相続発生→口座凍結後も一定額の預貯金の引き出しが可能だが…知らないと損する「預貯金の返還」を求められるケースとは【相続実務士が助言】

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身内が亡くなった後、故人が契約していた公共料金や銀行での手続きが必要になります。「死去のあと、すぐに銀行口座が凍結されてしまって、葬儀の費用や生活費を引き出すことができなくて困った」という話を耳にすることがありますが、実際には「役所に死亡届を出したからといって銀行口座の凍結(入出金停止)が自動的に行われるということはない」と、相続実務士の曽根恵子氏は言います。曽根氏の著書『身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本』(扶桑社)より詳しく見ていきましょう。

故人の口座等は速やかに名義変更や失効手続きが必要

葬儀後は、行政での手続きに加え、故人が生前に契約していたサービスなどの支払いや解約、契約変更などの届け出を行わなければなりません。

なかでも重要なのは、電気やガス、水道などの公共料金です。故人が契約者となっていた場合は、利用廃止や名義変更を行いましょう。届け出は、窓口での受けつけ、ハガキの郵送や電話のほか、ウェブサイトでも行えます。なお、故人の口座から自動引き落としになっているサービスを継続して利用したい場合も、引き落とし口座の変更手続きが必要です。こうした手続きを忘れると、故人の口座が凍結された際、引き落としができなくなってしまいます。

故人の携帯電話の契約変更は、最寄りの携帯電話ショップの窓口で行えます。その際、携帯電話に入っていたSIMカードと、故人の死亡が確認できる書類、届出人の身分証明書などが必要となる場合があるので、まずは電話で確認をしておきましょう。

NTTの固定電話など、電話加入権をもっていた場合は、加入権承継の手続きが必要です。なお、電話加入権は相続税の対象になります。さらに、電話加入権がない固定電話の場合でも、契約内容に沿った解約・名義変更などの手続きが必要となります。

インターネット関係のサービスの解約・名義変更方法はプロバイダなど、契約している会社によって違うので、まずは電話や契約している会社のウェブサイトで確認しましょう。

[図表1]おもに名義変更と失効手続きが必要になるもの 出所:『身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本』(扶桑社)より抜粋

変更手続きが遅れると延滞金が発生する場合も

銀行口座は名義人が死亡すると金融機関によって凍結されます。故人の口座から自動引き落としになっていると、引き落としができず未払いになってしまうので注意が必要です。

カードや免許証は悪用防止のため早めに解約

運転免許証やパスポートなどは、有効期限を過ぎると失効しますが、そのまま放置しておくと、第三者に悪用される可能性もあります。できる限り早く返却しておきましょう。

クレジットカードは、引き落とし口座が凍結された場合、定期的な支払いや年会費などが未払いになってしまうほか、不正利用などの恐れもあるので、速やかに解約手続きをとりましょう。ただし手続きの方法が会社によって異なるため、まずは電話やウェブサイトで確認することを忘れずに。

[図表2]名義変更・失効手続きチェックリスト 出所:『身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本』(扶桑社)より抜粋

“一部払い戻し可”も…「遺品整理」をして故人の銀行口座を把握

故人がもっている銀行口座をすべて把握しているという人は、少ないのではないかと思います。まずは故人の持ち物を整理して、通帳やキャッシュカードがないかチェックしてみましょう。注意が必要なのは、ネット銀行を利用している可能性がある場合です。ネット銀行は通帳がないので、パソコンやスマートフォンなどをチェックします。金融機関からのメールや、インターネットのブックマークの履歴などを確認してみましょう。ネット銀行の口座が見つかった場合は、ネット銀行のカスタマーサービスに連絡して、手続き方法を確認するようにしましょう。

[図表3]生前の銀行口座の調べ方 出所:『身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本』(扶桑社)より抜粋 [図表4]ネット銀行の調べ方 出所:『身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本』(扶桑社)より抜粋

取り引きのない口座も忘れずに手続きを

10年以上、入出金などの取り引きがない口座は“休眠口座”とされ、預貯金は民間公益活動に利用されることになります。残高の少ない口座も忘れずにしっかり手続きをして、休眠口座にしないようにしましょう。

