偽造マイナカードで携帯機種変→225万のロレックス買われた…誤登録は約9200件、でも河野太郎は「反対される人はいつまで『不安だ、不安だ』と」

マイナンバー制度をめぐるトラブルが相次ぐ中、現行の健康保険証が12月に廃止される。国はマイナンバーカードに健康保険証の機能をもたせた「マイナ保険証」に一本化させるため、医療機関に最大20万円支給するバラマキまで始めるという。だが、その利用率は5%程度にすぎない。そんな中、マイナンバーを巡ってお金をだまし取られる事件が相次いでいるという。それだけでなく、更生労働省によれば、健康保険証とマイナンバーカードの情報を紐付けた際のミスによって別人の情報が誤登録されるなどのトラブルは約9200件にのぼるマイナンバーカードを活用したデジタル化を推進する河野太郎デジタル相は昨年末「反対される人はいつまでたっても『不安だ、不安だ』とおっしゃるでしょう。それでは物事が進まない」などと語っていたが……。作家で元プレジデント編集長の小倉健一氏が解説するーー。

マイナンバーをめぐって、お金を騙し取られる事件が相次いでいる

マイナンバーをめぐって、お金を騙し取られる事件が相次いでいる。

3月8日に、北海道警札幌厚別署が発表したところによれば、70歳代女性が、約1400万円を騙し取られた。

<発表によると、女性の自宅に1月中旬、「総合通信局」の職員や警察官を名乗る人物から「口座の情報が流出している」などと電話があった。女性はスマートフォンの機種変更を指示され、スマホのビデオ通話機能で自分の顔やマイナンバーカードを相手側に示した。/その後、相手は「あなたの口座が凍結される」などとして預金の移し替えを持ちかけ、振込先に女性名義のネットバンク口座を提示。女性は、口座が開設されたことを知らなかったが、不審に思わず2月28日、二つの金融機関の窓口から現金を振り込んだ>(読売新聞、3月10日)という。

さらに、八尾市議会議員である松田のりゆき氏が「本日、私が巻き込まれた犯罪について知っていただき、皆様もご注意いただきますことを切に願います」に始まる長文の投稿(5月6日)をXに行って、自身が被害にあった状況を報告している。長いので、ザクっと要約したものを下に記す。

「一体どんなシステムなんだ……」

松田氏は、外出中に、急に携帯電話の電波が通じなくなってしまっていた。電波障害かもとも考えたがそのような事象は起きておらず、ソフトバンクショップへと駆け込んだ。すると、同じ頃に、松田氏になりすました人物が偽造したマイナンバーカードを使って、最新機種のiPhoneに機種変更していたことがわかった。さらに、その人物は、機種変更に成功した携帯電話で、PayPayを5万円チャージし、そのほとんどを使っていたのだという。他にもソフトバンクカードを使って13万円が使い込まれていた。さらには、225万円のロレックスをローンで購入されていた。

松田氏は週刊誌FLASH(2024年5月6日)の取材に対してこう述べている。

<翌日の5月1日付で、225万円もする高級腕時計のロレックスデイトナを購入されていた。銀座の高級腕時計店で、しかも店頭受け取りにされていた。/「これが解せないのですが、ヤフーショッピングで買われているんです。ソフトバンクアリオ八尾店に行って、20時ころから携帯を止めているんです。でも、Wi-Fiに繋げたらいろいろ操作できる状態だったわけです。ふだん使っていないヤフーショッピングで、勝手に腕時計店で購入されていました。(中略)実はもう1本、別の店でロレックスを注文されていて、95万円くらい。なぜか、私の家宛てに送ってくることになっていた。すぐに対応したからよかったものの、対応しなかったらエライことになっていたと思います。VISAのクレジットカードもすぐに停止したのです。それなのに、ヤフーショッピングのショッピングローンを組まれていた。ショッピングローンを組まれたら止めようがない。電話を止められているなか、勝手に成立しているわけですから。どんなシステムなのか、と思いますよね>

