『ヴァンガードプリンセス』著作権は誰のもの?海外版と『R』版、2つの販売元が互いの動画に著作権侵害の申し立て―原作者の意思はわからず

『ヴァンガードプリンセス』著作権は誰のもの?海外版と『R』版、2つの販売元が互いの動画に著作権侵害の申し立て
原作『ヴァンガードプリンセス』より。

対戦格闘ゲーム『ヴァンガードプリンセス』に関して、それぞれ別のバージョンを販売・開発中のパブリッシャー「eigoMANGA」ならびに「exA-Arcadia」が、YouTubeにて公開中のお互いのトレイラー動画を「著作権の申し立て」により削除しました。

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2009年にリリースされたハイクオリティなフリー対戦格闘ゲーム、海外版には疑問の声も

『ヴァンガードプリンセス』とは、2009年に無料で公開されたスゲノトモアキ(SUGE9)氏による対戦格闘ゲームです。2012年にはeigoMANGAより英語対応のバージョン(以下、「海外版」)がリリースされ(2013年4月リリースとするソースも存在)、2024年にはexA-Arcadiaより、「F K Digital」と「BV体制」による開発協力のもと、システムを一新したアーケード用タイトル『ヴァンガードプリンセスR』が発表されています。

海外版『ヴァンガードプリンセス(Vanguard Princess)』より。

eigoMANGAの海外版については、Steamコミュニティで同パブリッシャーが“原作者であるスゲノトモアキ氏にも利益が分配されている”旨を説明しているものの、ユーザーからはその証拠が提出されないことを怪しむ声も上がっていました。

海外版『ヴァンガードプリンセス(Vanguard Princess)』の実行ファイルより。

さらに、 『ヴァンガードプリンセス』の原作はゲーム制作ツール「2D格闘ツクール2nd.」で開発されていますが、ツール販売元の「エンターブレイン」のロゴ等が削除されている一方で、海外版の実行ファイルには原作と同じゲームエンジンを示す「KGT2nd_EDITOR.exe」の文字列を確認できると指摘されていました(本記事執筆時点で、Game*Spark編集部でも海外版のオープニングクレジットには原作にあったロゴが無い点や、実行ファイルをバイナリエディタ「Stirling」で閲覧したうえで、該当の文字列を確認)。

この件に関しては過去、ユーザーが“(海外版は)「2D格闘ツクール2nd.」を改造したうえで販売しているが、エンターブレインは許可していないのではないか”と質問した際、eigoMangaは「(海外版の)開発初期にエンターブレインにアプローチを取った」と回答。その上で、ゲームは同ツールの 『ヴァンガードプリンセス』プロジェクトファイルを使って作られており、アメリカのPCで動作させるためにソースコードを開発し、"エンターブレインから許可を貰った(原文「they were ok with it」)”としています。ただし、このやりとりがされたSteamコミュニティ・スレッドは現在非公開で、現在はInternetArchiveで閲覧可能です。

左:海外版実行ファイルのプロパティ、右:原作版実行ファイルのプロパティ。

また、エンターブレインは2013年に株式会社KADOKAWAと合併しており、本記事執筆時点で「ツクール」シリーズを開発・発売している同社グループのGotcha Gotcha Gamesの公式サイトでは、製品の利用規約として「ゲームのオープニングクレジットに弊社が指定するGGG製品のロゴ及び表記を可能な限り表示させること」「ユーザーは、GGG製品の使用にあたり、次の行為を行わないものとします。(中略)GGG製品を改造、改変、翻案、翻訳その他行為の態様等を問わず、派生的なソフトウェアを制作する行為。」としていますが、同ツールは「GGG製品群一覧」にリストアップされていないほか(※一部エンターブレイン時代の製品はリストに掲載)、「サポート終了製品」として扱われているため、仮に海外版でそのまま、または改造したうえで使われ、ロゴが削除されていたとしても、規約違反に当たるかは不明瞭です。

海外版については様々な疑問が浮かび上がっていますが、開発経緯や詳細、スゲノ氏の関与の有無など、同氏のブログが2011年から更新が途絶えていることもあり、真偽は不明なままとなっています(前述の非公開済みのSteamコミュニティ・スレッドにて、当時eigoMangaは「スゲノ氏は別名義でTwitter(現:X)で活動している」とコメント)。

まさかのアーケード化!しかし原作者の関与については不明

そして時は流れ2023年10月、exA-Arcadiaの販売代理業務をしている株式会社Show Me Holdingsが『ヴァンガードプリンセス』の著作権者・著作権継承者を捜索.pdf)し、2024年には『ヴァンガードプリンセスR』が発表されましたが、その公式サイトにはスゲノ氏が原作者であると示す「ORIGNAL GAME BY SUGE9」という文言に加え、「令和6年3月28日に著作権法第67条の2第1項の規定に基づく申請を行い、同項の適用を受けて作成された」と記載されています。

文化庁ウェブサイトによると、他者の著作物を出版する際に「(権利者が誰か分かったとしても)権利者がどこにいるのか分からない」等の理由で許諾を得られなくとも、「権利者の許諾を得る代わりに文化庁長官の裁定を受け,通常の使用料額に相当する補償金を供託することにより,適法に利用することができる」という“裁定制度”が存在するとのこと。「(著作権)法第67条第1項」と「同第103条」を引用する形で「権利者若しくは権利者の許諾を得た者により公表され,又は相当期間にわたり公衆に提供等されている事実が明らかである著作物,実演,レコード,放送,有線放送」が対象であると説明されているため、株式会社Show Me Holdingsとスゲノ氏とのコンタクトは叶わなかった可能性が考えられます。なお、著作権法については、総務省が運営する「e-Gov」の「法令検索」ページから最新のものを閲覧できます。

『ヴァンガードプリンセスR』のトレイラーページ。
海外版『ヴァンガードプリンセス(Vanguard Princess)』のトレイラーページ。

そんな状況の両タイトルですが、『ヴァンガードプリンセスR』のトレイラーが「eigoMANGA」による「著作権の申し立て」により削除され、後日には海外版『ヴァンガードプリンセス』トレイラーが「exA-Arcadia」による「著作権の申し立て」で削除されたことがユーザーより報告されました。また、削除前のトレイラーはInternetArchive視聴可能です。

なお、記事執筆時点でもスゲノ氏のブログは更新されていないほか、eigoMANGA、exA-Arcadia両者ともトレイラー削除の件に関して、声明を出していません。


Game*Spark編集部では、eigoMANGAならびにexA-Arcadiaに対し、“両者のゲームとスゲノ トモアキ氏の関係性”、“販売許可の有無”、“使用されているゲームエンジン”、“トレイラー削除の件の認知”、“著作権の申し立てが正式なものか”を、そしてGotcha Gotcha Gamesに対しては、“GGG製品利用規約が「2D格闘ツクール2nd.」の利用者にも適用されるのか”、“適用される場合は海外版のケースが(仮に同ツールを使用していたら)規約違反に該当するのか”を問い合わせています。

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