「大人が入るより100倍いい」 プロ選手に共通点…少年野球で大事な“先輩”の教え

年齢の近い年上の存在が子どもの成長を促す(写真はイメージ)

子どもは近い年代から好影響…筑波大・川村卓教授が語る“お兄ちゃん的存在”の重要性

運動や勉強、私生活において、子どもは近い年代の“先輩”の影響を大きく受ける。筑波大学体育系教授で、野球コーチング論の研究を行う川村卓先生は、研究の一環でプロ野球選手数人にインタビューを行ったところ、全ての選手に共通したのは「小さいころに野球を教えてくれる“お兄ちゃん”的な存在がいたことでした」と明かす。

スポーツを始めるきっかけの1つに、「兄(姉)がやっていたから」という理由が挙がることは多い。同大学硬式野球部監督を務める川村先生は、少年野球チーム内でも、年上の選手を下の学年の練習に交えることは大事なことだと考える。「大人が入るより100倍いいんです」と力を込める。

少年野球の現場では大人がグラウンド内に入り、プレー中に様々な指示出しをするケースはよく見られる。しかし、その場合、選手が受動的になってしまい、大人が何を言うかだけをずっと見るようになるという。

一方、年上の子を入れると、一緒に遊ぶような感覚で教えるため、年下の子たちも楽しみながら野球を学ぶことができる。「そういう人(年上)がいるかどうかというのは、決定的な差になります」と言う。

川村先生の研究室が開いている「ほしぞら野球教室」でも、同様の傾向は見られるという。加入したての低学年の子どもたちはルールがわからず、モチベーションも下がりがちになるが、そこで「野球を覚えてきた年上の“お兄ちゃん”を練習に交えると、本当にうまく回り出すんです」と実感を込める。

ボール遊びができる公園が減り、“ご近所付き合い”も少なくなった現代社会では、そうした“お兄ちゃん的存在”を大人側でつくる必要がある。川村先生は「難しい課題ではある」としつつも、「(年上が教える)サイクルがうまく回っているチームは、選手の成長も早いし、次の世代も入団してきますね」と違いを語る。

筑波大・川村卓教授【写真:編集部】

「大人はどうしても、こうしなさい、ああしなさいと言ってしまう」

では、大人が“お兄ちゃん的存在”となって指導することはできないのだろうか。川村先生は少し悩む表情を見せながら「結局は、“一緒に遊べる”かどうかです」と語る。「大人はどうしてもこうしなさい、ああしなさいと言ってしまいますから。子どもの目線に立って“一緒に遊べる”ことが大事だと思います」。

そこで必要になるのは大人の“聞く力”だ。「いろいろなタイプの指導者がいるのはいいと思いますけど、子どもたちの言葉を聞けるかどうかだと思います」。聞く耳を持つことで、子どもたちから率先して話せるようになれば、年下の子たちに教える原動力となるし、リーダーシップも身に付いてくる。

野球教室でも、子どもたちに自分自身のプレーを解説してもらうようにしている。すると、指導者側では気付かないようなことを言い出す子もいるという。「僕もちょっとびっくりするようなことを、パッと言うこともあります」。

大人側は、子どもがミスしたり、できないことがあったりすると、「何でできないんだ」と思ってしまいがちた。そこで言いたい気持ちをぐっとこらえ、“お兄ちゃん的存在”に任せることができるか。いかに子ども目線に立てるかが、成長を促していく。(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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