新聞社の取材に「市民の安全確保のためにも解体は必要だと考えている」と強調し、解体費の算定などの準備を進める方針を示した。

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