【韓国ドラマ】Netflix『マスクガール』アン・ジェホン “前世はウォンビン” オタク役で百想芸術大賞助演賞に!実力派俳優の魅力がわかる必見出演作は?

ホン・サンス監督映画『次の朝は他人』撮影当時のソウル・仁寺洞のマッコリ酒場

Netflix『マスクガール』でオタク青年 “前世はウォンビン” に扮した俳優アン・ジェホンが、去る5月7日に開催された第60回「百想芸術大賞」TV部門の助演男優賞を獲ったと知って、ちょっと感動した。

アン・ジェホンは1986年3月31生まれ、釜山出身。2009年に短編映画デビュー後、大ヒットドラマ『恋のスケッチ~応答せよ1988~』(2015年~2016年)のリュ・ジュンヨル扮する主人公の浪人生の兄役で知名度を上げ、以降、数多くの映画やドラマで活躍する30代後半の実力派俳優だ。

■祝!百想助演賞アン・ジェホン、デビュー直後はホン・サンス監督映画に連続出演

筆者が彼を初めて認識したのは、ホン・サンス監督作品『次の朝は他人』(2011年)だ。数年前まで実在した仁寺洞のマッコリ酒場でどこか寂しそうに一人昼酒を飲む映画監督(ユ・ジュンサン)に、「いっしょに飲みませんか?」と声をかける学生3人組の一人だった。当時は今ほどぽっちゃりしていなくて、さわやかで人の好い青年という感じだった。それなりに印象に残ったのだが、のちに映画やドラマで主役や準主役を張る俳優になるとは、その時はまだわからなかった。

同監督の『ヘウォンの恋愛日記』(2012年)でも彼は大学生を演じた。大学の講師(イ・ソンギュン)や元カノ(チョ・ウンチェ)がいる酒席で、元カノが講師と付き合っているのでは?と他の学生たちから疑われるという非常に気まずい場面で、怒りやモヤモヤを飲みこもうとする難しい役をみごとにこなしていた。純粋で気弱な男の演技は彼の真骨頂である。

その後も、チョン・ウとハン・ヒョジュ主演の『セシボン』(2014年)、リュ・スンリョンとペ・スジ主演の『花、香る歌』(2015年)、キム・ミニ主演の『夜の浜辺でひとり』(2017年)など、20本以上の映画に出演。

並行して、『恋のスケッチ~応答せよ1988~』などドラマにも進出。2017年にはパク・ソジュン、キム・ジウォン主演の大ヒットラブコメ『サム、マイウェイ~恋の一発逆転!~』でKBS演技大賞新人賞を受賞し、役者としてステップアップした。

映画『次の朝は他人』に登場した仁寺洞の酒場ではマッコリがこのように提供されていた
『次の朝は他人』でアン・ジェホン扮する大学生がうろついていた北村界隈

■アン・ジェホンおすすめ出演作!イ・ソムの彼氏を演じた映画『小公女』、釜山の高校バスケ部監督を演じた最新映画『リバウンド』ほか

そんなアン・ジェホンが決定的な存在感を示したのが、映画『小公女』(2018年)だ。本作は、「衣食住」の「住」を断捨離してホームレスになった主人公(イ・ソム)の話なのだが、彼女は人生に欠かせないものとして、「タバコ」「高級ウイスキー」「恋人」を挙げていた。その恋人を演じたのがアン・ジェホンだ。

やさしさと誠実さだけが取り柄の彼氏は、これ以上はないハマり役だった。この二人がある決断をするシーンは、なんとも切なく美しかった。本作主演のイ・ソムとはその後、ドラマ『LTNS』(2024年)の夫婦役で再共演している。

さらに、大ヒット映画『エクストリーム・ジョブ』のイ・ビョンホン監督の初ドラマ『恋愛体質~30歳になれば大丈夫~』(2019年)では、チョン・ウヒ演じるヒロインの脚本家とロマンスを繰り広げるドラマプロデューサー役をコミカルに好演して話題を集めた。

2020年には『エクストリーム・ジョブ』制作チームによる映画『シークレット・ジョブ』で、ついに映画でも主役らしい主役の座を獲得した。本作は配信サービスなどで視聴できるので、彼の晴れ姿(弁護士兼動物役だが)をぜひ観てほしい。『恋愛体質』で共演したチョン・ヨビン(『ヴィンチェンツォ』)も出演している。

今回、百想芸術大賞TV部門助演男優賞を受賞したNetflix『マスクガール』は、好青年ばかり演じてきたアン・ジェホンがまさに化けた作品だ。オタク感を強調するための日本語のセリフや、今回の授賞スピーチでの「アイシテル」のひとことは日本の視聴者にも大きなインパクトを与えただろう。

『マスクガール』で彼の母を演じたヨム・ヘランと二人で同助演賞を独占しているのも快挙である。

いっぽう、イ・ビョンホン監督が手掛けたNetflix近作『タッカンジョン』(2024年)のヒロイン(キム・ユジョン)に思いを寄せるほんわかしたコミカルな役は、本来の彼らしさ満載でファンをホッとさせたことだろう。同作で名コンビを組んだリュ・スンリョン(『エクストリーム・ジョブ』)も、今回の百想芸術大賞TV部門で大賞など3部門を受賞した『ムービング』主演俳優として授賞式に出席。SNSではアン・ジェホンの助演賞を祝うコメントを投稿している。

最近の主演映画『リバウンド』(2023年)は、現在日本で公開中だ。釜山の高校バスケット部の実話を元にした作品で、アン・ジェホンは元バスケ選手で出身校のバスケ部の新人監督という役どころ。実際、釜山出身のアン・ジェホンにとって、釜山を舞台にした本作にはかなり思い入れがあったであろう。撮影は『マスクガール』と同時期だったというから、その演技の幅広さにも感服する。

ごく一部の俳優が脚光を浴びている裏で、多くの俳優が浮き沈みを経験したり、消えていったりしていることを思うと、アン・ジェホンのように約15年間で30作余りの映画に出演、ドラマでも栄誉ある賞を獲得して、ゆっくりと大輪の花を咲かせようとしている俳優は心から応援したくなる。

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