北朝鮮の宣伝扇動を主導した金己男氏、94歳で死去

北朝鮮の宣伝扇動活動を長年指揮してきた金己男(キム・ギナム)氏が7日、94歳で死去した。国営メディアが8日、伝えた。

死因は高齢と、2022年から治療を受けていた「多臓器不全」だと、朝鮮中央通信(KCNA)は伝えた。

故金日成(キム・イルソン)主席から金正恩(キム・ジョンウン)総書記まで3代にわたり、「金王朝」最高指導者の人格崇拝を進めるなど、北朝鮮のプロパガンダ活動を主導した。

金正恩氏は8日に弔問し、体制に「限りなく忠実であり続けたベテランの革命家」だったとして哀悼の意を表した。

一方、韓国の聯合ニュースは、金己男氏をナチス・ドイツの宣伝部長ヨーゼフ・ゲッベルスになぞらえた。ゲッベルスは「うそも100回言えば真実になる」の文句で知られる。

金己男氏は、北朝鮮の支配者一家とは血縁関係はなかった。1966年に朝鮮労働党の宣伝扇動部の副部長に任命され、故金正日(キム・ジョンイル)総書記の側近となった。一部報道では2人は「飲み友達」だったとされる。

その後、宣伝扇動部のトップとなり、北朝鮮のメッセージ形成に重要な役割を果たした。

1970年代には、党機関紙「労働新聞」の責任者に任命された。

北朝鮮の政治文化に関するウェブサイト「North Korea Leadership Watch」によると、金己男氏はその後、建国の父と広くみなされている金日成主席について歴史的役割を確立し、息子の金正日総書記への指導者継承を支えた。

2009年には韓国の金大中元大統領の葬儀に代表団を率いて参列。訪韓経験のある数少ない北朝鮮高官の1人だった。

国営メディアが2015年に掲載した写真には、長身で眼鏡をかけた金己男氏(当時80代)が、軍高官らの間に立って金正恩氏の話をメモしている姿が写っていた。

2010年代後半に引退し、自らの役割を金正恩氏の妹の金与正(キム・ヨジョン)氏に引き継いだ。ただ、公的行事には姿を見せ続け、現体制とも良好な関係にあることをうかがわせた。

米拠点の北朝鮮分析サイト「38ノース」のシニアフェロー、レイチェル・リー氏は、8日付の労働新聞が一面すべてを金己男氏の死去と葬儀の詳細に割いたとし、同氏への「敬意を物語るものだ」と述べた。

ソウルにある梨花女子大学のレイフ=エリック・イーズリー教授は、金己男氏の死去について、北朝鮮のプロパガンダにとって「ひとつの時代の終わり」を意味すると話した。

「朝鮮半島の内外に向けて、北朝鮮の政権を美化しようと努めた人物だった」

イーズリー氏によると、北朝鮮のプロパガンダは、南北統一を目指す一世代前のナショナリズムから変容したという。

「金正恩は現在、韓国人を悪者扱いし、政治的正当性のために核兵器に大きく依存している」

(英語記事 Kim family's master propagandist dies at 94

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