鬼の岸田含め31人、渡航費用12.6億の最終攻撃…「世間ズレ」腐敗の根本を断てない政治、弁護士の指摘「ふざけるのは大概にせい」

歴史的な円安・物価高に苦しむ庶民を尻目に、ゴールデンウイーク(GW)期間中の岸田文雄首相含め31人が外遊ラッシュが今年も繰り返される。岸田首相は5月1日から6日までの日程で、フランス、パラグアイ、ブラジルを訪問した。日刊ゲンダイは4月30日配信の記事で「今年の外遊も例年の規模感と同じなら、単純計算では12.6億円の出費」と分析している。国民の政府に対する不信感は強まる一方だ。元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏がなぜ政治が信用されないのか、弁護士に取材したーー。

自民党のなんちゃら裏金対策にNOをつきつけた衆院補選

「後出しで『実は政治資金でした』と申告しても、何のお咎めもなしでは世間の感覚とのギャップが大きすぎます」

こう述べるのは東京都大田区蒲田の商店街に事務所を置く弁護士の野澤隆氏だ。野澤隆弁護士は、このフレーズに関連して今回の裏金問題を次のとおり解説する。

「民主主義には、選挙での当選や議会での多数派工作が大前提です。そのため有権者に対するアピールや党内政治を勝ち抜くための軍資金がどうしても必要となりますが、今回の3つの衆院補選の結果をみる限り、昔の感覚では通用しないようです。多くの有権者が資金の透明性を求めており、制度を改善する必要があります。今になって振り返れば、数千万円単位の裏金でも100万円程度の罰金、数百万円単位の裏金では党内の戒告レベルの処分といった対応で乗り切ろうとした自民党の目論見が世間ずれしていたのは明らかです。衆議院の任期満了まで、まだ時間がありますので、世論の怒りが沈下したり、総理・総裁の『首のすげ替え』などによってこのピンチを脱する可能性は十分あります。『政治とお金の問題は、民主主義のアキレス腱』。世間で裏金問題が大々的に取り上げられた昨年冬頃、かつて大学の政治学・政党論の授業で聞いたこのフレーズを久しぶりに思い出しました」

あまりにも世間とのギャップがひろがりすぎた

論戦が続く制度改正について野澤隆弁護士にさらに尋ねると、次のとおり分析した。

「政治資金として計上していなかった分については、本来、『雑所得』などの形で所得税を納めるべきものです。後出しで『実は政治資金でした!』などと申告しても、何のお咎めもなしでは世間の感覚とのギャップが大きすぎます。後出しできる分は過去3年分程度までとするぐらいの制度改正はすぐに導入すべきです。また、政治資金という名目だけで1円も所得税を払う必要がない、死亡後の相続税も取れないでは(政党ではなく政治家個人の後援会が頼みの綱の日本では)政治家の家業化・世襲化を防止することが困難です。政治資金としてプールできる金額に上限を設けたり、不動産や株の取り引きなどで行われている一律20パーセント程度の税を課すといった制度導入も検討すべきです」

そもそも日本の国会議員は世界3位の高給取り

NHKニュース(2月8日)によれば<東京地検特捜部の捜査で、自民党の安倍派、二階派、岸田派が、おととしまでの5年間で合わせて9億7000万円余りのパーティー収入を政治資金収支報告書に記載していなかったことが明らかになりました>という。

日本の国会議員の報酬は、世界議員報酬ランキング(東洋経済オンライン「日本3位「国会議員の報酬」世界30カ国ランキング」2022年1月17日)で、世界第3位の高級取りだ。世界で3番目にお金をもらっておきながら、さらに裏金をつくっているというのは、呆れるほかない。

一体、何にお金を使っているのだろうか。月刊文藝春秋(2024年2月5日)では、萩生田光一前自民党政調会長、加藤勝信元内閣官房長官、武田良太元総務大臣がこのように説明をしている。

まず、萩生田氏。

「政治は金がかかる」のら地元にバラ撒くため

「冠婚葬祭については、これはポケットマネーで、人間関係の中でやっていることなので、それを負担だというふうにはあまり思いません。ただ、例えば、普通は講演すれば講演料を貰えますが、我々は逆にお祝い金を持っていかないといけません。一般の方からすれば理解できないところがあると思いますが……」

徹頭徹尾、政策は関係ないようだ。ただただ、選挙対策。地元にお金をばら撒くことでお金が大変になっていることが見て取れる。

次に、加藤氏。

「事務所費や人件費の負担も大きいです。私の地元は、衆院選の区割り変更に伴い、選挙区が2倍以上広がって5000キロ平米弱となりました。新たに事務所を増やしましたし、様々な行事に参加したり、有権者から政策課題を聞くのにも人手が必要です。国が給料を負担する公設秘書は3人までですから、それ以上は自腹です」

