市川染五郎「鬼平犯科帳」への出演は、父・松本幸四郎の「力になれたらという心境で」 鋭いナイフのような若き“鬼平”役で存在感

池波正太郎さんによる傑作時代小説『鬼平犯科帳』。これまで何度も映像化されてきた人気シリーズの劇場版「鬼平犯科帳 血闘」が5月10日より公開中です。

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主人公は言わずと知れた“鬼の平蔵”こと、火付盗賊改方長官・長谷川平蔵。最新作では平蔵が“本所の銕(てつ)”と呼ばれ、放蕩無頼な生活を送っていた青春時代も描かれます。

そんな銕三郎を演じるのは市川染五郎さん。父・松本幸四郎さん扮する平蔵の若かりしころを演じた心境や撮影の裏側についてインタビュー。

さらに、染五郎さんの“いま”を深掘り。にじみ出る色香の秘訣やプライベートに迫りました。(全3回の1回目)

<市川染五郎 インタビュー> <市川染五郎 インタビュー>

――「鬼平犯科帳」といえば、初代松本白鸚さんや二代目中村吉右衛門さんなど、染五郎さんに縁のある方が主演を務めてきた作品ですが、シリーズに参加することへの思いを聞かせてください。

実は出演が決まるまで「鬼平犯科帳」をきちんと拝見したことがなく、(中村)吉右衛門の叔父さまがずっと演じていらっしゃる時代劇、というくらいの認識しかなかったのですが、父が出演した『鬼平犯科帳スペシャル 引き込み女』(2008年/フジテレビ)を見て、こんなにも面白い作品だったのかと衝撃を受け、もっと早く見ておけばよかったと後悔しました。

長谷川平蔵という役柄を引き継ぐことは父にとっても大きな挑戦(※)だったと思いますし、少しでも父の力になれたらという心境で出演いたしました。

(※中村吉右衛門さんが主演したドラマシリーズは、2016年までフジテレビで放送。松本幸四郎さんは市川染五郎時代に2008年の『鬼平犯科帳スペシャル 引き込み女』で初めて『鬼平犯科帳』に出演した)

――完成した作品を観てどのようなことを感じましたか?

時代劇専門チャンネルで放送されるテレビスペシャル「本所・桜屋敷」と、劇場版の「血闘」を同時進行で撮影していたので、どちらの作品を撮っているのか現場で混乱してしまうこともありましたが、完成したものを見比べてみると、「血闘」は映画館のスクリーンで上映されることを意識したスケール感と迫力に圧倒されました。

自分たち役者がやることに変わりはありませんが、監督をはじめとするスタッフの皆さんにはドラマと映画で作り方の違いがあると思うので、そこに立ち会えたことも新たな発見がありましたし、貴重な経験となりました。

――撮影を振り返ってみての感想を聞かせてください。

現場がとても居心地のいい撮影チームでした。温かい空気感の中、撮影をすることができました。ですから、撮影が終わったときはとても寂しかったです。

僕の出演は現状「本所・桜屋敷」と「血闘」の2作品だけということになっているのですが、機会があればまた銕三郎になってみたいというのが個人的な願いで、それほど愛着のある役柄になりました。

――銕三郎をメインとした外伝やスピンオフを見てみたいです。

もし、作っていただけるのならそれはとてもありがたいことですね。

役作りは父の“平蔵”を自分の中にしみ込ませていく作業から 役作りは父の“平蔵”を感覚として自分の中にしみ込ませていく作業から

――「血闘」は酔った銕三郎が、くだを巻くシーンから始まりますが、どんな心境で演じていましたか?

いやぁ、まだ20歳になっていないのにいいのかなと思いながら酔っぱらっていました(笑)。銕三郎にとって、盗人酒屋で飲んで酔いつぶれて、おまさ(中島瑠菜)に介抱されるのはいつものことだと思ったので、日常の中のひとコマということを意識してやっていました。

――同じ人物を演じるにあたって、幸四郎さんと話したことはありますか?

父と意見を交換し合ったり、芝居をすり合わせたりということはほとんどなく、仕草や佇まいにおいては、お猪口(ちょこ)の持ち方を尋ねたくらいです。

銕三郎と平蔵がリンクするような場面は、父が先に撮影をしていたら、そちらを見てから自分の方の撮影に臨むということはありましたが、理屈でお芝居を作っていくのではなく、父の平蔵を感覚として自分の中にしみ込ませていくという感じでしたね。

銕三郎にとって平蔵は未来の自分の姿で、未知の時代でもあるので、逆に父が演じる平蔵を意識することはあまりなかったです。

――役柄をはなれたところで幸四郎さんと似ていると感じるところはありますか?

