『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』21世紀に受け継がれた強力な『猿の惑星』サーガ第1弾

ペットにまつわる新聞のニュースからリブート始動


1963年に発表されたピエール・ブールの小説の映画化にして、SF映画の金字塔ともいわれる『猿の惑星』(68)。高度な知能を持つサルが人間を支配するという未来を描いた同作は、多くの観客に衝撃をあたえてきた。そしてそれはシリーズ化やリブートなどで現代にも語り継がれ、2024年にはリブート版シリーズの最新作『猿の惑星/キングダム』が公開される。

ここで簡単に『猿の惑星』ユニバースの整理をしておこう。68年の『猿の惑星』がヒットしたことで、続編『続・猿の惑星』(70)が作られ、さらに『新・猿の惑星』(71)、『猿の惑星・征服』(72)とシリーズ化がなされ、『最後の猿の惑星』(73)で一応の完結を迎える。伝説が再び動き出したのは21世紀に入ってから。ティム・バートン監督による1作目のリメイク『PLANET OF THE APES 猿の惑星』(01)は興行的に成功したものの、評価は低調で盛り上がりに欠けた。

『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』予告

フランチャイズの転換は2006年、脚本家のリック・ジャッファが見つけた新聞記事に始まる。ペットのチンパンジーの扱いに困った飼い主のニュースを読んだ彼は、これを『猿の惑星』シリーズの世界観に組みこむ可能性を模索。妻であり創作のパートナーでもあるアマンダ・シルバーとともに20世紀フォックススタジオに売り込み、認められた。この企画が本稿の主役にして、記念すべきリブート版第1作『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(11)だ。

『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』の物語は、68年版『猿の惑星』の前日譚と位置付けられている。なぜサルは知能を得たのか? なぜ人類は破滅の道をたどったのか? 現代社会において、それらがどのようにして起こるのかを考察した本作。その魅力を探ってみよう。

人間とサルの絆に端を発する、終わりの始まり


舞台は現代のサンフランシスコ。製薬会社に勤務する学者ウィルはアルツハイマー病の治療薬の研究をしていたが、実験用の雌のサルが投薬によって凶暴化してしまったことにより、研究凍結の憂き目に合う。彼の父は認知症を患っており、ヘルパーも手を焼くような状態。そこでウィルは、雌ザルが遺した雄の子ザルを引き取り、自宅でさらに研究を続ける。やがてシーザーと名付けられた子ザルが、投薬による発達した知能を母から遺伝で受け継いでいたことが判明。ウィルが父にこの実験薬ALZ112を秘密裏に投与すると、父はかつての快活さを取り戻した。

シーザーの怪我の治療で知り合った獣医キャロラインと恋に落ちるウィル。しかし、5年後、父の病が再発。さらにシーザーはそんなウィルの父を守ろうと、外に飛び出して隣人を傷つけてしまった。ウィルと父、キャロラインとともに家族のように暮らしてきたシーザーだったが、これにより引き離され、霊長類保護施設に送られることになる。

『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(c)Photofest / Getty Images

以上が前半のあらすじだが、人間と動物の絆に加え、親子、恋人同士の絆が絡み合い、ヒューマニズムが上手い具合に機能。ウィルだったら、シーザーだったら、感情的にこういう行動に出るだろう……ということが緻密にシミュレートされる。脚本家ジャッファが最初に見つけたニュースは、ウィルとシーザーの別れの部分に表われている。ちなみに実験薬に付けられた数字の“112”は、『猿の惑星』のランニングタイム=112分から来ている。

しかし、人間は必ずしもヒューマニズムに基づいて行動しているわけではない。施設に送られたシーザーは施設の管理人ランドン親子の虐待に遭う。そんなシーザーの境遇に胸を痛めつつも、ウィルは父を助けようと、アップデートされた新薬ALZ113の研究を進め、動物実験により会社にもその効果が認められた。それが人類の破滅の引き金を引くことになるとも知らずに。

怒れるシーザーついに言葉を発する!


