「人任せのベテランではいけない」 バスケ川崎一筋12年、長谷川技がハッとさせられた後輩の姿

3ポイントシュートを狙う長谷川技。数々の勝負を決める1本を沈めても本人は「練習通りです」と淡々【写真:B.LEAGUE】

連載「川崎ブレイブサンダースNOW」第5回、長谷川技インタビュー後編

バスケットボールBリーグの川崎ブレイブサンダースは、前身の東芝時代の栄光を受け継ぐ国内屈指の強豪クラブ。熱狂的なファンがアリーナをブレイブレッドに染め上げ、今季も上位争いを演じてきた。そんな名門のリアルな姿に、選手のインタビューやコート内外のストーリーで迫る連載。今回は2012年の加入以来、攻守にわたって輝きを見せるクラブ一筋12シーズン目の長谷川技だ。後編ではキャリアで初めてポストシーズン進出を逃したなかで、34歳となった今も高い精度を誇る「コーナースリー」と、刺激を受けた出来事について振り返った。(取材・文=青木 美帆)

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前編では長谷川技に高校・大学時代を振り返ってもらいながら、チーム状況に応じて培ってきたディフェンスや危機察知能力について語ってもらったが、彼のもう1つの代名詞と言えるコーナー付近からの3ポイントシュートも、プレーする中で自然と定められた役割だった。

きっかけや時期は本人も定かでないそうだが、「ハンドラーはいっぱいいますし、黙ってコーナーで待っていたらボールが来るし、自ずとコーナーでシュートを打つことが当たり前になっていった」と話した。

コーナースリーは一般的に、ここでボールを受けたら必ず打ち切らなければいけない、“最終局面”のシュートだと言われている。そして川崎にとって、長谷川がコーナースリーを打てるか、打てないかは、オフェンスの好不調をはかる1つのバロメーターでもある。

「(藤井)祐眞とニック(・ファジーカス)のピック&ロールも大きな武器ではありますけど、僕がコーナーでシュートを打てている時って、ボールが回っていいオフェンスができているということだと思うので。逆に僕がシュートを打てていない時はボールが回っていない印象です」

ちなみに長谷川は、ヒーローインタビューで勝負どころのコーナースリーを決めた時の心境を尋ねられると、「練習通りです」と茶目っ気混じりに言うことを半ば定番としている。「練習通り」とは言うが、一体どんな練習をしているのか。例えばコーナースリーだけをひたすら打ち込んでいたりするのか。

長谷川は「たぶん普通の、みんながしているような練習です」と笑ってこれを否定し、試合で起こり得るボールと人の動きを想定したシューティングを行い、コーナースリーは多少多く打つ程度だと言った。角度を変えてしつこく質問を重ねたが、本人は「練習通りのことしかやっていない」と繰り返した。

「入る・入らないは日によって違いますし、4月頭くらいまでは怪我の影響で感覚がイマイチではありましたけど、入らないことをそこまで気にはしていなかったです。いつもどおりやっていけば、練習していれば、そのうち試合でも入るだろうと打っていました」

チャンピオンシップ自力出場に向けて後がない状況で迎えた4月27日のサンロッカーズ渋谷戦(69-68)で、長谷川は勝利を大きく引き寄せるタフショットスリーを沈めている。これについても長谷川は「ディフェンスにハンドチェックされた状態で打ち切る練習はしていたので」と「練習通り」をアピールした。

長谷川はなんてことのないように話すが、練習したことを本番で体現することも、調子が良い時も悪い時も淡々とやるべきことをやり続けることも、まったくもって簡単なことではない。長谷川はそういった点でも稀有なプレーヤーだ。

寡黙な男が今季は飯田遼ら年下の選手に様々なアドバイス。「言葉にして伝えるのは難しい」と笑顔で振り返った【写真:川崎ブレイブサンダース】

キャリア初の悔しさと後輩たちとの交流

最終的に川崎は33勝27敗、中地区4位の成績で今季のB1リーグを終えた。長谷川にとっては2012年の加入以来、初めてポストシーズンを戦わないシーズンとなった。

「怪我人が出て、なかなかチームとして波に乗れないままシーズンが続いて、結果的にチャンピオンシップに出られなかったんですけど……まぁ、悔しいですね。ただただ。接戦をものにできない試合も何試合もあったし、そういうところが最終的にこういう結果を招いたのかなと思います」

シーズン最終戦となった5月5日の横浜ビー・コルセアーズ戦後、長谷川はこう言った。

今季の川崎は、勝ち負けにチーム全体の精神状態が大きく左右される、非常に不安定なシーズンを過ごした。「いい時はチーム全体がどんどんいい方向に行くけれど、チームとしてゲームプランが遂行できないことも多く、ミスが続くと一気に下を向いてしまうことの多いシーズンでした」と長谷川は振り返った。

チームとして結果は出なかった。しかし、今季は長谷川に新しい風が吹いたシーズンだった。

長谷川は今季加入した飯田遼に請われ、自身の技術や知見を他人に教えるという経験を初めてした。「今までは聞かれたことがないので教えることがなかったですけど、ディフェンスの手の使い方だったり、映像を見ながら『もうちょっと、こっちに行ったほうがいいよ』だったり。やっぱり言葉にして伝えるのは難しいなって思いました」と笑った。

その飯田は、4日の横浜BC戦(98-92)で河村勇輝に対して素晴らしいディフェンスを見せ、第1戦の勝利の立役者の1人となった。長谷川は「シーズンを通してなかなかプレータイムはもらえなかったけど、腐らずに毎日しっかりやってきた成果が最後の最後で出た」と愛弟子を讃え、「僕としても嬉しかったです」と目を細めた。

また、4月13日の信州ブレイブウォリアーズ戦(90-82)で、こちらも今季加入した野崎零也がディフェンスの戻りの遅さにチームメートに檄を飛ばしたことについて触れ、「ああいうところは本当に助かったし、シーズン序盤から出ていい言葉だったんじゃないかと思います」と言った後、「人任せにしているベテランもいけない。しっかりしなきゃいけないなと思いました」と、自らを顧みるきっかけを与えられたと明かした。

本稿執筆時点で、長谷川の去就は明らかでない。ただ、プロキャリアで初めて経験した痛みと気づきを携えて、引き続き“仕事人”ならではの妙味をコート内外で発揮してほしい。

■長谷川技(はせがわ・たくみ)

1989年7月21日生まれ、岩手県出身。190センチ・92キロ。名門・能代工業高で3年時のインターハイと国体の二冠を達成。卒業後は拓殖大に進学し、12年に東芝に加入した。オールラウンドな能力が光る選手で、鋭い読みを武器としたディフェンスも持ち味の1つ。在籍12シーズン目を迎えた今季も、攻守にわたってチームを支えた。

青木 美帆 / Miho Aoki

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