凍結中の口座でも一定額払い戻しが可能に

「死去のあと、すぐに銀行口座が凍結されてしまって、葬儀の費用や生活費を引き出すことができなくて困った」という話を耳にしたことがあると思いますが、役所に死亡届を出したからといって銀行口座の凍結(入出金停止)が自動的に行われるということはありません。金融機関は「名義人が死亡したことを知ったときに凍結する」というのが基本です。

故人の家族が金融機関に名義人の死を知らせて、口座を凍結してもらい、預金残高証明書を発行してもらいます。これは、故人の相続財産を守るための制度で、相続人のだれかが勝手に使ったりするのを防ぐためのものです。遺産の分割が決定すれば、口座の凍結は解除されます。

一方で、遺産の分割でもめて、何年も長引くという恐れもあります。そういったケースをフォローするため、2019年に「預貯金の払い戻し制度」が設けられました。これにより、各相続人は、凍結された預金口座から、決められた額まで払い戻しができるようになりました。金額は、下の図のように決まります。

[図表5]故人の預貯金は一定額払い戻し可能 出所:『身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本』(扶桑社)より抜粋

必要であれば、この預貯金を葬儀費用や相続税の支払い、生活費などにあてることができます。ただし、その金額が相続分以上の金額になった場合、返還を求められる可能性もあるので注意が必要です。

1つの金融機関からの払い戻しは150万円まで

払い戻しの限度額は法定相続割合に従って計算します。複数の金融機関に預貯金がある場合はそれぞれ払い戻しできますが、1つの金融機関からの払い戻しは150万円が上限。払い戻した金額は相続財産として取得したとみなされ、遺産分割の際に調整されます

「世帯主変更届」を提出する必要がある人の条件とは?

死後14日以内に世帯主変更手続きをしないと罰金も

世帯主が亡くなった場合、遺族の世帯構成によっては「世帯主変更届」の提出が必要となる場合があります。

世帯主となるためには、15歳以上であることが条件です。そのため遺族の世帯員が「妻だけ」「妻(母)と15歳未満の子」「15歳以上の子1人」といった場合は、世帯主になれるのは1人しかおらず、新しく世帯主となるのがだれなのか明らかです。この場合は自動的に世帯主が変更になるため、届け出の必要はありません。一方で、残された世帯員に「故人の配偶者と15歳以上の子の両方がいる」場合には、だれが世帯主になるかが明確でないため、世帯主変更届を提出しなくてはなりません。

世帯主変更届は、世帯主が亡くなってから14日以内に提出する必要があります。なお、身内が亡くなった際に市区町村役所へ「死亡届」を提出すると、戸籍に死亡が記載され、住民票から削除されるので、このときにあわせて届出を行うのがよいでしょう。

世帯主の変更を14日以上せずにいると、住民基本台帳法違反となり、場合によっては5万円以下の罰金が課せられることもあるので、忘れずに手続きをしましょう。

[図表6]世帯主変更が必要なケース 出所:『身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本』(扶桑社)より抜粋

世帯主が亡くなったら新世帯主を届け出る

残された家族(世帯員)が2人以上の場合、世帯主変更届(住民異動届)を市区町村役所に提出して世帯主を変更する必要があります。ただし、15歳未満の子は世帯主になれないので、残された家族で15歳以上の人が2人以上いる場合に、手続きが必要となります。

[図表7]世帯主変更届(住民異動届)の書き方とポイント 出所:『身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本』(扶桑社)より抜粋

健康保険は返却手続きをしカード類は適切に破棄を

世帯主の変更手続きとあわせてやっておきたい手続きがあります。残された遺族が、故人が加入していた健康保険の被保険者である場合、亡くなった翌日から健康保険が利用できなくなってしまうので、健康保険の資格喪失手続きも行っておきましょう(変更方法に関しては、40ページで詳しく説明しています)。

このほか、印鑑登録カードなど、故人が行政から発行された証明書や資料を持っていた場合は、これらを返却・破棄しなくてはなりません。なかには返却期限が定められているものもありますが、定められていなくとも速やかに返却手続きをとるように心がけてください。破棄する場合もハサミで断裁するなどの処分方法があるので、ウェブサイトなどで処分方法を調べてから適切な方法で処理を行いましょう。

曽根 恵子
株式会社夢相続 代表取締役
相続コーディネイター

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