【香港】香港は「重要なゲートウエー」[経済] 経済貿易代表部の欧首席代表

駐東京経済貿易代表部の欧首席代表=東京(NNA撮影)

新型コロナウイルス禍の収束で、日本と香港の往来が正常化してから1年以上が過ぎた。コロナ後の香港の役割や利点とは何か、また歴史的な円安が続く中、双方はどう関係を発展させていくべきか。香港は「重要なゲートウエー」と語る香港特別行政区政府駐東京経済貿易代表部の欧慧心(ウィンサム・アウ)首席代表に、足元の状況や現在の取り組みなどを聞いた。

——往来正常化後の観光客数の回復や双方の反応などを、駐日代表としてどう分析しているか。

香港と日本はあらゆる方面において緊密な関係を長期にわたり維持している。

日本側とは接続性の継続的な改善を図っており、香港の航空会社4社と日本の航空会社3社が運行する週約400便が、日本各地の10空港と香港をつなぐとともに、週50便の貨物専用機が香港と東京、名古屋、大阪を結んでいる。

香港の航空各社は日本の空港と協力し、人気のある路線の再開や就航に向けて懸命に取り組んでいる。これによりビジネスのみならずレジャーや文化交流の機会が広がるはずだ。

2023年、香港は日本にとって第4のインバウンド市場となり、年間の訪日客数は210万人を超えた。同様に日本は香港にとって第6のインバウンド市場だ。

香港側は観光産業の発展を特に重視しており、香港を一流の観光目的地として振興してきた。新型コロナ禍の最中でも観光資産の充実と強化を怠らなかった。先ごろ香港政府の24/25年度(24年4月~25年3月)の政府財政予算案で発表されたように、10億HKドル(約199億円)超の追加予算が観光開発の強化とイベント開催に割り当てられる予定だ。

——中国本土との一体化が進む中、香港の役割をどうみる。

独自の一国二制度は依然として堅持されている。また香港にはコモン・ロー(英米法)を重視した透明性の高い法制度と資金や情報の自由な流れがある。香港は引き続き、制限を受けることなくビジネス活動を行うことができる都市だ。

アジアの中心に位置する立地と、歴史的に築き上げてきた制度的な強み、そしてさらに広がる人材プールを生かし、これからも中国本土と世界の間の「スーパーコネクター」として人と人、ビジネスとビジネスをつないでいく。

香港の中国本土との一体化はビジネスにとってプラスに作用しており、これは今後も変わらないだろう。国がイニシアチブを取る「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)」構想は、香港・マカオと広東省の珠江デルタ9市を一つの経済圏として捉え、一体で開発し、経済発展を目指すもの。これにより日本企業による、香港からの大湾区内の他の都市でのビジネス拡大がさらに容易になり、人口8,600万人超の巨大市場を開拓することができる。

また、国の第14次5カ年計画(21~25年)の下、香港は「八つの重点分野」をさらに発展させていく。中でも国際金融センターおよび国際イノベーション&テクノロジー(I&T)ハブとしての香港の地位強化に重きを置く。いずれも香港経済の長期的な原動力となるものだ。

——ただ香港日本人商工会議所の会員数や、香港に暮らす邦人の数は減少傾向にあるとされる。

香港政府の調査によると、現時点で香港に進出している日本企業の数は1,403社で、前年より15社増えた。実際には15社以上の企業が新規進出する一方、撤退した企業もある。

当然ながら毎年企業の入れ替わりがあり、これにより香港に進出している日本企業の業種構成に変化がもたらされている。新規進出する企業には飲食業や小売業が多い。

また日本企業の事業運営がより香港に根付き、現地化する中、日本の企業文化に順応した信頼できる優秀な香港人スタッフが育ち、幹部ポストに就く場合も多くなっている。

新型コロナを巡る状況も小康化し、ビジネスがほぼ通常に戻った今、香港を商用目的で訪れる日本企業も増えている。今後ますますビジネスが活発になるにつれ、香港で暮らす邦人は増えてくると見ている。

——円安の今、日本企業に対して香港の役割、また進出する利点をどのようにアピールするか。

円安が進む中、日本企業にとって海外での製品やサービスの販売強化は売り上げの増加につながる。

香港は長らく「中国本土とアジアや世界をつなぐ結節点」として機能してきた。アジアビジネスにおいてはショーケースとトレンドの発信基地としての役割を果たしている。企業・消費者間取引(BtoC)である飲食・食品、消費財とコンテンツ産業に関して、特にその役割は大きい。

