山下大輝×村瀬歩が考える“日本語”の魅力 「アニメが世界で大事にされるコンテンツに」

累計発行部数3,000万部を超える、江南(ジャン・ナン)による長編ファンタジーノベル『龍族』。孤独な青年・ルー・ミンフェイが、癖の強い教師や同級生が集結するカッセル学院に入学し、人類の敵である“龍”との戦いに身を投じていく物語である。

2022年8月に中国の新進気鋭のアニメーションスタジオ・HANABARA Animationによって映像化されると、中国の大手配信プラットフォームの一つ・テンセントビデオで累計再生回数5.7億回を突破し、歴代最高評価を獲得するなど一大旋風を巻き起こした作品だ。

そんな超大作の日本語吹替版『龍族 -The Blazing Dawn-』が、4月6日からTOKYO MXほかにて放送中である。そこで今回は、ルー・ミンフェイ役を務めた山下大輝とルー・ミンゼイ役を務めた村瀬歩に、中国の作品ならではの面白さや、日本語で演じることの魅力について聞いてみた。(きどみ)

●“意志が強い”中国発アニメのキャラクターたち

ーー今回の『龍族 -The Blazing Dawn-』に出演する前にも、山下さんは『万聖街』(2022年)など、村瀬さんは『百妖譜』(2024年)など、これまでも中国発のアニメに参加されたことがありますね。お二人は、中国発のアニメに対してどのような印象を持っていますか?

山下大輝(以下、山下):思ったことを相手に率直に伝える、キャラクターの意志の強さを感じました。

村瀬歩(以下、村瀬):素直で、率直に意見を言う文化が、日本とは違うなと感じました。

山下:「ルー・ミンフェイ」など、相手をフルネームで呼んでいるのも新鮮でした。中国ではフルネームで呼ぶのが基本で、親しくなると下の名前で呼ぶようになるんだそうです。日本の場合は「山下さん」と苗字だけで呼ばれても特に違和感はありませんが、中国の場合は「ルーさん」と呼ばれると「どのルーさん?」と迷うんだとか。言語の違いの面白さを感じました。

ーー『龍族 -The Blazing Dawn-』では、すでに完成された画に吹き替えとして参加されました。最初にご覧になった時の率直な感想を教えてください。

村瀬:画がとても綺麗だなって。クオリティがとても高くて、かなりの予算が使われている作品なんだろうなと(笑)。

山下:音が何も入っていなくても、映像美に圧倒されました。『龍族 -The Blazing Dawn-』はアニメーション愛をものすごく感じると同時に、日本を含めた様々なアニメーションへのリスペクトを感じられました。“良いもの”は国を越えても“良い”。作品が持つ良い部分は、こうして国を越えて他の作品に吸収され、さらにレベルアップして、世に出される。このような循環が素敵だなと思いました。改めてアニメの良さって世界共通なのだと感じています。

ーー『龍族 -The Blazing Dawn-』は、キャラクターの口の動きなどを含めて日本語吹替版だと感じさせないくらい、違和感なく楽しめました。

村瀬:日本語吹替版の翻訳を担当されている方のお陰ですね。尺にハマるようにセリフの長さを考えてくださっていました。

山下:直訳すると溢れてしまったり短くなってしまうセリフを、意味が伝わる範囲で上手く伸ばしたり縮めたりして、日本人にも違和感なく伝わるように工夫されていました。日本語、中国語両方の言語の深い知識がないとできないプロフェッショナルな技です。また今回、アフレコ台本のト書きに、台本の枠を飛び出す勢いで中国のことわざやジョークなどの言葉の説明を補足してくださっていたのも印象的です。演じるうえでとても勉強になりました。

村瀬:ここまで丁寧に書いてくださる方はなかなかいらっしゃらないと思います。造詣が深いなと感じました。

山下:セリフの言い方も複数パターン用意してくださっていたので、ある程度幅がある中で自由に演じることができました。最終的にはプロのエンジニアの方が上手くハマるようにアジャストしてくださっているので、色々な方の力があって違和感のない日本語吹替版になっているのだと思います。

ーーお二人が演じたキャラクターについてお伺いしたいです。それぞれ、キャラクターに対してどんな印象を抱きましたか?