多数の偽装マイナンバーカードをつくった人

合計で350万円にもなる被害だ。携帯電話の機種変更は、名前、生年月日、電話番号と身分を証明するもの(免許証、保険証、マイナンバーカード等)があれば可能だ。市議会議員という職業上、名前、生年月日、電話番号は公になっており、あとは身分証明書を偽造すれば良いということになる。

マイナンバーカードの偽造は思いのほか簡単なようで、昨年の12月には、このような報道もあった。

<自宅でマイナンバーカードなどを偽造したとして、警視庁国際犯罪対策課は4日、有印公文書偽造容疑などで、中国籍の無職周桜※(※女ヘンに亭)容疑者(26)=大阪市大正区=を再逮捕した。容疑を認めているという。/同課によると、警視庁によるマイナカードの偽造拠点摘発は初めて。情報を印字する前の無地のカードも約750枚見つかっており、同課は多数の偽造カードが流通したとみている。(中略)カードには外国人の名前と日本国内の住所などが印字され、男女4人の顔写真が使い回されていた。本物に似せるため、チップのようなものが埋め込まれており、携帯電話の契約などに使用できる状態だったという>(時事通信)

セキュリティを突破されてしまえば、すべての情報が筒抜けになっていく

つまり、マイナカードっぽくみせるために、チップのようなものを埋め込んだ無地のカードに、ネットで得た情報を打ち込み、写真だけは自分(犯人)のものに替えてしまえば、できあがりということだ。携帯ショップでは、そのチップが有効なものなのかどうかという確認はされず、あくまで目視に頼っているために、起きたようだ。

これらの犯行を防止するためには、目視ではなく、ICチップリーダーを用いた確認を必須条件にすれば良いことになるのだが、それでは国民がマイナンバーに対して感じる本質的な恐怖は克服できないのではないだろうか。

マイナンバーカードによって、あらゆる情報が紐づけられようとしている。「まだ、大丈夫」「国が見ることは法律としてできない」というが、悪意のあるハッカーに、セキュリティを突破されてしまえば、すべての情報が筒抜けになっていく。単純に、ネット口座に振り込まされる、ロレックスの時計を勝手に買わせることはもちろん、出生地情報、家族関係、健康情報、資産状況が1箇所に集められていく危険を、マイナンバーは高めていくわけだ。

マイナンバーにひも付いている情報というのは大変価値があり、盗まれれば実害

朝日新聞(2022年1月17日)に、ハッキング技術に詳しい天才プログラマー登(のぼり)大遊氏のコメントが掲載されている。

<我々が恐れるべき(マイナンバーにおける)ハッカーは、金もうけ目的でもテロリストでも、大概は海外からです。先ほど述べたような行政の閉域系システムに侵入するのは、日本固有の事情に精通していないと困難で、それを色々調べてやるぐらいやったら、もっとほかの方法で目的を達成するほうが簡単ではないかと思います。ただ、情報を得るためのコストが高いというだけで、マイナンバーにひも付いている情報というのは大変価値があり、盗まれれば実害はあると思います>

登氏はこうした危険はありつつも、ゼロリスクでは新しいものが生まれないから、もっとマイナンバーを推進せよと主張する。しかし、筆者は、非常にその意見に対しては慎重な立場を取っている。

国民は、マイナンバーへの不信感を率直に表現していくべき

国によって個人情報の管理がしやすくなって、行政コストは下がるのかもしれないが、かえって個人の行動を規制したり、資産への課税がしやすくなるという大きなデメリットを抱えるものだ。現状、行政コストは下がっておらず、ただ業務が増えているだけであることは横においても、スマホによって行動がGoogleなどに筒抜けになっていることも危険ながら、国民の情報を管理するのが国であるから安心だとは到底思えない。

その点、「いまはゴタゴタが起きているが将来的には行政コストが下がるからいいのだ」「法律上、行政は個人情報は見ることができない」などという大手メディアの楽観的な論調は非常に危険なものだと思う。個人が最大限に自律的に行動し、最大限に自由な発言をする文脈では、マイナンバーによる行政の効率化で得られるメリットなど、正直、微々たるものだ。国民は、マイナンバーへの不信感を率直に表現していくべきだ。

© 株式会社ライブドア