なんでパーティー券を非課税にする必要があるのか

これまた選挙運動である。政治にお金がかかるというよりも、ひたすら地元にお金をばら撒いて有権者の歓心を得ていることがわかる。民間企業で言えば広告・宣伝活動費だ。なんでそのような目的のために、パーティ券の収入を非課税にする必要があるのか。私たちは、税金で世界で3番目に高い給料を彼らに支払わされ、その金で自分たちの宣伝活動をしているのだ。

最後は、武田氏だ。

「私の選挙区は十数市町村にまたがっていて、20人近く秘書がいますが、彼らにも家庭があり、生活がある。しっかりと給料を支払わないといけません。また、当選3回くらいまでの若手議員であれば、携わる政策分野は限られますが、当選回数が増えていろんな役職を経験して、内政、外交と分野が多岐にわたってくれば、いろんな専門家の方々と会合や勉強会を重ねて、自分なりの「シンクタンク」を形成していかなければなりません。そのための費用も手当てしなくてはならない」

武田氏になって、やっと、国民にとってかろうじてメリットのありそうな、まともそうな使い方が示された。

それにしても、ふざけるのは大概にせい

それにしても、ふざけるのは大概にせいといいたい。政治にはカネがかかるというが、民間企業だってカネがかかるのだ。外国からの賓客をもてなすというが、民間企業並みの接待で十分だ。いずれにしろ、そんなわけのわからないお金は自分のお金で出すべきだ。私たちの税金で支出すべきではない。先述の野澤弁護士は、こう見解を示す。

「政治は、公務と私生活では割り切れないグレーな活動範囲が広く、このグレーな部分にいかに対処するかという問題は民主主義最大の難問です。解決策の一つは、ワークライフバランスの観点から個人競争・家族競争ではなく政党間競争を前提に公費範囲を拡大させプライベートな部分を切り離すことで、政治家を地元の冠婚葬祭・飲み会への参加や利益誘導・あっせん関連の仕事から解放し女性の政治参加を進めるヨーロッパ、特に北欧のスタイルで、新聞やテレビなどで理想モデルとしてよく紹介されていますが、政治風土が違う日本ですぐ適用するのは困難です。もう一つは、自助努力でかき集めた巨額マネーが大統領選挙などで動くことを前提に情報公開を進めるやり方、グレーな部分を少しでも透明化するアメリカ型で、今の日本ではこちらの方が現実的だと思われます。とはいえ、政治家に活動資金を提供することが『悪代官に賄賂を渡している』と疑われがちな日本では、スポンサーサイドが自己の情報ができる限り出ないことを望んでいる以上、公開対象をどうするか、公開基準をいくらにするかは熾烈な政党間駆け引きを経て決定されることになるでしょう」

腐敗が当たり前になってしまう『腐敗の罠』にはまっている

先の3人の議員たちの証言を踏まえれば、選挙区にばら撒くだけばら撒いて腐敗した現職政治家と新人候補との争いでは、圧倒的に新人候補が不利ということになる。選挙制度は、不自然なぐらいに、お金を使うことに厳しいルールづけをする一方で、選挙期間に至る過程で現職政治家が腐敗を続けることができてしまう。官僚や利害関係者を高価な飲食店で接待し、許認可や公共事業における情報の優位性を確立していくわけだ。この点について、先行研究である『政治腐敗の罠』(Marko Klasnja氏ら「Political Corruption Traps*」2016年、ケンブリッジ大学)は、このように指摘している。

「政治学者や政策立案者は、政治の制度的な腐敗には深刻なコストが伴うことを認識している。しかし、多くの国や地域は頑固にも、腐敗が当たり前になってしまう『腐敗の罠』にはまっている。ほとんどの既存の理論は、一定の官僚や政治家の間で腐敗行為への期待がお互いに強化しあっている」

自分の影響力を高めようとすることで、腐敗が増えていく

この論文が総じていっているのは、政治の腐敗は、まったく公共の利益になっていないこと。そして、公共の利益になっていないとみんなが認識しているのに、それぞれの立場が、自分の影響力を高めようとすることで、腐敗が増えていくというわけだ。これが腐敗の罠だ。「政治にはカネがかかる」という政治家の口車に乗るのは、本当に危険だ。政治に金がかかっているわけではなく、選挙、党内政局、自分自身の地位の確立にお金がかかっているだけなのだ。政治の腐敗は、腐敗者が自分のしてきたことを完全に後悔させるレベルまで追及しなくてはいけない。

まずは、腐敗した政治家を選挙で落とし、民間レベルの給料、民間レベルの刑罰、民間レベルの課税方式を政治家に課すことからはじめようではないか。

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