「ジョージ・ワシントン像汚された」“戦士姿”が物議 全米の大学に広がるガザ侵攻抗議デモに警察介入 大学側「学生による活動ではない」

全米の大学に広がる、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ侵攻への抗議デモは、2000人以上の逮捕者を出す事態になっている。

バイデン大統領も演説で「不法侵入や破壊活動は平和的な抗議活動ではない」と非難し、キャンパスの閉鎖や過激な抗議活動を控えるように呼びかけた。

しかし、首都ワシントンのホワイトハウス近くにあるジョージ・ワシントン大学でも、抗議活動が激化。数百人の学生や活動家らがキャンパスの一部を占拠した。現場を訪れてみると大学の名前に使われている、ワシントン初代大統領の像も様変わりしていた。

さらに大学側からは学生以外の活動家によりデモが主導されているとの声も挙がる。混迷する状況の中で、現場を取材した。

ワシントン像が「汚された」と怒りの声も

ジョージ・ワシントン大学は、パウエル元国務長官などを輩出した名門大学で、ホワイトハウスから歩いて10分ほどの立地にある。

周辺には米国務省や世界銀行、IMF(国際通貨基金)などもあり、ワシントンの中心地と言っても良い。その大学がワシントン近郊にいる学生や活動家たちの集結地となっている。

実際に大学を訪れてみると、広場一面にテントが敷かれ、イスラエルによるガザ侵攻を非難する張り紙や、メッセージボードであふれかえっていた。

何よりも目を引くのが入口の銅像だ。本来は初代大統領ジョージ・ワシントンの立像なのだが、デモ隊によってスプレーペイントやステッカーを貼られ、パレスチナの旗を付けた“戦士”の様に変わっていた。

この銅像を様変わりさせた行為には、「テロリストの様だ」「ワシントン像が汚された」と批判の声が挙がる。

共和党のボーバート下院議員らはパレスチナの旗を像から取り除こうと現地を訪れたが、抵抗にあって失敗した。

さらにSNS上にはアメリカ国旗が燃やされる映像も拡散されている。

学生達の主張は

一方で、ジョージ・ワシントン大学の「パレスチナ学生連合」などは4日、声明をSNS上に発表した。

大学にイスラエルとの関係を「断ち切るよう」求めた上で、「全ての投資と寄付の開示」「シオニスト(パレスチナの土地を取り戻し、ユダヤ人国家の建設を信奉する人)による占領や大量虐殺に加担する全ての企業や組織から手を引く」「シオニスト団体との学術連携の解消」「親パレスチナ派の言論の保護」など5つの要求を突きつけた。

また「交渉団は学長と事務局との面会を何度も試みたが拒否された」と批判し、前述したボーバート下院議員らのキャンパス訪問などを指して「ガザでの大虐殺を永続させることへの露骨な関与」「学生、職員、教員の要請よりもシオニストへの献金者や政治家の利益を優先している」と非難した。

学長「もはや学生によるデモではない」

「授業をサボっているのだから(もし本当に学生なら)、ガザにボランティアに行かないか?」

一方、SNSにこうした意見を投稿したのは、同大学のロス教授だ。

「出所不明の新品の緑と白のテントでウロウロする代わりに、本当にテントを必要としているガザの避難民に送ったらどうだろう? 結局のところ、あなたたちには今、パパやママがお金を出してくれる寮やアパートがある」とデモ活動を揶揄した。

またロス氏は、学生たちがガザ攻撃を反対している一方で、インティファーダ(抵抗運動)を呼びかけ「流血を望んでいる」と矛盾を指摘。「テルアビブを焼き払え」などの過激な声が挙がっていることを「ヘイトスピーチだ」と強く批判し、「心に憎しみを抱く者は、歴史の正しい側にはいない」と厳しく指摘している。

また、グランバーグ学長も5日に書簡を発表。大学の像や旗を破壊し、暴言や威嚇が行われているとして「平和的な抗議行動ではない」と指摘。「これはもはや学生によるデモでないことは明らかである。大学の敷地内に、コミュニティ外から来た、身元も確認されていない多くの人々が住んでいる」と、外部の人間が活動を主導しているとした。

メディア対応は研修を受けた人のみ

実際に現場には多くの若者の姿が見られたが、学生と活動家の割合などは未だ正確な数字は分からない。ただ、肌感覚として通常のデモ活動に比べて、統制が取れていると感じる部分が垣間見えた。参加者は「警察と話してはいけない」「研修を受けていなければメディアに答えるな」などの対応が徹底されているのだ。

実際にインタビューを試みても、ほぼ全員が「自分は質問には答えられない」と拒否した。そして、デモ隊のグループチャットでインタビュー可能な人を探し、担当者を探していた。勝手に発言は出来ないようだ。デモ隊内での手順が徹底されているとも感じた。メディアに攻撃的という訳でもないので、あくまで誰かに言われてやっているという感じだ。

デモ隊の排除に警察が動く

こうしたデモ活動が活発化する中で、首都ワシントンのバウザー市長は、大学側が警察の介入を求める一方、「暴力的なものにならない限り、警察は排除しない」と繰り返していた。

学内ではデモに反対する運動も起きていて、取材した日には、広場で掲げられたパレスチナの旗に対抗して星条旗を大学の建物からつり下がると、双方の間の緊張も高まった。

そして、この記事を書き上げた直後の5月8日未明、警察はついに、抗議デモの排除を実行した。不法侵入や警察への暴行から33人が逮捕されたとも言われている。警察は「抗議行動が徐々にエスカレートし、デモ隊の解散のため行動した」との声明も発表している。

一方、抗議デモの学生らは、不当な逮捕が行われたとして、警察への抗議活動を呼びかけ始めており、首都ワシントンでの混乱はさらに続きそうな状況だ。

(FNNワシントン支局 中西孝介)

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