「『断れない私が悪い』と言わされた」三菱UFJ信託銀行子会社でセクハラ被害受けた元社員「親会社の責任問う」控訴審開始

控訴審に先立つ記者会見で思いを語る原告女性(5月9日 東京都内/榎園哲哉)

三菱UFJ信託銀行の子会社、三菱UFJ代行ビジネスで勤務していた頃に受けたセクハラについて、元社員の女性(30歳)が銀行と会社、上司らを訴えた裁判の控訴審口頭弁論(第1回)が9日、東京高等裁判所で開かれた。

妻子ある上司からのストーカー行為

「大好きだった業務、会社を諦めざるをえないと決めました」――。

緊張感に包まれた東京高裁の法廷。原告は会社から受けたセクハラ被害と控訴審への思いを切々と語った。

原告は2016年4月、三菱UFJ代行ビジネスに入社した。仕事を覚え、充実を感じていたが、入社3年目の18年1月ごろから、状況が一変した。妻子ある被告A(所属部署の直属上司)から、業務のために教えた個人アドレスに、食事への誘いや、好意を示すメールが届くようになった。自宅近くまで押し掛けられたこともあったという。

18年4月上旬、被告B(人事課次長)に相談し、管理職一般に注意喚起メールが送信され、Aには口頭注意もなされたが、Aの“ストーカー行為”はやまなかった。

原告は精神的ストレスから体調を崩し、休職を余儀なくされた。19年2月には会社の所在地を管轄する東京・立川労働基準監督署により、セクハラ等に起因した労災が認定された。

退職に追い込まれた原告は21年4月、銀行と会社、被告Aと被告B、さらに被告C(人事担当常務取締役)に対し、約1000万円の損害賠償を求め東京地方裁判所に提訴。昨年12月、裁判所は被告Aの不法行為と会社の使用者責任のみを認定した。原告は、他被告の責任が認められなかったことと、賠償額が約223万円だったこと等から、今年1月に控訴していた。

女性や新入社員のため「誰かが声を上げないといけない」

原告は陳述で「(上司の)誘いを断れない自分が悪い、社会に適応できない弱い性格だ、と自らを責め続けていた」と当時を振り返りつつ、「立場の弱い女性や新入社員が同じ目に遭わないようにするため、誰かが声を上げないといけないと考え、訴えています」と静かに力強く、控訴に踏み切った動機を語った。

一審判決では、前述の通り、一部のみ認容された。被告Bの不法行為、被告Cの責任、被告会社の安全配慮義務違反、被告銀行の使用者責任・安全配慮義務違反は認められなかった。

原告は自らが受けた具体的事例などを挙げつつ、六つの控訴の要因(ポイント)を語った。

①セクハラ加害者(被告A)ではなく、私に対し配置転換(職場移動)が強要された
②上位上司(被告B)からセクハラ上司(被告A)、先輩、私の3人だけの休日出勤を命じられた
③「精神的な病歴がある」「断れない私が悪い」などと無理やり言わされた
④出社できなくなった私を、人事課(社員)と上位上司(被告B)で無理やり電車に乗せ、会社前に置き去りにした
⑤セクハラを訴えた後に、被告Aが自宅の最寄り駅まで来るストーカー行為へと行為をエスカレートさせた
⑥(原告の)父に出社できなくなったことを連絡し、私の異動を認めさせようとした

これらのうち、④の無理やり出社させようとしたことについては、「(重度ストレス反応で)精神科医に自宅療養を言われている私を会社へ連れ出すこと自体が争いようのない非人道的行為です」と力を込めた。

原告の労災認定直後に被告Aが社内処分されたことについても触れ、「労基署(の判断)に合わせた対応であり、真に会社として改善に取り組んだとは言えるはずがない」とも語った。

また原告は一審を通じ「裁判では、(当事者に)和解を強く勧めることを実感した」という。提訴後の2022年6月から23年7月までの間、和解での出廷を求め続けられたことを「とても遺憾に思う」とし、被告会社の責任を問わないことが前提の和解交渉は「私の敗訴を意味している」と述べた。

「親会社の社会的責任が問われることを期待する」

仕事にやりがいを見い出していた当時の原告。「一縷(いちる)の望み」として、親会社である三菱UFJ信託銀行の人事部に対してセクハラ被害を受けていることを文書で訴えたが、心ある回答はなく、「大好きだった業務、会社を諦めざるをえない」と決心した。

「(子会社へ)出向者を送る親会社の(安全配慮義務違反などの)社会的責任が問われることを期待しています」

日本の金融を支える大企業・グループに立ち向かう勇気を、裁判にも同行してくれる父の存在が後押ししてくれていると原告は語る。

「私のケースでは、たまたま父がハラスメントに関する知識があり、早期からリハビリプログラムを組んでくれたので、比較的早期に社会復帰できた」

しかし原告は「一人で抱え込み、逃げようのない苦しみにもがき続けている」かつての自分のような存在を救うためにも“戦い続ける”ことを決意している。

記者会見で控訴のポイントを示す原告の父(5月9日 東京都内/榎園哲哉)

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