『猿の惑星/キングダム』監督インタビュー。「これは”はじまり”の物語」

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人気シリーズの完全新作『猿の惑星/キングダム』が本日から公開されている。監督を務めたのは、『メイズ・ランナー』シリーズを成功に導いたウェス・ボールで、本作では新たな“はじまり”の物語を描いたと語る。

物語の舞台は、いまから約300年後の未来。ウィルスによって猿が圧倒的な進化を遂げ、この惑星の“支配者”として君臨するようになった。一方、かつて支配者だった人間は退化し、猿たちから隠れて暮らしている。

若い猿ノアは、強大な力で相手を支配する王国=キングダムの建設を目論むプロキシマス・シーザーの軍団によって村と仲間を奪われ、すべてを取り戻す旅に出る。彼はそこで人間の女性ノヴァに出会い、行動を共にするが、彼女はこの惑星の命運を左右する“ある秘密”を握っていた。

これまでの『猿の惑星』シリーズは、進化を遂げた猿と、支配される人間の対立が描かれたが、本作では「人間と猿は共存できるのか?」という新たなテーマが据えられた。

「このような物語になることは自然な流れだったと思います」とボール監督は振り返る。

「観客は本作を観始めた時は『これは主人公ノアの物語なんだ』と思うかもしれませんが、観ていくうちに『これもまた人類と猿の物語なんだ』と気づくと思います。人間の女性ノヴァは、謎に満ちていてミステリアスなキャラクターとして登場し、その謎は少しずつ明かされていきます。

ノアとノヴァは行動を共にし、やがてそこに緊張が生まれますが、相手に対してどのような態度をとるのかお互い決めきれていない。猿のノアは人間たちに対してどう振る舞うのか? 人間のノヴァは猿たちに対してどう行動するのか? そこには緊張だけでなく希望もあると思うのです」

この物語は、人間と猿の立場が逆転してから数世代が経った時代が舞台になるため、人間が惑星の支配者だったことを経験していないキャラクターしかいない。猿は知能が高く、人間は動物のように生きている。それが普通の世界だ。しかし、そんな“普通”が揺さぶられる。

「ノヴァは生まれた時から“猿とはこういうもの”とずっと教わってきてたのに、ノアの出現によって固定観念が完全に壊れるわけです。ノヴァはそこですぐに変化することはできないのですが、変化のはじまりは見てとれます。自分がそれまで教わり、世界はこういうものだと思っていたものが完全に壊れた時、彼女はどう行動するのか?

ノアも旅を通じて、無垢な存在から別の道へと歩き始めます。ですから、この映画のノアのラストショットは“ある意図”をこめて描きました。彼の最初の表情から変化しているのを感じてもらえると思います」

『猿の惑星』は、観客が“自分自身”を投影できる

ウェス・ボール監督

映画は、仲間を取り戻すために強大な王国に立ち向かう猿ノアのドラマ、彼が出会った人間ノヴァのドラマが並行して描かれる。そのため、物語はキャラクターやアクションに“伴走”するように寄り添い、ノアとノヴァの視点を行き来する。

「本能的にやっていることなので、自分で明晰に説明はできないのですが、常に“視点”について、カメラを置く位置について、そのショットの中で何が見えていて、何が見えないのかについては考え続けています。どの作品を撮る時でも観客が“体感”していると感じてもらえる視点を持ちたいと思うのです。

さらに本作では視点をふたつ持つことを制作の初期の段階から決めていました。ある時点ではノアの視点から物語を描き、ある瞬間に彼が見ていたノヴァの視点にシフトする。ふたつの視点で最後まで描こうと思ったわけです」

ノアとノヴァはそれぞれが大きな変化に向き合い、相手に対してどう振る舞うべきか揺れ動く。新しいキャラクター、新たな旅、新たな出会いと変化のはじまり。完全新作だけにその展開は予想がつかないものになる。

「シーザーを主人公にした前三部作(『猿の惑星:創世記』『…新世紀』『…聖戦記』)は“終末”が描かれたと思います。シーザーの人生と物語の終末、人類が支配者だったそれまでの世界の終末。しかし、この作品から新しい章になります。つまり、これは”はじまり”の物語。猿と人間が複雑な関係をどう扱うのかが描かれるのです」

興味深いのは、過去作でも神話を感じさせる描写を多用してきたボール監督が、『猿の惑星』という神話的なドラマの監督に就任したことだ。

「そう言ってもらえるのはうれしいです。子どもの頃から古典的な英雄の旅や、神話的なドラマに魅了されてきましたし、私の映画のスタイルは神話的なもの、神秘的なドラマと相性が良いという自覚もあります。宮崎駿監督の作品にも普遍的なヒーローについての人間的な物語を描いたものがありますよね。私はそういう作品にもすごく惹かれるんです。

この映画では特に“神話性”について話し合いました。シーザーの神話について、ノアの道のりについて考えましたし、いくつかの場面では神話を感じさせるような、主人公の運命を感じさせるようなショットを意識して入れています。

『猿の惑星』の面白いところは、観客がスクリーンの世界に“自分自身”を投影して観ることができるところだと思います。観客のみなさんには映画館で観て、楽しんで、いろいろと考察してもらいたいです」

『猿の惑星/キングダム』
公開中
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