国土変動-能登半島地震と測量界の未来・6/復興支援の円滑化へ環境整備

◇経験糧に人材育て対応強化
測量などによって土地・建物の現況や権利関係を明確化することは、被災地の復旧・復興に欠かせない取り組みだ。不動産関連の登記の専門家である土地家屋調査士が復興フェーズで果たす役割も小さくない。
発災後から弁護士や司法書士などと協力し、二次避難所などで相談業務に当たってきた石川県土地家屋調査士会。有川宗樹会長は「相談内容の大半は自宅や隣家の倒壊した建物のこと。相談者が高齢者の場合、地域特有の方言のため回答者との意思疎通が難しいことがある」と話す。さらに3月1日には地震境界対策委員会を設置し、地震による境界杭の亡失・移動や土地面積の変化などの事象について無料相談を実施。相談業務では被災者が抱える不安を取り除き、安心感を与えることを心掛けている。
罹災(りさい)証明発行のための調査でも自治体職員らのサポート役として、4月中旬から土地家屋調査士が業務に携わっている。1次調査の判定を不服とし、被災家屋を詳しく調べる2次調査の補助が中心だ。
日本土地家屋調査士会連合会(日調連)で復興支援対策担当の石野芳治常任理事は「熊本地震など過去の災害活動の記録を参考にしながら復旧・復興支援の準備を進めてきた」と明かす。罹災証明は被災者の生活再建に直結するため、補助業務に携わる会員向けの研修にも注力し、調査の迅速化を後押しする。
現地は更地でも従前の登記が残っていると、建て替えなどの復興事業に支障を来すことになる。今後は倒壊した建物などの滅失登記の関連業務が増えてくる。今回の災害対応の経験も踏まえ、石野氏は「土地家屋調査士がスムーズに復興支援に当たる環境整備の一環で、自治体との災害協定の締結を全国規模で進めたい」と力を込める。
日調連や日本測量協会(日測協)、全国測量設計業協会連合会(全測連)ら関連団体で構成する「復興測量支援連絡会」を中心に、測量界は被災地の復旧・復興を支援している。日測協は測量機器の無料点検や復旧・復興測量での助言などを展開。長期戦となる復興事業に携わる技術者育成でも中核的な役割を担う。
被災自治体への支援活動で、国土地理院北陸地方測量部の白井宏樹部長は「より現場に近い市町などを対象に公共測量等の技術的サポートを展開したい。そこでの経験は若い職員の成長の糧になる」と見据える。
金沢工業大学の中野一也教授は年明け最初の測量学の講義で、発災後の空間情報分野での初動や状況を共有した。今回の震災を踏まえて「学生たちに測量や空間情報を使う意義を伝えていきたい」と話す。
被災地で得られた地理空間情報は「防災教育にも役立てるべきだ」とみる東京大学大学院の布施孝志教授。「地理空間情報のリテラシーを国民一人一人が持ち、自助できるようになることがソフト面での防災・減災に大きな意味を持つ」と強調する。
災害大国のわが国は被災地での復旧・復興を通じて対応力を高めてきた。能登半島地震がもたらす経験知は、測量界の未来にとっても大きな糧となろう。=おわり
(編集局・遠藤奨吾)
日本測量協会の月刊『測量』4~6月号で能登半島地震の特集記事を掲載します。

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