1匹のメス猫が3年で2000匹に… 殺処分を減らすため「TNR活動」を啓発する元女性アスリート

譲渡会などで保護動物の啓蒙活動を行っている高木真備さん【写真提供:高木真備】

猫を家族の一員としてお迎えする方法として、保護猫の譲渡を選択する人が増えています。そうした保護猫をお世話し、行き場を失っている猫の命を守るため、積極的に行動している人たちが少なくありません。コラムニスト・峯田淳さんが、保護猫活動について連載する企画。今回は、犬や猫の保護のため、トップ選手を電撃引退した元女性アスリートの活動に迫ります。

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「猫の繁殖力はすごい」 殺処分を減らすためにできることを…

保護猫活動はいろんな人がやっています。組織を作ってやっている人、前回紹介した「はっち」さんのように個人で100匹以上もお世話している人、個人で数匹飼っている人などさまざまです。

仕事柄、おつき合いのある高木真備さんという元ガールズケイリン(競輪)の選手がいます。22年に現役を突然引退し、保護猫、保護犬活動を始めた珍しい経歴の人です。保護活動を始めたのにはどんな経緯があり、どんなことを行っているのでしょうか。

「もともと幼稚園のときにハムスターやうさぎを飼っていて、小6で初めて犬を飼いました。その17歳になる犬は今も飼っています。それから人と動物の関係には限りない可能性があると感じて、福祉施設を立ち上げ、保護犬と過ごせる空間を作る活動もやっています。そのために里親になったトイプードルが1匹、里親を探すまでの間預かる、預かりボランティアの犬が2匹います」

猫は母親がずっと飼っていましたが、17歳の愛犬が若い頃から猫が苦手だったので、一緒に暮らすのは負担になると思い、猫は家では飼っていないとのこと。ただし、「猫が好きじゃないということではなくて、保護活動をやると決めたときから猫のことも勉強をし、活動をやり続けています」と明かしました。

保護活動をする人のおかげで出合えた猫たち。奥から、クールボーイ、そうせき、ガトー【写真:峯田淳】

保護猫活動としては譲渡会の企画や啓発活動として学んだことを伝える活動がメインです。たとえば最近広がっているTNR活動。Tは猫を捕獲する「Trap」、Nは猫に新たに子猫を産まないようにするために不妊・去勢手術する「Neuter」、Rは猫を元いた場所に戻す
「Return」という意味です。飼い主のいない猫を捕まえて不妊・去勢手術をし、繁殖するのを防ぎ、殺処分を減らすために全国で実施されています。

「猫の繁殖力はすごいので、産まれてきても行き場がないと判断された多くの子猫が殺処分されています。その事実とそれを防ぐためにできることを大人はもちろん、子どもたちにもわかりやすいようにクイズ形式で伝えています」

クイズ形式で子どもたちにもわかりやすく解説する高木さん【写真提供:高木真備】

1匹のメス猫が3年で何匹に増えるのか?

猫は1歳という若さで子どもを出産でき、さらに1度にたくさんの子猫が産まれます。それが繰り返されたら、1匹のメス猫から3年で何匹の猫になるか――。

「計算上は3年で2000匹という政府が出している統計があるので、<1>20匹<2>200匹<3>2000匹<4>2万匹の4択で答えてもらいます。2000匹も生まれるのがわかったら、殺されるのをどうやって防ぐかを考えてもらって、TNR活動を教えるようにしています」

また、庭にやってきた野良猫にごはんをあげている人には、不妊・去勢手術をしているかどうかを確認してもらい、していない場合は子猫を増やすことにつながるので、TNRをやってあげるように、お願いしているそうです。

「猫を捕獲して動物病院に連れて行き、行政で手続きすれば助成金が出る自治体もありま
す。TNRで手術が終わった猫はその目印として耳がカットされるのですが、なぜ外で見かけた猫の耳がカットされているのか知らない方まだたくさんいらっしゃるんですよね。人が苦手な野良猫はつかまえるのが大変です。興味がある方にはどうやって捕獲するか、そ
のやり方もお伝えしています」

競輪専門チャンネルに出演する高木さん【写真:峯田淳】

真備さんは元選手といってもただの選手ではありません。2021年には年間のチャンピオンを決める「ガールズグランプリ」を走って優勝した「女王」です。しかも、アイドルのようなかわいらしさ、「まきび」という一度聞いたら忘れられない名前でもファンを熱くさせたチャンピオンです。

ガールズケイリンの将来を背負って立つ存在。誰もがそう思い、期待は大きかったのですが、チャンピオンになった年が明けると間もなく、電撃引退しました。理由を聞いて、2度ビックリです。ずっと考えていた保護猫、保護犬の活動をやりたい――。

これからというときですから、最初はほかにも引退する理由があるのではないかという声もありました。しかし、各地の競輪場などで「わんにゃんフェスティバル」といったイベントを企画し、犬猫を現地に連れて行き、地道に保護活動している高木さんの姿を何度も見かける機会がありました。引退から2年余り。その間にすでに20か所近い競輪場などの公営のギャンブル場で犬猫の保護活動を行ったそうです。

ギャンブル場はれっきとした公共施設。元「女王」とはいえ、20か所も場所を借り、保護活動をやるのは簡単なことではありません。次回はその内容について。

峯田 淳(みねた・あつし)
コラムニスト。1959年、山形県生まれ。埼玉大学教養学部卒。フリーランスを経て、1989年、夕刊紙「日刊ゲンダイ」入社。芸能と公営競技の担当を兼任。芸能文化編集部長を経て編集委員。2019年に退社しフリーに。著書に「日刊ゲンダイ」での連載をまとめた「おふくろメシ」(編著、TWJ刊、2017年)、全国の競輪場を回った「令和元年 競輪全43場 旅打ちグルメ放浪記」(徳間書店刊、2019年)などに加え、ウェブメディアで「ウチの猫がガンになりました」ほか愛猫に関するコラム記事を執筆、「日刊ゲンダイ」で「前田吟『男はつらいよ』を語る」を連載中。

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