プレハブメーカーの木造シフトより鮮明に。旭化成ホームズが木造軸組の試行販売開始

プレハブメーカーの木造へのシフトがより鮮明になってきた。旭化成ホームズは、新たに木造軸組工法の木造住宅「Asu-haus(アスハウス)」を試行的に販売することを発表。今後の反響などを見ながら本格的な事業化を検討していく。

旭化成ホームズでは、かつて「スクラムハウス」として木造住宅事業に進出したが、撤退した経験がある。しかし、脱炭素化への流れを踏まえながら、社内で木造住宅事業の可能性を検討し続けてきたという。

今回、木造住宅の新ブランドとして「Asu-haus」を立ち上げ、東京都日野市に宿泊体験ができるモデル棟をオープンさせる。

東京都日野市にオープンする宿泊体験ができる「Asu-haus」のモデルハウス

断熱等級7を標準仕様に 坪135万円でエリア・棟数限定で先行販売

同社の川畑文俊社長は、「まずはエリア、棟数を限定して販売を行い、マーケットの評価を考慮しながら本格的な販売に踏み切るかを検討していく。本格的な事業化に踏み切る場合、別会社を設立する可能性もある」と語る。

販売エリアは東京都城南・城西地区や都下の一部の地域に限定し、2024年度16棟、25年度に25棟を上限として販売を行っていく。

建物については、地域の自然環境に溶け込むシンプルな切妻屋根が特徴的なデザインを採用した、木造軸組工法の低層住宅となっている。また、断熱等性能等級7を標準仕様としているほか、全熱交換型換気システムやエアコン1台の全館空調方式など導入する。耐震等級3、耐風等級2も取得し、ハイスペックな仕様となっている。

坪単価は135万円から。坪単価だけで言うと、一般的なヘーベルハウスを上回る設定になっているという。一般的な木造軸組工法の住宅としてはかなり強気な値段設定になっているが、事業を担当するGREENOVATION推進室の白石真二室長は、「断熱等級7を標準仕様とするなど、ハイスペックな住まいが提供する健康や快適といった暮らしの価値を訴求していきたい」としている。

坪単価135万円からという値段設定からも分かるように、普及価格帯での価格競争力を強化するために木造住宅事業に挑戦しようというわけではないようだ。川畑社長は、「社会的な木造化の流れのなかで、政府の補助金なども木造の方が利用しやすい状況がある。SDGsといった潮流も踏まえて、当社の強みを十分には発揮できないエリアでの木造住宅の提供を検討していきたい」と木造への進出の理由を説明する。旭化成ホームズが得意とする都市部だけでなく、都市周辺の郊外エリアでは木造ニーズが高いだけに、エリア戦略の一環という意味合いもあるようだ。

また、ヘーベルハウスという軽量気泡コンクリート版による住まいづくりを特徴としてきた同社だけに、木造住宅への再進出が新たなスプリングボードになるか注目される。

断熱等級7を標準仕様にするなど、ハイスペックな木造住宅に

転換期を迎えた工業化住宅 時代を彩ったレガシーになるのか

ここにきて、プレハブ住宅メーカーの木造シフトが鮮明になってきている。大和ハウス工業では、戸建住宅の7割を木造化していく方針を打ち出している。その多くは軸組工法など採用していくという。

積水ハウスでは、グループ会社である積水ハウス ノイエにおいて、かねてから木造住宅事業を展開している。当初は軸組工法を採用していたが、シャーウッドなどにも採用している「基礎ダイレクトジョイント構法」を導入。生産体制も設計から構造計算、生産、施工、アフターサービスまでを積水ハウスグループが一貫して取り組む形へと変更している。

加えて同社では、「SI事業」として、工務店などに「基礎ダイレクトジョイント構法」を採用した構造躯体の施工を請け負うサービスも提供している。

こうした積水ハウスの動きは、自社で開発したオリジナル構法をオープン化しようという動きであり、もともとオープン工法である軸組工法を使っていこうという大和ハウス工業などとは少し戦略が異なっていると言えそうだ。ただし、住宅型式性能認定を取得した工業化住宅ではないという点では共通している。

積水ハウスは、工務店などに「基礎ダイレクトジョイント構法」を採用した構造躯体の施工を請け負うサービス「SI事業」を展開

当然ながら、3社ともに工業化住宅を中心とした事業モデルをすぐに変革しようというわけではないだろう。しかし、工業化住宅がひとつの転換点を迎えているとの見方もある。

プレカット材の普及によって、軸組工法は工場を自社で保有することなく、ある程度の工業化を行えるようになった。その結果、価格競争力も向上している。加えて、一定以上の「量」が必要となる工業化住宅にとっては、新築市場が縮小するなかで工場を維持し続けることは容易ではない。

さらに言えば、例えば省エネに関する公的な基準が目まぐるしく変わるなかで、仕様変更に伴う認定の再取得が求められることもあり、よりハイレベルでの性能競争に後れを取る懸念さえある。

だが、その一方では職人不足、施工力不足への対応という点では、工業化住宅が果たす役割が再び重要になるとの見方も強い。

世界に類を見ない規模のハウスメーカーを誕生させた工業化住宅。今後、さらに進化していくのか、それとも一時代を築いたレガシーとなるのか―。木造化の動きと共に今後の動向から目が離せない。

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