【千葉魂】できることコツコツと 粘りの男 小川龍成 千葉ロッテ

粘りの男 小川龍成

 肌寒い雨が降りしきる神戸のグラウンドで存在感を示した男がいる。5月1日のバファローズ戦。9番セカンドでスタメン出場した小川龍成内野手だ。第1打席は右前打。第2打席が一塁内野安打。3打席目は左前打。4打席目と5打席目は二塁の失策で出塁。3安打猛打賞で全打席出塁。何よりも特筆すべきは5打席で相手投手に投げさせた球数は34球にもなったことだ。ファウルで粘って粘って出塁をした。この試合は2点ビハインドの九回に5点を入れて逆転勝ち。小川の執念がもぎとった勝利と言っても過言ではない。

 試合後、吉井理人監督も「今日は本当に小川が頑張ってくれた。キャンプから新しいことにトライして一生懸命に練習をしているのは知っていたので。結果が出てくれて良かった。何よりも彼が粘ったからこそ相手先発の田嶋投手は五回までしか投げることができなかった」と目を細めた。

 2月の石垣島キャンプ。指揮官は全体練習後に連日、打ち込みを行う小川の姿をしっかりと見ていた。室内練習場に入って右側。そこが定位置だった。ある時、ふと気が付いた。打った後のボールがいつも同じ箇所に集まっていた。

 「一人でいつもこつこつと打っている姿を見ていた。いつもずっとやっていた。そして打ったボールは全部、レフト側に集中していた。次の日もその次の日もそうだった。打った後のボールが同じ箇所に集められているように転がっていた。ああ、この選手は意識的に狙って反対方向への流し打ちに取り組んでいると分かった。今まではどちらかというとフルスイングをしていたタイプ。自分がどういう選手としてチームに貢献すべきか、しっかりと自己分析をしてキャンプに入ってきて取り組んできているのだなと思う。行動が変わって意識も変わってプレーも変わった。そして今、取り組んできたことが試合でできるようになってきている」と指揮官は振り返る。

 小川も試合後、「追い込まれてからは本当に粘る意識。球数を投げさせることができたのは良かった。今年は何かを変えないとという意識でキャンプに入って村田修一打撃コーチからアドバイスをいただいて逆方向の意識で取り組んでいる。それが試合でできて、こういう形でやっていけばこの世界で生き残る道はあるのかなあと、少し感じています」。その表情に充実感が漂っていた。

 ちょっとしたきっかけ、意識を変えることで人生が大きく好転することがある。若者はバットを短く持ちながら必死にボールに当て続ける。一発長打の快感は捨てがたいが、あえて反対方向にこつこつと打つことを意識し続けている。そして1軍で生き残る道筋が少しずつ見えてきた。そんな神戸の夜だった。

(千葉ロッテマリーンズ広報・梶原紀章)

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