多様な商品とサービスを常に目にし、手にすることができる香港人の鑑識眼により「香港で成功したビジネス、商品やサービスは優れている」といわれるまでになり、それがアジアの他地域や中国本土への横展開につながっている。また香港市場自体も、香港人の購買力が非常に高いため、750万人規模とは思えないほど存在感のある市場だ。

——投資促進署(インベスト香港)が今日本に向けて打ち出したい事業機会、また支援などは。

ここ1~2年の新たな取り組みとして、インベスト香港は日本企業に香港のビジネスフレンドリーな環境と優位性を体感してもらうため、業界に特化した香港視察ミッションを実施している。

昨年4月には日本の食品・飲食業界を対象とした香港ミッションを企画し、3泊4日のプログラムに計19社の日本の食品・飲食企業が参加した。

今年5月には日本の生命健康科学業界を対象とした香港視察ミッションも予定しており、合計13社のスタートアップやベンチャーキャピタル、支援機関が香港を訪問する。

また香港のダイナミックなビジネス環境、活気に満ちた多様なスタートアップ・エコシステム、イノベーションと科学技術への積極的な取り組みを日本に紹介する目的で、東京都が5月中旬に主催する国際的なスタートアップイベント「SusHi Tech Tokyo 2024」に「香港シティパビリオン」を設置する。インベスト香港や香港科技園公司(HKSTP)とともに、香港のスタートアップ企業20社が出展する予定だ。

——日本にとって香港は、農林水産物の輸出先としての存在感も大きい。一方、香港による日本の水産物輸入規制については納得がいかないとの意見も多くある。

日本食は香港の人々に人気があるがゆえ、その安全性に対する一般市民の信頼を得ることは極めて重要といえる。食の安全は私たちの最大の関心事だ。

香港政府は長年にわたり、貿易の円滑化、関連する食品安全要件の順守、福島第1原子力発電所の事故による食品安全への影響などについて、農林水産省および在香港日本国総領事館との定期的かつ頻繁な対話を含め、日本側との協力体制の強固な枠組みを確立してきた。

このような背景のもと、関連規制の順守を確保するため努力を続けることで、日本食品の安全性に対する一般市民の信頼を引き上げることに貢献している。

香港政府は福島第1原発からの処理水放出について、最新の状況を注意深く監視するため、日本当局との連絡経路を確立している。これらの経路を通じて、食品安全に関連するあらゆる懸念を日本当局に直接伝えることができる。

日本の輸出業者の懸念、輸入管理体制の情報、香港の輸入検査所における検査手続きなど、さまざまな業務上の問題を取り上げて度重なる対話を行ってきた。このような建設的な情報交換で相互理解を深め、効果的に問題に取り組むことを可能にした。日本当局の尽力に感謝するとともに今後も相互に協力し、緊密に連携していく。

統計によると、23年8月に食品の輸入規制措置が取られた後、香港への水産物の輸出額は悪影響を受けるどころか増加している。われわれの予防策が、日本食品に対する香港の消費者の信頼向上に寄与したことが分かる。

——日本企業に代表部として伝えたいことは。

香港は世界で最も自由で競争力のある経済体の一つであり、中国本土と世界市場を結ぶ重要なゲートウエーだ。香港の高度な接続性は、人や企業がそれぞれの分野で卓越した成果を達成する手助けとなる。

健全なファンダメンタルズ、戦略的な立地、ソフトとハードの両面で先進的なインフラ、そして世界クラスの人材を有する香港は、世界中の人々や企業がアジア全域に広がるビジネスチャンスとつながることができる場所だ。

ぜひ香港に来て、自身の目で確かめていただきたい。香港経済貿易代表部とインベスト香港が円滑な香港進出をお手伝いする。(聞き手=菅原湖)

<プロフィル>

欧慧心(ウィンサム・アウ)

香港大学卒業後、香港政府の政務職を担当。康楽・文化事務署、アジア太平洋経済協力会議(APEC)出向、工業貿易署、運輸・物流局首席助理秘書長などを歴任し、23年4月から現職。

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