山下:ルー・ミンフェイは、最初カッセル学院に対して「頭がおかしい学校」という印象を抱き、龍の存在も信じていませんでした。実際に「言霊」を体験したり、周りの生徒や環境から影響を受けて、意識が変わっていくキャラクターです。まっすぐで感情の変化が豊かな少年なので、演じる際は地声に近い声で、ギャグシーンの振れ幅を楽しみながらアフレコに参加させて頂きました。

村瀬:ルー・ミンゼイは、突然現れてミンフェイに意味深な発言を残して消える、ミステリアスなキャラクターです。ミンフェイにはもちろん、視聴者さんの心の中にも、意味深な言葉を残り続けられたらいいなと思いながら演じました。ミンフェイのイニシアチブを握りたがる様子には共感しました。

ーーお二人はこれまでも共演経験がありますよね。

村瀬:(山下とは)歳が近いですし、芸歴もほぼ一緒です。ゲームが好きという共通点もあるので、とても話しやすい存在ですね。

山下:初めて喋ったのが、お互い新人時代に出演したトーク番組で(笑)。初対面の時から意気投合していました。その感覚で昔から今まで来ているので、友達のような存在かな。

ーーお互いよく知っている間柄だからこそ、今回も演じやすかったですか?

村瀬:僕らだけでなく、今回参加されている他のキャストも勝手知ったる仲の方ばかりでしたので、全体的に演じやすかったです。

山下:信頼できる方たちばかりで、毎回とてもいい雰囲気で楽しみながらアフレコに参加できていました。

●「日本語吹替版を通して日本語の魅力を伝えたい」

ーーもしお二人がカッセル学院に入学するなら、どのポジションで参加したいですか?

村瀬:ミンゼイのポジションですかね。生徒だと能力ごとにヒエラルキーが存在しますし、命の危険もありますし……。ランクが低いのを理由に、シーザーさんにこき使われそう(笑)。ミンゼイになってミンフェイの心をコロコロ転がしたり、謎のパワーを授けたりしたいです。

山下:ランク制は怖いよね。「あんた何級?」って聞かれたくないなぁ(笑)。

村瀬:S級だったら良いけど!

山下:ランクを選べるのなら、断然S級かA級の生徒になりたいです! S級とA級は学校の中で扱いが違うので。自分専用の列車が教授付きで迎えにくるのがいい。食堂も、S級専用の定食とかありそうですよね(笑)。

村瀬:それ最高! そういう待遇だったら、S級の生徒がいいです。毎晩シャトーブリアンを食べられるかも。

山下:S級の生徒だったら、なかなか死ななさそうですし(笑)。

ーーお二人が海外の作品を日本語で演じる良さについてもお聞きしたいです。日本語が持つ魅力であったり、日本語でお芝居をするうえで意識されていることはありますか?

村瀬:僕は生まれが海外だったのもあり、日本語でお芝居をしたり、日本の文化を外に打ち出していったりするのが好きです。日本語の良さって、言葉の数が多いところだと思うんです。例えば「水」を表現する際、日本語だと「白湯」「温水」「冷水」など水の温度や状態によって別の言葉が存在しますが、英語の場合は「hot water」のように形容詞+名刺で表現できてしまいます。一つのものを表現するのに選択肢が多いことが、日本語が持つ魅力だと思います。今回のような海外の作品の日本語吹替版を海外の方が観た際、「なんて言っているのかわからないけど、いいね」と、日本語や声優、翻訳家、エンジニアの方の仕事に少しでも興味を持ってもらえたら嬉しいです。海外の作品を輸入したうえで「吹替版」として輸出して、結果的に「日本が関わるとカッコいいね」と思ってもらえるといいですね。

山下:今、世界全体でアニメーション技術が軒並みレベルアップしているように感じます。昔からアニメは日本の文化として海外にアピールしてきましたが、『龍族 -The Blazing Dawn-』のような海外の素晴らしい作品を観ていると、もはや日本だけの文化とは言ってられないなと。これだけ画作りの表現の幅が広がってきている時代だからこそ、日本語が持つ「言葉の緻密さ」を誇りに感じますし、日本語ならではの表現を大切にしていきたいと思っています。そして村瀬さんと同じく「素敵な言語だ」と思ってもらえたら嬉しいです。海外の素敵な部分を積極的に日本に取り入れて、全体的に成長していきたいなと。今よりもさらにアニメーションが世界で大事にされるコンテンツになればいいなと思っています。自分はその中で振り落とされないように、精進していこうと思います。

(文=きどみ)

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