【5月10日付編集日記】美術館の価値

 この大型連休に県内の美術館を数軒巡った。そこであることに気付いた。名作ぞろいの展示品の中にも、モデル側がお気に召さなかったという肖像画がぽつぽつとあるのだ

 ▼郡山市立美術館の「印象派展」では白いドレスの女性が描かれたサージェント作「キャサリン・チェイス・プラット」に出合った。ドレスのひだの変化が魅力的だが依頼主が背景を嫌い制作中止になった

 ▼諸橋近代美術館の「生誕120周年 ダリ展」では、米国の大富豪夫人がモデルの「アン・ウッドワードの肖像」。だまし絵的な風景がシュールレアリスムの巨匠ダリらしいが、人物は写実的だ。どこが気に入らないのか、夫人は代金の支払いを拒否した

 ▼そもそも美術品は王侯貴族の宝物だった。それを市民が鑑賞できるようになったのは、民主制下で公設美術館が生まれた近代以降。宝物としては失敗作となった肖像画が普通に鑑賞できるのも、芸術を客観的に評価し公開する美術館が機能しているからだろう

 ▼県内では今の県立美術館といわき市立美術館が開館して40年。以来、鑑賞の場は増え企画も充実してきた。会場で多くの人が熱い視線を注ぐ姿を、絵の中の淑女たちもお気に召してくれそうである。

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