刀や妖術…〝誇張された日本〟をかっこよく描く漫画が快進撃 『カグラバチ』外薗健さん「誰も見たことない絵を」

週刊少年ジャンプで連載中の『カグラバチ』第1話より(ⓒ外薗健/集英社)

 日本的な「かっこよさ」を追求し、次世代の「クールジャパン」をけん引しそうな漫画がある。外薗健(ほかぞの・たける)さんの作品『カグラバチ』(週刊少年ジャンプで連載中)だ。
 集英社の海外向け漫画誌サービス「MANGA Plus by SHUEISHA」英語版で2023年9月、第1話が公開されると閲覧数で1位に。世界的人気漫画『ONE PIECE』『僕のヒーローアカデミア』『呪術廻戦』をも上回った。その後、閲覧数は1億回を超えて快進撃が続く。
 『カグラバチ』は、父を亡くした少年が日本刀や妖術を駆使して悪と闘う物語だ。初めての連載漫画で頭角を現した23歳の作者に取材すると、ハリウッド映画の〝誇張された日本文化〟を意識していると語った。「誰も見たことがない新しい絵を描くのが目標」と言う若き才能に迫った。(共同通信=川村敦)

 ▽悪を滅し、弱者を救う

 作品全編で展開されるのは、日本刀の妖艶な魅力だ。『るろうに剣心』『BLEACH』『鬼滅の刃』など、刀を描く日本の漫画やアニメは多いが、『カグラバチ』では、7本の「妖刀」がそれぞれ特異な力を発揮する。
 刀匠・六平国重が妖術で作り出した「妖刀」は、15年前の「戦争」を終わらせるほどの力があった。その国重は一人息子のチヒロに「刀を握るべきなのは悪を滅し弱者を救う…信念のある者だ」と言い聞かせる。その国重が無残に殺され、主人公のチヒロは敵を討ち、奪われた刀を取り戻す闘いに挑む。

 ▽黒と白、赤の世界を躍動する金魚

 鮮烈な印象を与えるのは、チヒロが振るう刀から飛び出す妖術を金魚の躍動で表現した絵だ。チヒロは真っ黒な服に身を包み、時に闇に潜みつつ、ダークヒーローよろしく悪人を斬る。刀身は白く輝き、血しぶきが飛ぶ。

『カグラバチ』2巻の表紙(ⓒ外薗健/集英社)

 そんな黒と白、そして赤の「カグラバチカラー」の世界を金魚が躍動する。実は、金魚の前にニシキゴイも検討したと外薗さん。「ひれが長い金魚の方が、流動的な動きのある絵が描けると思いました」
 刀や金魚の他にも、盆栽や舞妓(まいこ)、だるま、力士や山伏のようなキャラクターなど「日本ぽさ」が作品に満ちている。外薗さんは「ハリウッド映画に出てくる『大げさな日本』を目指しました。それをまじめに描いたら、かっこよくなると思って」。ダイナミックな戦闘シーンや構図の巧みさに加え、そんな欧米からのまなざしをクールに読み替えるセンスの良さも光っている。

 ▽王道を外した復讐物語

 妖術を描きつつも、チヒロが刀で斬る相手は鬼や妖怪ではなく、人間だ。「主人公の葛藤も描きたいし、僕自身もしっかり考えながら描きたい」。生きるとは、死ぬとは…。外薗さんのこうした問題意識が、作品に圧倒的な迫力をもたらしている。
 『カグラバチ』は、週刊少年ジャンプの中でも珍しい復讐の物語でもある。「ジャンプの連載であんまりないなと思ったんで、そこに挑戦してみようと思いました」。だが「敵に復讐する気持ちよさだけのエンターテインメントにするのではなく、ずらす。王道からずれた物語展開にしています」
 そんなときに思い浮かべるのは、『ジャンゴ 繋(つな)がれざる者』などのクエンティン・タランティーノ監督や、『セブン』のデヴィッド・フィンチャー監督だという。生々しい暴力表現や毒のあるユーモアなどで人間の奥底を照らし出す、両監督の映画に共感するものがあるようだ。

『カグラバチ』第18話より(ⓒ外薗健/集英社)

 ▽今までにない漫画に

 本作のチヒロはテンションが低く、日本の少年漫画の主人公としては異色な、ダークな人物設定だ。無口であるが故にせりふが際立ち、印象深くなっているのだ。
 「このキャラクター像がうまくいったら、今までにない漫画にできるかも…と思っています。ジャンプには『ONE PIECE』とかレジェンド漫画がいっぱいある。漫画家になるまではそのまねごとでした。今度は僕が新しいものを提示できるよう頑張りたい」

『カグラバチ』第20話より(ⓒ外薗健/集英社)

 外薗さんは2000年に大阪府で生まれた。負けず嫌いで、父や兄より上手に恐竜を描きたかった。何度も描くうち、どうすればうまく見えるかが、自然と分かるようになった。好きだった漫画は、岸本斉史さん作の『NARUTO―ナルト―』。外薗さんは物語に合わせ「オリジナルキャラ」を考えて描いたという。
 「画面の白黒のパキッとした感じとか、挑戦的な構図とか、『NARUTO』から影響を受けていると思います」

 ▽コロナ禍でよみがえった漫画家の夢

 大学生だった2020年に新型コロナウイルス禍が始まり、リモート授業すらままならない状況に見舞われた。やることがなく「なんとなく漫画家になりたかった」ことを思い出した。初めて漫画を完成させてその年の手塚賞(集英社主催)に投稿した。
 これがすぐさま準入選した。『スラムダンク』の作者で、審査員を務めた井上雄彦さんは「漫画を描く楽しさが伝わってきた。将来に期待」と高く評価した。外薗さんは、その後『ロクの冥約』などいくつかの読み切り作品を経て『カグラバチ』の連載を始めた。

外薗健さんの読み切り作品『ロクの冥約』より(ⓒ外薗健/集英社)

 外薗さんの作品は、登場人物が受けた恩に報いようとするシーンが印象的だ。『カグラバチ』では、育ててくれた父親への恩義が主人公が闘う大きな理由となっている。その姿は外薗さん自身に重なる部分もあるようだ。
 「僕は漫画を描くために大学をやめた。それを快く承諾してくれた親のために、漫画で絶対成功しないといけないと思っています」
 外薗さんの右手の薬指には、痛々しくも見える、巨大なペンだこがあった。「ペンの持ち方が変で、力み過ぎちゃって負担がでかくなるんですよ」と笑った。
 作品のイメージカラーの黒。描き込まれた絵の裏側に、漫画家としての気概が込められている。

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