【コラム・天風録】官房機密費の実態

 首相官邸の自室で官房長官が管理する金庫は、さながら打ち出の小づちだ。毎月1億円が入ってきて、領収書なしで使える。うち1千万円は首相に渡すのが習わしらしい。官房機密費の実態を、官房長官経験者の一人が本紙取材班に語った▲そのカネが選挙に使われた疑惑が浮上した。2013年参院選では、当時の安倍晋三首相が自民党候補の応援に行った際に渡した陣中見舞い100万円に流用された疑いが持たれている▲機密費に関しては、元官房長官の故野中広務氏も政界引退後に証言していた。自民党の国対委員長や野党の大物議員、政治評論家らにもカネを届け、受け取らなかったのはジャーナリストの田原総一朗氏だけだったと▲正式名は内閣官房報償費。国内外の極秘情報を握る裏人脈など、支出相手をすぐに明かせないものもあろう。だが選挙で配ったり、評判を買ったりすることが機密とは到底思えない。透明化が進まないのは、このカネの持つ毒が政界に回ったからか▲いっそのこと、官邸の「選挙介入費」や野党切り崩しの「鼻薬代」、ご機嫌取りの「世論操作金」に名称を変えてはいかがだろう。支出しにくくなる効果はてきめんと思うのだが。

© 株式会社中国新聞社