世界に衝撃が走ったウクライナ侵攻から800日あまり。欧米主導の国際社会による制裁が続く中、「21世紀のロシア皇帝」と呼ばれるプーチン大統領(71)の任期は通算5期目に突入した。続投可能なため、最長で2036年まで居座る可能性がある。そうなれば、干支はぐるりと一回り。「プーチンのロシア」はどこへ向かうのか。マトモな一般市民は不安を募らせている。
7日(現地時間)の大統領就任式には約2600人が出席。G7では独自スタンスを取るフランスが大使を送り出した一方、米英は欠席。日本は右へならえで、関連報道も決して多くなかったが、見逃せないシーンがあったという。
筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)がこう指摘する。
「国営の第1チャンネルが関連行事も含めた就任式の様子を生中継したのですが、最大の見せ場はロシア正教のキリル総主教による祝辞でした。プーチン氏に〈ロシアという国を守るのは善良な人間だけではない〉と語りかけ、〈紛争が絶えないため、国家元首は時に運命的で恐るべき決断を下さなければならない〉などと迫ったのです。モスクワの友人たちは〈恐ろしいことになった〉と動揺している。というのは、対ウクライナ戦での戦術核使用にお墨付きを与えたと受け止められたからです。ロシア正教は国民の7割が信仰する国家的宗教です。そのトップの発言は非常に重い」
■「プーチン大統領がいつまでも権力の座にとどまりますように」
伏線とみられるのが、就任式前日の動きだ。ロシア国防省は6日、ウクライナ侵攻の拠点となる南部軍管区で「非戦略核兵器」の使用を想定した演習の準備を始めたと発表。つまり、戦術核のことだ。総主教が「神よ、プーチン大統領がいつまでも権力の座にとどまりますように」と演説を締めくくったのも何やら意味深である。
「総主教の祝辞が終わり、教会の鐘が鳴ると、生中継を担当していたアナウンサーが深いため息をついていました。感情を抑えられなかったのか。米議会では約610億ドルのウクライナ支援予算が成立。5期目最初の外遊先に選ぶほど頼みにしている中国の習近平国家主席は、ロシアを素通りして訪仏。あからさまにプーチン氏を牽制しています。国家経済を支える国営のガスプロムは24年ぶりの赤字に転落。八方塞がりのプーチン氏は、11月の米大統領選までに局面打開を狙いにいくはずです」(中村逸郎氏)
強まる揺さぶり。季節が進むのが恐ろしい。