『虎に翼』約3分間の心震わせる伊藤沙莉の演説 “魔女5”が地獄の先でまた再会できる日まで

高等試験に合格し、日本で初めての女性弁護士となった寅子(伊藤沙莉)。働きながら1年間死ぬ気で勉強し、友と別れ、月経の痛みも乗り越えて、やっと勝ち取った景色は思っていたものと全く違っていた。『虎に翼』(NHK総合)第30話では、寅子が抱えていたモヤモヤとしたものの答えが怒りとなって、大勢の記者を目の前にした祝賀会で放たれる。

そのスイッチとなるのが記者からの「日本で一番優秀なご婦人」という言葉。志半ばで諦めた友、学ぶことができなかった、その選択肢があることすら知らなかった女性たちを思えば、口が裂けても女性の中で一番などとは言えない。寅子と同じく初の女性弁護士になった久保田(小林涼子)、中山(安藤輪子)も不服そうな表情を浮かべている。

寅子たちの怒りの矛先にあるのは、女性への差別、偏見が無意識に存在している世の中。法改正がなされても結局、女性は不利なままで、弁護士にはなれても裁判官や検事にはなれない。女性というだけで、できないことばかり。

「生い立ちや信念や格好で切り捨てられたりしない。男か女かでふるいにかけられない社会になることを私は心から願います。いや、みんなでしませんか? しましょうよ! 私はそんな社会で何かの一番になりたい。そのためによき弁護士になるよう尽力します。困ってる方を救い続けます。男女関係なく!」

およそ3分近くの演説を終え、まっすぐ前を見据える寅子。それをほとんどのマスコミが報道しないことが男尊女卑の社会であることを示してもいるが、帝都新聞の竹中(高橋努)だけは寅子のことを取り上げていた。どんな地獄でも突き進んで見せると心に誓った寅子だが、この第6週では多くの仲間との別れがあった。

朝鮮に帰ることを余儀なくされた香淑(ハ・ヨンス)、母・寿子(筒井真理子)を思い有馬男爵との結婚を選ばざるをえなかった涼子(桜井ユキ)、息子の光三郎(石塚陸翔)を守るため家を飛び出した梅子(平岩紙)。よね(土居志央梨)は口述試験で試験委員から服装を批判され、「偏見をこっちに押し付けるな」と啖呵を切ってしまっていた。それでもよねは自分を曲げずに合格してみせると、寅子への不器用な「おめでとう」とともに決意を新たにする。

そこから寅子の「モン・パパ」の鼻歌と思い出が走馬灯のように流れていき、モヤモヤを帯びたまま祝賀会のシーンに接続されるのは見事な演出構成である。もちろん寅子たちが弁護士になることができたのは喜ばしいが、理不尽な仕打ちのせいで玉(羽瀬川なぎ)を含めた「魔女5」があっという間に散り散りになってしまったのはなんとも呆気なく、視聴者的には当然のモヤモヤ(その矛先も男尊女卑の世の中)と言えるだろう。

つまりは第6週は大きな区切りの週とも言えるが、『あさイチ』(NHK総合)での博多大吉の“朝ドラ受け”を聞いていてハッとしたのが、『虎に翼』の放送が4月1日に開始してからまだ1カ月ほどしか経っていないということだ。あまりに濃密、そして充足感たるや。ちょうど今回が第30話であったが、『虎に翼』は全26週、全130話で展開されることが発表されている。残り100話の中で、寅子は弁護士としてだけでなく、戦争という“地獄”も経験することになる。その先でまた志を共にした同志たちが再会し、あの思い出の海と変わらずにキラキラとした笑顔を見せてくれればいい。
(文=リアルサウンド編集部)

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