スイスチョコ大手リンツ、カカオ高騰の逆風下で工場増設 課題は?

リンツ&シュプルングリ・グループが1億フラン(約170億円)を投じたスイス北西部オルテンのカカオ生産工場の拡張工事が完了した。だがカカオ豆価格が記録的に高騰する中、新設備を活用するだけの原材料を調達できるのか?

首都ベルン近郊に位置し、鉄道網のハブ駅を抱えるオルテンには、リンツのカカオ豆加工工場がある。カカオ豆はここで精選、焙煎、粉砕され、チョコレートの原料となるカカオマスになる。

リンツは2021年、同工場の生産能力を引き上げるため、1億フランを投資して拡張工事を開始、今月3日に落成式が開かれた。新棟には新しい生産ライン、カカオマス用の搬入口、最新鋭の研究所が増設された。

しかしリンツは今、カカオ価格の記録的高騰という逆風の真っただ中にある。リンツ&シュプルングリ・スイスのマルコ・ペーター最高経営責任者(CEO)にこの危機をどう乗り切るかについて話を聞いた。

wissinfo.chリンツ&シュプルングリ・グループの戦略にとって、拡張はどの程度重要か?

マルコ・ペーター:非常に重要だ。これまでの継続的な成長を支えるためには、短~中期的将来のニーズを予測する必要がある。

カカオ価格が1トンあたり1万ドル(約150万円)を突破し過去最高値を記録したタイミングでの生産能力の拡大は、問題にならないか?

常に最適なタイミングが得られるとは限らない。拡張を行うと決めた4年前、カカオ市場の状況は異なっていた。確かに、こうした生産能力の増強は短期的には必要ないかもしれないが、将来どうなるかは誰にも分からない。

同生産ラインはどれだけ改修できるかにもよるが、20~40年は稼働するとみている。長期的に見れば、私たちは正しい決断をしたと思っている。忘れてはならないのは、当社は180年近い歴史を持つ企業だということだ。次の180年もうまくいくためには、グループ全体と生産ネットワークを構築する必要がある。

リンツ&シュプルングリはカカオ豆価格の上昇を理由に、2024年と2025年にチョコレートの値上げが必要になると発表した。工場拡張はさらなる値上げにつながるのか?

新しい設備に投資することで、私たちはより効率的で食品安全性の高い近代的な技術を手に入れた。しかし、純粋に生産能力の向上という観点からは、消費者との直接的な相関関係はない。

今回の拡張は、スイスに本社や生産ハブを置くという社是の一環なのか?

私たちのルーツはスイスだ。それは忠実に守りたい。今回の投資により、オルテン工場はドイツとイタリアにある他の欧州生産工場のハブとなる。スイス産カカオマスをスイス国外で製造されるチョコレートにも使用することができるという戦略的意義がある。

現在のところ、欧州は依然として最大の市場だが、森林破壊や人権問題など規制が多い。工場で使用するカカオ豆の調達はどの程度難しくなりそうか?

2008年にリンツ&シュプリングリ・ファーミングプログラムを立ち上げた私たちにとって、持続可能性は重要な存在だ。この調達モデルではカカオ豆を生産した農家まで追跡できる。

規制面では特に、欧州連合(EU)の森林破壊防止規則(EUDR)がスイスや欧州域内だけでなく、第三国も含めた業界全体でどのように実施されるかは不透明だ。しかし、私たちは新規制に対し十分な準備ができていると考えている。

カカオの調達先に破壊的な影響を及ぼすかどうかはまだ分からない。どちらにしろ、いま最も差し迫った問題はカカオの価格だと思っている。

米国の菓子大手モンデリーズのルカ・ザラメッラ最高財務責任者(CFO)は、新しい収穫豆(ニュークロップ)のデータが出揃う9~10月に価格修正が起こると予想している。カカオの価格はすぐに安定するか?

収穫量が重要な要素になるだろう。需要が下がるかどうかはまだ分からないが、価格が上がれば需要も自ずと修正されるだろう。

だが今のところ供給不足が続いている。ここ2年ほど、収穫量が生産に使われる量を下回っている。天候や病気も考慮しなければならない。先のことは分からない。

最後にカカオの価格が乱高下したのは1970年代だった。正常な状態に戻るまで5年ほどかかった。長い旅だった。

チョコレートは他の商品よりもブランドによる訴求力が高い。今後数年間の値上がりでこれが試されると思うか?

間違いない。強力なブランドとして優位な立場にあるリンツにはチャンスがある。消費者はすでに、私たちが提供する優れた品質の対価として、高いお金を払うことに前向きだ。

チョコレートの価格がどこまで上がるかは、原材料のコスト次第だ。競合他社に比べれば私たちは有利だ。

編集: Mark Livingston、英語からの翻訳:大野瑠衣子、校正:ムートゥ朋子

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