本作には、旧『猿の惑星』へのオマージュが多く見受けられる。たとえば、施設で虐待されるシーザーはランドンによって檻の中で、ホースで水をかけられるが、これは1作目でチャールトン・ヘストンふんする主人公が同じ目に遭う場面への返歌。また、シーザーが施設で知り合うサーカスのオランウータン、モーリスの名は、1作目でオランウータンの博士を演じた俳優モーリス・エヴァンスに由来する。

シーザーはこの後、施設で出会ったサルたちをまとめ上げ、リーダーとなっていく。ランドンのひどい仕打ちにより、人間への憎悪が高まってしまった彼には、もはやウィルの声が届くことはなかった。やがて彼はスタンガンを振るうランドンに対して、はっきりと声を上げるーー“No!”。これがリブート版『猿の惑星』ユニバースにおいて、サルが初めて発した言葉。『猿の惑星・征服』にもシーザーというサルが同様の抵抗を示す場面があるが、これまた旧作へのオマージュだ。

『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(c)Photofest / Getty Images

ともかく、虐げられた者の怒りが爆発するこの場面はある意味、本作最大の山場。『猿の惑星』シリーズは以前から、マイノリティに対する差別を浮き彫りにした作品として語られることが多かったが、本作もそんな寓意を受け継いでおり、反動物虐待の直接的なメッセージに加えて、被差別者の自由の希求も見えてくる。もちろん、多くの観客はこの時点で人間ではなく、シーザーに感情移入することになる。

物語はこの後、シーザーに率いられたサルたちが街に飛び出し、サンフランシスコをパニックに陥れるクライマックスへと突入。ゴールデンゲートブリッジで警官隊と対峙する場面まで、緊張感に満ちた見せ場が続く。この場面でシーザーは人間に対する殺生をサルたちに禁じるが、これはウィルとの生活で培われた人間的な感情の表われだろう。

類人猿に命を吹き込んだ名優とVFX


サルの感情表現という点で、大きな効果を発揮しているのがモーションキャプチャー。これは簡単に説明すると、俳優の演技をデータ化してCGに取り込む方式で、特殊メイクや着ぐるみでサルを作り上げてきた従来の『猿の惑星』とは異なる手法。俳優の動作はもちろん、表情の微妙な変化まで、デジタル上のサルのビジュアルに反映することができる。VFXを担当したWETAデジタルのスタッフは動物園のサルを熱心に観察し、CG化の参考にしたという。

シーザーにふんしたアンディ・サーキスは映画ファンに広く知られているとおり、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでゴラムを演じて以来、モーションキャプチャー演技の分野をリードしている第一人者。ピーター・ジャクソン監督の『キング・コング』(05)に続いて類人猿を演じた本作では、シーザーに細やかな表情をあたえている。ブルーレイの特典の中には、実写のサーキスの演技と映画のシーンを比較した映像も含まれているが、これを見ると彼の貢献の大きさがよくわかるので、ぜひチェックしてみて欲しい。

『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(c)Photofest / Getty Images

監督のルパート・ワイアットは英国出身で、本作が初のハリウッド大作の演出となったが、『猿の惑星』シリーズのスピリット、すなわち人間の傲慢さに対する批判精神をもって物語を演出。科学への過信や行き過ぎた営利主義に警鐘を鳴らす。本作が見応えのあるドラマとなったのは、そんなワイアットの硬派なドラマ作りの手腕に依るところも大きい。

本作は興行的にも批評的にも成功を収め、以後、続編の『猿の惑星:新世紀(ライジング)』(14)、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』(17)でシーザーの物語をさらに深めていく。注目の新作『猿の惑星/キングダム』は、それから数百年後の物語で、リブート版シリーズの新章ではあるが、シーザーの遺産が受け継がれており、またドラマとしても硬派な魅力が宿る。21世紀に受け継がれた強力な『猿の惑星』サーガを楽しんでいただきたい。

文:相馬学

情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。

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