70代後半・年金月15万円の父「娘に迷惑をかけられない」と施設入所も…氷河期世代・50代独身娘が思わず震えた、まさかの〈老人ホーム請求額〉

(※写真はイメージです/PIXTA)

日本のそこかしこで起きている介護の問題。自ら老人ホームへ入所を決めた父に感謝をしたある50代女性だったが、安堵したのもつかの間、費用面に不安を覚えることに…。なぜそのようなことになったのか。実情を見ていく。

「娘に面倒をかけられない」父は老人ホーム入居を望んだが…

親の介護の負担が大きすぎ、子どもの人生が台無しに…。少子高齢化の日本では、ときにそんなやるせない話が聞こえてくることがある。

「老人ホームにいる父のことを思うと、不安です」

横浜市港北区在住の50代の独身女性は、肩を落とす。

女性の母親は10年前に死去。女性はその後も、元サラリーマンの父親と2人、実家暮らしをしてきた。母親が亡くなったあとは、女性が亡き母親に代わって父親の身の回りの面倒を見ていたが、高齢となった父親は、3年前「娘の負担になりたくない」と老人ホームへの入所を自ら希望した。

自立した生活はできていたものの、高齢になった父は、足腰の衰えが目立ってきた。会社員の女性は、自分の不在時に万一があっては…と常に不安だったことから、父親の決断をありがたく思ったという。

「私は就職氷河期世代で、独身です。なんとか滑り込んだ零細企業に勤め、なんとか生活していますが、もし父親の介護で離職することになったら…」

しかし、父親の老人ホーム入所にあたって、想定外のことがあった。父親は、自宅を売却するというのである。

父親のマネープランは、下記のようなものだった。

●入居一時金:3,000万円

●月額費用:22万円

入居一時金は貯蓄と自宅の売却費用から、月額利用料は、毎月の年金手取り15万円と貯蓄からの取り崩し7万円から、という計算だった。

老人ホームにかかる費用は「ピンキリ」

老人ホームにかかる費用は、大きく「入居一時金」と、毎月払う「月額利用料」の2つがある。

入居一時金は、家賃の前払いのようなもので、施設ごとに償却期間が設定されている。一般的に5~15年程度とされていて、償却期間が終わる前にホームを退去する場合、未償却分が返還される。ただし、たいていは初期償却が設定され、その分はクーリングオフ期間が過ぎると即償却となり、その分のお金は戻らない。

たとえば「入居一時金1,000万円、初期償却20%、償却期間5年」というホームの場合、クーリングオフ期間後にで200万円を償却。1年で160万円、5年で800万円が償却されるということになる。入居期間が短いと思われる場合は注意が必要だ。

月額費用は、施設やその種類によって含まれている内容が異なっている。一般的に、施設に住むための「家賃」、施設から提供される食事の「食費」、施設を維持管理する費用として「管理費」、施設内で利用する水道や電気代の「水道光熱費」は必ず含まれている。さらに介護を前提とした施設であれば「介護費用」も含まれている。

費用の相場は、一般的に特別養護老人ホームやケアハウスといった公的施設は安く、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅といった民間施設は高い傾向にある。

入居一時金は、ゼロ~数千万円、高級な施設だと数億円になる場合もある。また、特別養護老人ホームは入居一時金は不用だ。月額費用は公的施設であれば5万~15万円、民間施設であれば15~30万円程度。リーズナブルなところでは、公的施設並みの5万円~というところもあるようだ。また入居一時金は家賃の前払いという特性上、高く設定されている施設は、その分、月額費用が安い、というケースもある。

自宅を売り、ホームに入所も「入所費用が底をつく」懸念

「父親を自宅で介護すれば、介護離職に追い込まれるかもしれません。自宅があっても収入が絶たれれば、父が亡くなったあとに行き詰ってしまう。でも、仕事があれば、アパートを借りたとしてもどうにかやっていける。定年後もパートで働けばどうにかなる、そう考えていたのですが…」

築古の郊外の実家だったが、1,500万円で売却できた。

「入居一時金の残りを払った残りの預貯金は1,000万円。毎月の費用を払ったら、10年で底をつく金額ですが、父も後期高齢者です。不謹慎な話ですが、心配はないのではないかと考えたのです」

ところがここにきて、想定外の事態が発生した。インフレと円安による値上げである。燃料費が高騰したことで、ホームの水道光熱費と管理費が値上され、人手不足解消のため従業員の人件費も高くなり、トータルで月額費用全体が20%もアップしたのだ。

「そもそも、ホームではレクリエーション代などは別途費用が発生するのです。地味に想定額をはみ出していて、この間は3万円も多くかかってしまいました…」

株式会社Speee/「ケアスル 介護」による『介護施設の費用はいくら?老人ホームの費用アンケート』によると、「老人ホームの費用を誰がどのように負担しているか」の問いに対して、最多は「入居者自身の貯金と年金」で57.7%。「入居者自身の年金」が33.3%となっている。一方で「子供世帯が負担」という回答も11.0%だ。

「父には申し訳ないのですが、面会のとき、お金のことを愚痴ってしまったこともあります。でも父は〈大丈夫、大丈夫。お父さんはもうじきお母さんのところに行くから〉というばかりで…」

父親の通帳から引き落とされる老人ホームの費用を見るたび、女性は暗澹たる気持ちになるという。

「家賃が必要になり、私も生活はギリギリです。これまで節約して貯金してきましたが、ひとり暮らしになってから、ほとんど増えていません。もし父がもっと長生きして、父の貯金が底をついたら…。不足分はなけなしの私の預貯金から出すことになります。私はいま、病気もケガも、絶対できない…」

ジブラルタ生命保険株式会社が20~69歳の男女に行った『おひとりさまに関する調査2022』によると、「現在の貯蓄額」は平均707万円。「100万~200万円未満」が13.8%、「500万~1,000万円」が11.2%、「1,000万~2,000万円」が8.3%と続くなか、最多は「0円」で23.1%。このままでは将来が危ういという人も珍しくないのだ。

いつ終わるとも知れない父親の介護。そして、50代ともなれば見えてくる自分自身の定年。いくら貯金があれば大丈夫なのか、見当もつかない。「まじめに働いてきましたが、老後破産の恐怖を感じます」。

親の介護問題を背負い、このような厳しい状況にあるのは、この女性だけではないはずだ。国民の給料はほとんど上がることなく、先進各国から大きく後れを取っている。インフレに円安、不安は大きい。必死に働き節約に努めることしかできない現状が、なんとももどかしい。

[参考資料]

株式会社Speee/「ケアスル 介護」『介護施設の費用はいくら?老人ホームの費用アンケート」

ジブラルタ生命保険株式会社『おひとりさまに関する調査2022』

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