【漫画】「月」を食べるとどんな味がする? なぜかリアルで少し不思議なSNS漫画が面白い

食べることのできる「月」が流行した世界を描く、少し不思議な短編漫画『月を食べること』が2024年4月にX等のSNSで投稿された。まるでメロンやスイカのような見た目をした果実は、その美味しさから一世を風靡することになる。しかし月の流行の幕引きは非常にあっけなくーー。

まるで世の中を俯瞰しているかのような気分になる本作について、作者・禾屋眺(のぎやのぞむ)さん(@nogiya_jaga)に創作のきっかけ、作品のテーマなど、話を聞いた。(あんどうまこと)

ーー創作のきっかけを教えてください。

禾屋眺(以下、禾屋):本作は「もしも月を食べられたら、どんな味がするんだろう」と思ったことが創作のきっかけです。実際に月を食べることはできませんが、もしも月に自生する植物があったら「月を食べる」という願いが叶うと思い、本作のタイトルや物語の内容を考えました。

「タピオカ」や「マリトッツォ」など、流行したものの多くはいずれ忘れ去られてしまうかと思います。そんな「流行の発展と衰退」をテーマに本作の物語を考えました。

ーー月(ヴィナスの実)が世に出回るまでの過程の解像度が高く驚きました。

禾屋:私の実家は農家であり、植物を育てることが身近にありました。そのため食べられるもののイメージとして植物は想起しやすかったです。

また流行するものは、おそらく研究を重ねた結果として流行するようになったと思うので、その分野の人が研究に奮闘する様子を描きたいと思いました。世に出たあともすぐに庶民に広まるのではなく、最初は貴重なものとして世に出たのではないかと考えながら、月の実が流行する背景を考えました。

ーー主人公の立ち位置は他の人物とは異なるものであったかと思います。

禾屋:「流行の発展と収束」を描くなか、主人公が客観的な立ち位置であれば、流行の流れが読者に伝わるかと思い主人公のキャラクター像を考えました。

漫画では主人公の目線が読者の方の目線になると思います。流行の流れを俯瞰的に見てもらえるように、主人公を客観的な立ち位置として描きつつ、彼のキャラクターもなるべくシンプルにしました。

ーー「人は少し/月に近づきすぎたのかもしれない」というモノローグで終わりを迎える、最後のコマが印象に残っています。

禾屋:月はいつも空にある身近なものですが、手を伸ばしても届かない。本作では月を食べることで、どんどん人間が月に、憧れの存在に近づいていく様子を描きたいと思っていました。

しかし月は神秘的なものであってほしいという願望もありました。そのため作品の終わりでは、月は人間にとってまだまだ未知の存在、手を伸ばしても届かない存在であったことを表現しようと思い、最後のコマを描きました。

ーー漫画を描きはじめたきっかけを教えてください。

禾屋:小学生のころに母が漫画雑誌を買ってくれて、それから漫画を読み続けています。漫画を読むなかで気持ちが救われたと思うことが多くありました。そんな漫画を読むなかで自分も漫画を描いてみたいと思うようになったものの、小学生の私は作品を完結させる力がありませんでした。

漫画に限らず絵を描くことが好きだったので、中学・高校では美術部に所属し、大学は美術系の学部を選びました。そのなかで大学生になってから漫画を出版社に投稿するようになり、今は担当さんと一緒に漫画を描いています。

ーー漫画を描くことの魅力は?

禾屋:ストーリーから脚本、構図など……。何から何に至るまで、1から自分で作品をつくり上げることが楽しいと思います。今ほど挙げた基本的なものだけでなく、流行を取り入れたりなど、さまざまな要素を詰め込み1つの漫画をつくる漫画家さんは本当にすごいと思います。

世の漫画家さんが淡々と行っていることのすごさに気づいた瞬間、私もそっちの世界に行きたいって思いました。そんな尊敬の念が漫画を描くモチベーションになっています。

また中学生のころ、自分の描いた漫画を友人に読んでもらったことがありました。そのとき友人に漫画を褒めてもらえて、それがすごく嬉しくて。「すごい」「感動した」と言ってもらえることが何よりもうれしいので、人を喜ばせたいという思いも私が漫画を描くモチベーションです。

ーー今後の目標を教えてください。

禾屋:漫画で自分が救われたように、つらい思いを抱く誰かを慰めたり、元気づけたりできる漫画を描き続けていきたいです。

今は商業媒体での連載を目指していますが、どんなかたちであれ、この先もずっと漫画に関わっていけたらいいなと思います。

(あんどうまこと)

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