カスハラ対策広がる 北陸の企業、安心して働ける環境に 名札廃止、マニュアル作成

バス運転手の名札入れを取り外す従業員。北陸の企業で、カスハラ対策が広がっている=金沢市内

 北陸の企業で、客が従業員に理不尽な要求をする「カスタマーハラスメント」(カスハラ)の対策が広がっている。タクシーやバス会社では、名札の廃止や、カスハラの対応マニュアルを作成し、従業員が安心して働ける環境を整える。人手不足の中で、貴重な人材が顧客対応で疲弊しないよう接客を伴う業界は対策に知恵を絞っている。

 金沢市内のタクシー業者によると、道を間違えるなどして乗客とトラブルになった際、怒りの収まらない乗客が、運転手の顔写真や名前の載った「運転者証」をスマートフォンで撮影し、「ネットで拡散してやる」と怒鳴り去って行った事例もあるという。

 こういった被害に遭う懸念を払拭するため、昨年8月、道路運送法などに基づく省令の改正により、バスやタクシーの車内に運転手の氏名を掲示する義務が撤廃された。

 大和タクシー(金沢市)では順次、運転手の免許証更新に合わせ、名前や顔写真が乗客から見えない新形式の運転者証に更新している。担当者は「いつ新しい運転者証になるのか尋ねる運転手もいる」と語った。

 富山県内で路線バスや鉄道を運行する富山地方鉄道(富山市)は今後、カスハラに関するマニュアルを作り、社内全体で共有する体制を構築する。これまで利用客とトラブルが起きた際の対応は定まっていなかった。基準を統一することで、従業員が働きやすくなると判断した。

 北陸鉄道(金沢市)や西日本JRバス金沢営業所ではバス車内で運転手の名札を掲示することをやめている。

 接客サービスに優れた店員向けに独自のマイスター資格を設け、トラブルの未然防止に努めているのは、8番らーめんを展開するハチバン(金沢市)だ。担当者は「クレームになるような事案が発生する前に、来店客に不快な思いをさせないことに注力している」と話した。

 他の飲食店からは「クレームを恐れて接客やサービスが消極的になってもいけない。その一方で、人手不足の中、貴重な人材がクレーム対応に疲弊しても困る」と悩ましい声が聞かれた。

 運転手の名札を廃止するバス会社が増える中、名札の必要性を指摘する企業もある。立山黒部アルペンルートを運営する立山黒部貫光(富山市)の運転手はフルネームの名札を付けている。担当者は「お客さまに親しみを持ってもらうために名前を示すのは大事だと考えている」と理由を説明した。

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