「本当にタフ」「日本とは桁が違う」高丘陽平が語るMLSのリアル。助っ人守護神の難しさも「普通じゃ駄目。常に問いかけている」

【「MLSで奮闘するサムライ守護神」直撃インタビュー前編(全3回)】

リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、セルヒオ・ブスケッツ――。スーパースターの参戦で、熱を帯びるMLS(メジャーリーグ・サッカー)で正GKとして活躍する日本人がいる。昨季からバンクーバー・ホワイトキャップスでプレーする高丘陽平だ。

高丘は横浜市出身で現在28歳。2014年に地元の横浜FCのアカデミーからトップチームに昇格し、プロキャリアをスタートさせた。

以降、サガン鳥栖、横浜F・マリノスでもゴールを守り、マリノス加入3年目の2022年にはフルタイム出場でJ1制覇に大きく貢献。同クラブのGKとしては、現在GKコーチを務める松永成立氏以来、29年ぶりにベストイレブンに選出された。

自信と勲章を手にした守護神はその冬、海外挑戦を決断。向かった先が気鋭のMLSだった。高丘は当時の選択をこう振り返る。

「2022シーズンが終わった段階で、ヨーロッパに行きたいとマリノスに伝え、オファーを待っていたんですけれども、結果として来ませんでした。でも、ホワイトキャップスがかなり熱心に誘ってくれたなかで、一度は断ったんですけど、1月の段階でもう1回話が来て、僕自身もう一度考え直して、単純にワクワクしたというか、もう直感ですね。良いチャレンジになると思ったので決断しました。

もちろん、マリノスにはシーズン開幕前の移籍でかなり迷惑をかけてしまったので、そこに対する申し訳なさは持っています。だけど、ゴールキーパーとして、1人の人間として、より上のレベルを目ざすうえで必要なチャレンジになると、直感的に思ったのでここに来ました」

心機一転、助っ人の立場として臨んだ昨季、連係面で相当なタスクが求められるGKながら、開幕からがっちりポジションを掴むと、カナディアン・チャンピオンシップでは見事に優勝。北中米クラブNo.1を決めるCONCACAFチャンピオンズカップの出場権も得た。

背番号を1に変更した今季も抜群の存在感を発揮。その背中は日増しに大きくなっている。

「コンディションは良いです。去年のシーズンが終わってからオフシーズンもトレーニングを続けていましたし、今年の初めは北中米のCONCACAFがあった影響で始動が早かったので、良いトレーニングが結構早い段階から積めているので、コンディション的には全然問題ないですね」

不動の守護神として好守を連発し、タイトルも獲得。傍から見れば、順調な海外キャリアに映るが、本人の感触的にはどうなのだろうか。

「『良いプレーしているね』って言ってくれる人もいるんですけど、自分としてはもっともっと成長していきたいです。ここまで多くの試合に出させてもらっていますが、ただ試合に出るだけじゃなくて、僕は外国籍の選手、いわば外国人助っ人なわけなので、普通のプレーをしているだけじゃ駄目。チームを勝利に導くスペシャルなものがないと、外国人選手としては物足りないと思うので、そこは常に自分に問いかけながらやっていますね」

一般的に、欧州の主要リーグと比べると、MLSは日常的に触れる機会が少なく、未知な部分も多い。高丘は現地でプレーするなかで、「本当にタフなリーグ」と日々感じているようだ。

「もちろん選手の質も高いですし、あとは移動の大変さ。日本だったら横浜で言えば飛行機で最大2、3時間だと思うんですけど、こっちだと4、5時間かかったりしますし、時差もあって、アウェーの地に着いたら22時、23時なんてことも全然あります。

ピッチ外でのタフさは非常に感じますし、日本では感じられないところがたくさんあるので、非常にタフなリーグです。日本人が全員こっちに来て簡単に活躍できるリーグかと言われたら、そんなリーグではないと思います。クオリティがないと来られないですし、活躍するのはそんなに簡単ではありません」

プレー面の特徴はどうか。

「特徴は各クラブによってある程度、違うんですけど、全体的にはより直線的にゴールに行くイメージです。日本のようなポゼッションを志向しているチームもありますけど、数がJリーグほど多くないと思います。前線にはパワーとスピードのある、個の能力の高い選手がいるので、そういう選手を有効に使ってくる印象がありますね」

【動画】「カナダに来て驚いた事の1つ」高丘陽平が仰天!MLSで躍動するロボット

Jリーグとの違いで言えば、そもそも大きく異なるのがフォーマットである。アメリカの26クラブとカナダの3クラブで構成されるMLSはまず、ウェスタン・カンファレンスとイースタン・カンファレンスの2つに分類。昇降格はなく、終盤にはプレーオフが行なわれるほか、オールスター、ドラフト会議も開かれ、日本で言うところのプロ野球に近いイメージだ。

「プレーオフになると、また1個ギアが上がる。シーズンが終盤に進むにつれて、ギアが上がってきて、よりシリアスになる」と実感する高丘に「日本はフォーマットの一部を参考にすべき?」と尋ねると、例として挙がったのはエンタメ要素だ。

「こっちは見せ方というか、エンターテインメントの作り方が非常に上手い。野球やバスケなどの流れから来ていると思うんですけど、そういったところをこっちは追求していて、視点がすごく強い。日本にフィットするかは分からないですけど、やってみたら面白い気もしますし、見どころがより増えると思います。

ただ、今の日本のカレンダー的に、プレーオフをやるスペースがちょっと分からないので、なんとも言えない…面白いかなとは思いますけど。何年か前にやっていましたよね。結論としては、日本は日本のやり方で進んでいってほしいなと思います」

“エンタメ大国”はSNSの使い方からも強く感じるようだ。日本でも各クラブが親和性の高いこのツールを駆使し、あの手この手で魅力を発信しているが、本場はスケールが違う。

「試合前のソーシャルメディアを使っての煽り、持っていき方や、スタジアムひとつ取っても演出の仕方だったり…。試合前、試合中、ハーフタイム、終わった後、全てがすごく計算されているなと。来てくれたお客さんにいかに楽しんでもらえるか。選手一人ひとりにスポットライトを当てて、良さを上手く引き出すところが、日本よりも数段重要視されている感じがします。それが良いか悪いかは分からないですけど、そういった特徴がありますね」

活性化するなかで、大きなターニングポイントとなったのが、史上最多8度のバロンドール受賞を誇る、メッシのインテル・マイアミ加入だ。トップ・オブ・トップのMLS参戦は、革命的と言える。

「MLSの盛り上がりはやっぱり感じますね。リーグとしても、2年後の北中米ワールドカップに向けて力を入れているのはすごく感じます。選手の獲得など色々なところでリーグを発展させようとしているなと。アメリカは経済大国なので、お金を使う額が日本とは桁が違う。お金をかける分、発展の成長速度がすごく早いなと、一点集中型というか、そこにきっちりオールインする感じはすごくありますね。

リーグとマイアミが上手くメッシを口説き落として、1人スター選手を連れてくることで、リーグの注目度が上がるのは間違いないので。いまだに世界一の選手を連れてくるだけのパワーがあるリーグだと、そういうところを見ても分かりますよね」

飛躍を遂げるMLSで揉まれ、高丘もまた、心身ともに大きく成長している。今季はプレーオフを勝ち上がってのMLS制覇、そして1年目は実現しなかったメッシとの対戦にも大いに期待したい。

取材・構成●有園僚真(サッカーダイジェストWeb編集部)

© 日本スポーツ企画出版社