ゴルフと認知症との親和性を考える

ゴルフは運動しながら残りの距離を計算したりスコアを数えたりします。適度なプレッシャーも脳に良い刺激を与えるため、楽しみながら行う「脳トレ運動」といえ、認知症予防に効果的といわれます。このことは本連載の第2回(GEW2023年4月号)で詳報しました。

公益財団法人日本ゴルフ協会(JGA)も、「ゴルフと健康部会」を2022年に立ち上げ、認知症を含む主要な疾患の予防と治療にゴルフが役立つことを啓発中。(図1)ゴルフ関係者は「ゴルフは認知症予防に効果的。だからゴルフをしよう」と口を揃えてアピールします。

図1JGAゴルフと健康ポスター2024

しかし私も含め、ゴルフ関係者は本当に認知症のことを理解しているのか?認知症の方と関わり、理解を深めているのだろうか?そんな疑問を感じていた折、認知症の方々と交流するイベントが神奈川県主催で3月11日に開催されるのを知り、足を運びました。(図2)

図2 オレンジ大使との交流会

開催の趣旨は、認知症の方が普段考えていることや悩みを直接本人から聴き、暮らしやすい社会をつくろうというもの。主催は神奈川県で、シニアライフセラピー研究所が横浜市内で運営しました。同法人はシニアの人生経験(シニアライフ)を活かし地域福祉の向上を目指すNPO法人(特定非営利活動法人)です。

神奈川県には「かながわオレンジ大使」(認知症本人大使)という制度があります。認知症の人が暮らしやすい社会を実現するため、認知症の方本人が思いを伝え、各々の活動を通じて情報発信する人を「かながわオレンジ大使」(以下、オレンジ大使)として県が委嘱する制度。令和3年4月に創設され、現在の委嘱者は12名。本人の希望や体調に合わせ、講演や音楽活動、手記の執筆など地域で活動をされています。

今回のイベントは参加者が5~6名のグループに分かれて語り合います。各グループには1~2名のオレンジ大使をはじめとする認知症の方がいました。認知症の方が6名(うちオレンジ大使4名)、一般参加者は17名の計23名で、4つのグループに分かれてディスカッションしました。テーマは「本人の声を聴き、考える」です。

一般参加者は、認知症関連グッズメーカーや医薬品・健康食品メーカー、介護・福祉関係者など。NTT人間情報研究所や、湘南ベルマーレフットサルクラブの社会課題解決事業部からも参加。フットサルクラブが社会課題の解決に取り組んでいることに驚き、ゴルフ界にもこのような取り組みが必要だと感じた次第。ちなみにゴルフからは私ひとり……。

イベントはオレンジ大使Yさんの司会で進み、オレンジ大使Yさんの約10分間のプレゼンを経てグループディスカッションに。ここでは1グループあたり20分。一般参加者が4グループのうち3グループを回ります。そして最後のグループで話し合われたことを各グループのホスト役が皆の前で発表します。(図4)

図4 グループディスカッション後の発表の様子

私は、旅行や手芸が趣味というSさん(83歳女性)と、ウクレレ奏者でケアプラザでの勤務経験があるIさん(女性)、そしてイラストが趣味でシンガーソングライターのMさん(68歳男性)の3名と話しました。どの方も認知症だと言われても分かりません。Mさんはオレンジ大使で、若いころにゴルフ経験も。Sさんは自転車を置いた場所が分からなくなり、家族総出で探したが見つからなかったというエピソードを披露。同じグループの一般参加者が「これ便利ですよ。私もよくなくすので」と、鞄に付けていた〝忘れ物タグ〟という商品を紹介してくれました。このタグを付けた自分の持ち物が何処にあるのかスマホで分かるそう。このように、認知症の方と会話することでニーズを把握し、商品開発するのだなと感じました。

認知症の方から得た学び

シンガーソングライターのMさんは、50歳でパーキンソン病を発症。57歳のとき通院の検査で認知症だと分かったとか。本人いわく「自覚症状はなく、検査がなければ分からなかった」。発見が早かったせいか、その後進行はしていないそう。

認知症は、発症する前に「軽度認知障害(MCI)」という段階があり、兆候が見られた時点で改善策が必要とされています。つまり検査による早期発見、早期治療が不可欠ですが、早い段階で検査を受ける人はとても少ないと聞きます。自治体が認知機能の検査イベントを開催しても人が集まらず、私自身も検査は未経験。秋田県には、地元のお笑い芸人が参加する「お笑い×運動」のイベントを開催し、楽しみながら認知機能などの改善を目指す取組をしている企業があると聞きました。(図5)

図5 秋田県お笑い×運動

ゴルフ界も、ゴルフが認知症予防に効果的とアピールするだけでなく、ゴルファーが、ゴルフを通じて抵抗なく認知機能検査を受けられる仕組みをつくることも必要でしょう。ゴルフ経験のあるMさんの言葉が、私の心に刺さりました。

「認知症患者の大半は年金暮らしのため、1回1万円、もしくはそれ以上かかるゴルフはとても無理。認知症と診断された人は運転免許が取り消しや停止となるため、移動手段も含めてハードルが高いんです」

ゴルフが如何に認知症患者に縁遠いかを知らされました。Mさんは、

「任天堂のゲームは良いと思う。ゲームで施設対抗のゴルフコンペをやっても面白いのでは?」

と付言しました。18ホール回るだけがゴルフではありません。ゴルフと認知症の親和性を高めるには、多くの課題と可能性がありそうです。


この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年5月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。

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