J1横浜FM戦で浮上の兆し「浦和【ヘグモ監督】が目指すサッカー」(2)2得点の伊藤敦樹が語る「弱気と信頼」と96分の「失点」

横浜F・マリノス戦で2得点を挙げてチームを勝利に導いた伊藤敦樹。その胸中に迫る。撮影/重田航

明治安田J1リーグ第12節、浦和レッズ対横浜F・マリノス戦が5月6日、埼玉スタジアム2002で行われた。この試合は、浦和レッズ(以降、浦和)が浮上するきっかけになるようなゲームだった。また、ペア・マティアス・ヘグモ監督の目指すサッカーが何かも、十分に知ることができた。
では、ヘグモ監督が目指すサッカーは何か、また、浦和の浮上のきっかけになる要素はなんなのかを、前編で解説した「浦和の先制点」と同様、具体的に分析していこう。

65分の2点目となった決勝点は、またしても伊藤敦樹のゴールだった。
伊藤がバイタルエリア中央にドリブルしてくるのと同時に、大久保智明が内側(中側)にランニングしてくる。通常は外側にランニングしてスペースを空けるのだが、大久保はあえて内側への動きを選択した。
大久保の動作によって右サイドバックとセンターバックが釣り出される。大外の左サイドには中島翔哉がフリーで待っている。
伊藤の選択としては、自分でシュートを打つか、中島にパスを出すかのどちらかになる。伊藤はこの場面を振り返って「いろいろ迷ったんですが、ニアが空いていたのでシュートを打ちました。よくないことも考えた」と述べる。
つまり、選択肢がいくつかあって、中島へのパスもあったが、シュートを選択したということだ。「よくないことも考えた」とは、シュートを打てるのに弱気になってパスを出すことを指している。

「よくないことも考えた」伊藤敦樹(中央)は試合後、胸中を語った。撮影/重田航

「結果を出せない自分を使ってくれた」監督に感謝

ここでも伊藤の選択肢は2つ以上あった。この2つの選択肢を作ったのは、大久保のフリーランニングだ。もし大久保が内側に走ってこなければ、伊藤はシュートを打つことができずに中島へのパスを選択することになったはずである。
選択肢が増えると逆に迷いも出てくるのだが、この日の伊藤がシュートを選択したのにはわけがあった。
試合前に、ヘグモ監督が伊藤に「今日は2点とってこい」と告げたという。ハーフタイムで1点を取った伊藤が監督に「1」と指をかざすと、「2」と監督から返ってきた。
伊藤はさらに「なかなか結果を出せない自分を使ってくれた」と監督に対する感謝を打ち明ける。監督と選手の信頼関係が少しずつ築かれつつある様子がうかがえる。
浦和の守備に関しては、86分の失点シーンに課題がある。

この試合で史上3人目のJ1通算600試合出場を成し遂げたGKの西川周作。ちなみに、歴代1位は672試合の遠藤保仁、2位は631試合の楢崎正剛である。撮影/重田航

86分の失点「ペナルティエリア内に6人の浦和選手」

右ウインガーのヤン・マテウスがカットインして中に入ってくる。このときの左サイドバックの渡邊凌磨のプレーには軽さがあった。軽率なプレーと言い換えてもいい。
タッチラインでボールをもつマテウスに足だけを出して防ごうとした。この場合、中を切って外にボールを出させるポジショニングをしなければならない。
同じように、エカニット・パンヤも同様のプレーをして、横パスを出させないようにしなければならない。
ペナルティエリアの中に、浦和の選手は6人もいてしっかりとブロックを作っていたのに、横浜のテクニックのある多彩な攻撃に、守備陣は突破されてしまったからである。
ヘグモ監督が会見で述べた「攻守において1人だけでなく、第一波、第二波と人が駆け上がっていく」サッカーを目指すなら、攻撃面だけでなく、守備面でも同様のプレーをしなければならないだろう。
そうした意味からも、マテウスにカットインされて横パスを出されないような守備をしなければならないのだ。こうした守備ができるようになれば、浦和は上昇気流に乗っていけるだろう。
中島のコンディションがさらに上がっていき、大久保とのコンビネーションが増えて行って「関係性」が強まっていけば、上位進出も可能になるはずだ。

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