坂本冬美の『モゴモゴ交友録』南こうせつさん(75)ーーお会いするたびに大分名物の柚子胡椒を

南こうせつ、坂本冬美

ーー南こうせつさんといえば?

きっと多くの方は、ニヤリと笑みを浮かべ「そりゃ、なんといっても『神田川』でしょう?」とおっしゃると思いますが、当時わたしは3、4歳で、大人たちが口ずさんでいた記憶は残っていますが、歌の世界観を理解できるはずもありません。

だから、わたしにとってのこうせつさんは『夢一夜』です。覚えていませんか!? 資生堂「1978年冬のキャンペーンソング」で、着物を纏(まと)った小林麻美さんが、艶っぽく登場したあのCMです。

こうせつさんと初めてお会いしたのがいつなのか、記憶が定かではありませんが、わたしがデビューした当時、フォークソングと演歌・歌謡曲、この2つの間にはくっきりとした線が引かれていました。

演歌は七五調の歌詞があり、それに沿ってメロディをつけてくださることが多いので、基本的にはAメロ、Bメロがあってサビに繋がり、それが1番、2番、3番と繰り返されます。

対してフォークは、1番と2番では符割りが違っている場合が多く、ときとして字余り、字足らずの歌詞になることもあります。

フォークソングをカバーさせていただいたアルバム『Love Songs V~心もよう~』のなかで、かぐや姫の『妹』、こうせつさんの『夢一夜』を歌わせていただきましたが、この符割りの違いが最大の難関でした。

でも、です。よく考えてみると、心に響く歌、心に沁みる歌という意味でいうと、演歌とフォークは案外近いのかもしれません。

森進一さんが、日本レコード大賞を受賞された『襟裳岬』の作曲は吉田拓郎さん。わたしがカバーさせていただいた『また君に恋してる』は、ビリー・バンバンさんの歌ですし、小林幸子さんの『茨の木』は、さだまさしさんが小林さんのためにとお作りになった歌。

こうせつさんも、島倉千代子さんや、親友のあやちゃん(藤あや子)のプロデュースをされています。

ジャンルの壁を乗り越えてという言い方が正しいのか、時代がジャンルレスになってきているというのが正解なのか、わたしにもよくわかりませんが、生粋のフォークソンググループかぐや姫としてデビューされたこうせつさんは、間違いなくジャンルレスの人です。

『徹子の部屋コンサート』をはじめ、最近こうせつさんとご一緒させていただく機会が多いのですが、いつお会いしても、こうせつさんのまわりは柔らかな空気に包まれています。

フツーの格好で楽屋に入って来られても、衣装に着替えても、入って来たときと同じ空気感のままステージに出て行かれる。

リハーサルのときもそれは一緒で、ジャンルに関係なく「ここはこうしようよ」とか、「ここはこのほうがいいよね」とか、一人ひとりに役割を振り分けてくださり、和気藹々とした空気を作ってくださいます。それも、ごくごく自然な感じで。もう、さすがとしか言いようがありません。

お会いするたびに「よかったら」と、大分名産の柚子胡椒をくださるこうせつさんとは、どういうわけか、これまで深い関わりはありませんが、こうせつさんが作ってくださった曲をわたしが歌う日が来たら、いいなぁと思っています。

いつか、この思いがかないますようにと願いながら。こっそり、ひっそり、心の内に思いを秘めて。いかがでしょうか、こうせつさん。

さかもとふゆみ
1967 年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、最新シングル『ほろ酔い満月』が好評発売中!

写真・中村 功
取材&文・工藤 晋

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