やはり親子ですので、舞台に立っていると、顔つきが似ている瞬間や、舞台での発声の仕方が似ていると言っていただくことがあります。普段の声はまったく違うんですけどね。

歌舞伎と時代劇の殺陣はまったくの別物だった 歌舞伎と時代劇の殺陣はまったくの別物だった

――年齢を重ねた平蔵は長官としての貫禄にあふれていますが、銕三郎はまだ青さを感じさせる役柄です。演じるうえで意識したのはどんなことですか?

若いころから「鬼銕(おにてつ)」と呼ばれ恐れられた人物ですから、存在感や威圧感を出せたらと考えていましたが、やはり、長谷川平蔵が主役の作品で、存在感を出し過ぎてしまっては意味がありませんので、そのあたりの塩梅が難しかったです。

僕自身が現在19歳で、銕三郎も10代後半くらいの設定。だけど、脚本を読んで感じた雰囲気から、もう少し上の年齢を意識したほうが銕三郎っぽくなるのではないかと考えたので、25、26歳ぐらいを想定しつつ、若さゆえの危なっかしさ、ナイフのような鋭さを出したいと思って演じていました。

――銕三郎と染五郎さんの共通点はありますか?

僕もどちらかというと突っ走ってしまうタイプといいますか、やると決めたらきちんとやらないとどうにも気持ち悪くなってしまうので、そこは似ているのかもしれません。

――銕三郎の見せ場の一つに土壇場の勘兵衛(矢柴俊博)宅での立ち回りがありますが、歌舞伎の立ち回りとの違いについて聞かせてください。

歌舞伎のほうは決まった形の美しさ、魅せることを意識した様式的な殺陣で、時代劇の場合はもっとリアルといいますか、一手一手がとても細かく速い。そういう意味では歌舞伎と時代劇の殺陣は別物です。だからこそ、新鮮な気持ちで臨むことができました。

作品に携わった全員のこだわりを受けとってほしい 作品に携わった全員のこだわりを受けとってほしい

――物語では、銕三郎とおまさ(中島瑠菜、後に中村ゆり)の若いころ、そして、大人になってからの姿も描かれていますが、二人の関係性も見どころの一つですね。

おまさのほうは明らかに銕三郎のことを好いている描写でしたが、銕三郎にとっておまさは恋人ではなく、妹のような存在なので、決して恋人には見えないよう、距離感や接し方など意識しながら向き合うようにしていました。

――池波正太郎作品では登場する料理もファンにとって大きな楽しみです。気になる料理はありましたか?

「血闘」で銕三郎がお酒を飲んでいるシーンは登場したものの、何かを食べているシーンというのはまったくなくて、「本所・桜屋敷」では軍鶏鍋を食べるシーンがありました。この軍鶏鍋がとにかくおいしくて、監督の「カット!」の声がかかってからもずっと食べていました(笑)。“鬼平”というと、やはり軍鶏鍋のイメージが強いですね。

――「血闘」には、芋酒という珍しいお酒も登場しますが、ご存じでしたか?

まったく知りませんでした。あと1年で20歳になりますので、そのときはぜひ飲んでみたいと思います。

――お酒は飲める口だと思いますか?

母は強いほうで、父もそんなに弱いというわけではないので、飲める家系だとは思います。最初の乾杯は家族とすることになるんじゃないかな。こればっかりは自分がどう頑張っても20歳にならないとできないことですから、今から楽しみにしています。

――公開を楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いします。

物語自体もとても面白いのですが、何より映像が美しいです。作品に携わった方全員が強いこだわりをもって臨んだ作品ですので、そのこだわりに着目しつつ、作品に懸けた熱い思いを受けとっていただきたいです。

撮影:今井裕治

市川染五郎メッセージ&作品概要 市川染五郎メッセージ&作品概要

劇場版「鬼平犯科帳 血闘」

公開中

長谷川平蔵(松本幸四郎)が若かりし頃に世話になった居酒屋の娘・おまさ(中村ゆり)が密偵になりたいと申し出てくる。平蔵はその願いを退けるが、おまさは平蔵が芋酒や『加賀や』の主人と盗賊の二つの顔をもつ鷺原の九平(柄本明)を探していることを知り、独断で探索に乗り出す。九平を探すうちに兇賊・網切の甚五郎(北村有起哉)の企みを知ったおまさは、首尾よく網切一味の中へ。しかし、おまさは絶体絶命の危機に陥る。

公式サイト:https://onihei-hankacho.com/movie/

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