北陸新幹線延伸で福井県歓喜の裏で…“貧乏くじ”鯖江市民から怨嗟の声が噴出

福井県鯖江市は眼鏡作りの街で知られる(C)日刊ゲンダイ

「新幹線のバカタレ!!」──。

60代後半女性の怒声がこだましたのは、福井県・鯖江駅前の路上だった。

福井県といえば、3月16日に北陸新幹線の金沢-敦賀間(約125キロ)が開業。東京から敦賀まで直通となったことで観光客が押し寄せた。GW期間中は福井駅、敦賀駅が新幹線特需で賑わう様子をメディアがひっきりなしに報じた。

「4月28日は開店史上最も予約が入って電話が鳴りやまず、断るのが大変なくらいでした。駅前は今まで見たことのない人混み。新幹線効果を実感しています」と、本紙記者が訪ねた福井駅付近のレンタカー屋もホクホク顔だった。

活気づく福井駅周辺とは対照的に、暗い表情を浮かべるのが鯖江市民だ。福井駅から15キロほど南に位置する鯖江市は、そのど真ん中を新幹線が走っているものの、停車駅はない。しかも特急「サンダーバード」「しらさぎ」の金沢-敦賀間が廃止されたことで、鯖江駅利用者は大阪、名古屋へ行くには敦賀駅での乗り換えが必要になった。

「とっても不便になったんですよ!」

冒頭の女性は鬼の形相でまくし立てる。

「要するに、とっても不便になったんですよ! 敦賀での乗り換え時間は10分ほどしかありません。若い人はいいだろうけど、この年でなおかつキャリーケースを引いていれば、なかなか厳しい数字。トイレに行こうものなら1便見送らざるを得なくなり、それだけで1時間もロスです。しかも、特急が廃止されたと同時に鯖江駅構内にあったコンビニまで撤退した。JRに伝えたい。サンダーバード、しらさぎを返せ~!」

鯖江市の観光客離れも不安視されている。日本海側最大級の規模を誇るイベントホール「サンドーム福井」(越前市)にアクセスするルートとして、最も便利なのが鯖江駅での降車だった。

「鯖江駅への特急がなくなったことで、サンドームでライブ観賞後に駅周辺に泊まる人が減ってしまうのではないか。翌朝の始発に乗って帰る、といった計画を立てにくくなりましたから」と、30代後半の男性が言えば、駅周辺で飲食店を営む60代女性は経営への不安を口にする。

「店のお客さんは確実に減っています。昨年の4月と比べると、60~70%ほどになった。特急がなくなったせいで、観光客やビジネスマンが鯖江に泊まる選択肢がほとんどなくなってしまったからでしょう。鯖江市だけが貧乏くじを引かされて、一気に街が寂れてしまったように感じます。人口は右肩上がりで敦賀市をしのぐ県内4位なのに、ないがしろにされているようで悲しい」

鯖江市民が口を開けば、聞こえてくるのは恨み節ばかりだった。新幹線延伸がすべての県民に歓迎されているわけではないようだ。

(取材・文=杉田帆崇/日刊ゲンダイ)

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